ハーブ=「生活に役立つ香りのある植物」という定義(*1)からも、ハーブといえば人類に有益であるという前提をイメージします。
ところが、ハーブと呼ばれるものの中にも、人類にとって毒となる「有毒植物」が含まれています。
その毒は、一定の体質や身体的特徴のある人々にとって害になる可能性のあるものから、非常に毒性の高いものまで様々に存在しています。
(注 *1)「生活に役立つ香りのある植物」:日本メディカルハーブ協会による定義
また、有毒植物の中には、少量であれば”薬”になるもものあり、実際、医者の処方する薬の中にも有毒植物に含まれるものもあります。例えば、心臓病の薬ジギタリスは、同名の植物ジギタリスから作られていますが、この植物は心臓毒を持っています。適切な量を利用することで、薬として有効に作用するのです。
薬の場合は、有効成分を抽出するため、生薬(生の植物のまま)として利用するよりも、その効果や毒性が顕著になるでしょう。
興味深いことに心臓毒を持つジギタリスは、生の葉を煎じて摂取すると、致死量に達する前に胃を刺激し飲んだものを吐き出させるという作用があります。植物の持つ不思議な力、毒にも薬にもなるという働きは、「毒」という作用について深い思いを抱かせますね。
私たちが日常的にハーブを利用する場合には、「食品」として分類されたハーブを通常入手することになります。作用の激しいものは「医薬品」とされているため、医師の処方なしに国内で入手することはできないため、強い毒性のあるハーブを入手することはほとんどないでしょう。
さまざまなレベルの植物の毒性の中で、世界的にも知られ、歴史にも残るハーブの毒性について、いくつかご紹介しましょう。
●ハーブの毒性の例:
(*安全性の指標「AHPAクラス分類」については、ハーブ利用の安全性を参照)
1.ネトル(和名:イラクサ):安全性(AHPAクラス分類)「クラス1」
「利尿、浄血」などの効果でよく知られるポピュラーなハーブ、ネトルには、その葉や茎に、小さなガラス状のトゲ(シリカ)がついています。特に葉には、1枚の葉に数万本もこのトゲがあり、誤って葉が皮膚に刺さってしまうと、ヒリヒリする痛みが1日中続きます。ひきつけや嘔吐に至ることもあるのだとか。
これは、ネトルに含まれる成分の、ヒスタミン(アレルギーの元)と、神経伝達物質アセチルコリンがともに働くことで起きる症状です。
2.セントジョーンズワート(和名:オトギリソウ):安全性(AHPAクラス分類)「クラス2d」
セントジョーンズワートもその名をよく聞くポピュラーなハーブで、「抗うつ、消炎、鎮痛、沈静、月経前症候群(PMS)の軽減」などの効果で利用されます。
セントジョーンズワートには、「光毒性」(確認すること)という性質があり、紫外線に当たると、ヒペリシンという色素が反応し、これが皮膚に触れると炎症を引き起こします。セントジョンズワートをそのまま食べれば、体内にこのヒペリシンが吸収されるため、直後に日光に当たるのは避けるのが懸命です。その量によっては、死に至るほどの毒性もあります。例えば、羊では100gで致死量になります。
セントジョーンズワートは、とても有効なハーブでもあるため、利用方法に気をつけましょう。
3.ワームウッド(和名:ニガヨモギ):安全性(AHPAクラス分類)「クラス2b 2c 2d」
ワームウッドは、日本では和名「ニガヨモギ」で、虫下しの民間薬や衣類の防虫剤として知られることも多いでしょう。強壮作用や消化促進作用も持っています。生活の中で重宝されてきたハーブですが、その精油成分が神経に強く作用する毒性があります。
19世紀末ヨーロッパの芸術家たちに愛された「アブサン」酒は、このワームウッドを主原料に、アニスやウイキョウなどの香料を加えたアルコール分90度にもなる強いお酒(リキュール)でした。しかし、ワームウッドの強い神経作用から精神錯乱にいたることもあるということで、1915年にフランスで製造が禁止されたことでも有名なハーブです。
4.ベラドンナ(和名:オオカミナスビ、セイヨウハシリドコロ):安全性(AHPAクラス分類)「クラス3」
日本ではあまり馴染みのない植物ですが、ベラドンナの果実の汁を目に刺すと、瞳が大きくなり美人に見えるということで、中世ヨーロッパの貴婦人たちの間で大流行しました。
これはベラドンナに含まれるアトロピンというアルカロイドの毒性によるもので、この毒性のために命を落とした女性も多かったと言います。
アトロピンは瞳孔を開かせる作用があり、現在でも眼科検診の際に薬品として利用されています。もちろんこうした利用は、ベラドンナから抽出したアトロピンを、安全な医薬品として利用しているものです。