中央アメリカ
中央アメリカは、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸を結ぶ地域で、地理的にはメキシコのテワンテペック地峡からパナマ地峡までの地域になります。現在(2018年)、7ヶ国(グアテマラ、ベリーズ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ)からなっている地域で*1)、総面積は約52.4万km2です。
- 注 *1)中央アメリカの7ヶ国:
この地理的区分では、メキシコの南部諸州が中央アメリカへ含まれ、パナマの南部が中央アメリカに含まれないことになります。さらには、カリブ海諸国やコロンビア、ベネズエラを含めるという説もあります。
また、アメリカ大陸全体を「北アメリカ大陸」と「南アメリカ大陸」の2つに分ける場合には、中央アメリカは北アメリカ大陸に含まれます。
中央アメリカは、地学的に非常に活発な地域で、火山が多く、地震も頻発します。
中央アメリカの地理的特徴としては、平野部がベリーズとニカラグアに多く、その他の国は山岳地形です。東西に細い地形で、太平洋側の標高が高く、火山も多くなっています。
また、メキシコ湾・カリブ海と太平洋に挟まれ、雨量が多いのが特徴です。中央アメリカのほぼ全体が熱帯圏にあり、特にカリブ海側は高温多湿です。太平洋側は比較的乾燥していますが、カリブ海側も太平洋側も、それぞれで発生したハリケーンの影響を受けます。
中央アメリカは、もともと別々の大陸で数百kmの海で隔てられていた北アメリカ大陸と南アメリカ大陸が、約2000万年前に、この2つの大陸の間に火山の噴火が起きたことで島々が生まれ、さらに海面が低くなって北と南の大陸がつながった部分になります。2つの大陸が隔てられていた間は、それぞれで独自の動植物が進化していましたが、新しくできた土地でつながることで、この地域には北と南の両大陸の動植物が交じり合って、多様な自然を見せることになりました。植物は、約17000種が生息すると見られています。
特に、両大陸の動植物が交わったのは、約300万年前に形成されたパナマ地峡の地域になります。
中央アメリカの気候区分は、以下の通りです。
熱帯
中央アメリカの気候は、そのほとんどが熱帯です。中でも、熱帯サバンナ気候(Aw)が最も広い地域を占め、次に、熱帯モンスーン気候(Am)や熱帯雨林気候(Af)がそれに続いています。
中央アメリカの熱帯地域では、乾燥林、低地湿地林、山地林が複雑に入り混じっています。
メキシコからパナマにかけての太平洋岸沿いは、熱帯サバンナ気候の地域です。断続的に沼地やマングローブが存在しますが、同じ熱帯の地域でも、標高が高くなると、広葉樹林や針葉樹林が見えてきます。
これらの山地の東側、カリブ海に面した低地は北東貿易風*2)が吹く地域で、湿度が高く、亜熱帯湿地林や熱帯雨林が多く見られます。
- 注 *2):北東貿易風
貿易風は、亜熱帯高圧帯から赤道低圧帯へ恒常的に吹く東寄りの風のこと。北東貿易風は、その中で特に、北半球に吹く貿易風のこと。貿易風の上層は高温で乾燥しており、下層は低温で湿っている。
中央アメリカの熱帯の南部には、雲に覆われるような標高の山岳の斜面などに、広葉樹林や山地性の硬葉樹林が存在し、より温和な気候になります。
このように、熱帯に属する地域でも、その標高により、細かな気候が異なっています。
サバンナ気候は、熱帯に含まれる気候で、雨季と乾季がはっきりと分かれており、冬に乾燥する気候です。熱帯モンスーン気候は、「弱い乾季のある熱帯雨林気候」とも呼ばれ、降雨量の多い熱帯雨林気候よりも、少ない降雨量の地域です。
温帯帯
また、グアテマラの一部の地域には、温帯の一種である西岸海洋性気候(Cfb)と温帯夏雨気候(Cwb)の地域も、わずかながら存在します。グアテマラの南部の高地と、同じくコスタリカ中部の高地が、これら温帯になります。
乾燥帯
乾燥帯の一種であるステップ気候(BSh)の地域も存在します。グアテマラの南東部の高原と、パナマのパナマの東部の太平洋岸で、南アメリカ大陸のコロンビアと接する地域です。
南アメリカ大陸
南アメリカ大陸は、現在のパナマ地峡より南側の地域を指します。太古の時代にはゴンドワナ大陸の一部で、約3000万年前に南極大陸と分裂し、約200万年前にパナマ地峡ができるまでは、孤立した大陸でした。
そのため、この孤立していた期間に、独特の動植物が進化し、固有種も多くなっています。
気候的にも、ギアナ高地やアマゾンといった熱帯雨林が存在し、そのため種の多様性に富んでいます。
特にアマゾン川流域の熱帯雨林は、世界最大の熱帯雨林で、地球上の生態系に対して大きな役割を果たしています。
南北に長く赤道も通っている南アメリカ大陸には、熱帯から寒帯まで、さまざまな気候が存在します。 赤道近くは熱帯で、世界の熱帯雨林の約3分の1が南アメリカ大陸に存在するほどです。
赤道から離れるにつれ、気温と降雨量は下がり、草原が出現します。ただし赤道近くの地域でも、標高の高いアンデス山脈などの高地では気温は低く涼しい高山気候になります。また、南アメリカ大陸の南端は寒帯になります。
自然の様相では、熱帯雨林の他に、温帯低山林や高原、乾燥した高木林地、草原などの風景が見られます。
南アメリカ大陸の主な気候・風土は、主に以下のように分類できます。
熱帯気候(熱帯雨林)
南アメリカの自然といえば、まず世界最大流域を持つアマゾン川が、自然環境にも重要な役割を果たしています。
このアマゾン川流域の熱帯雨林は特に、“アマゾン熱帯雨林”(=セルバ)とも呼ばれます。
さらに、アマゾン川流域から、南アメリカの東側を南北に走るアンデス山脈の麓(ふもと)の低地にかけて、また、北上してカリブ海やメキシコ南部に至る地域にも、さまざまな種類の熱帯雨林が広がっています。
特に、ブラジル北部のパラー州の森林には、多種多様な原生植物が存在しています。
南アメリカの熱帯雨林のハーブは、中には現代の難病に効果のある植物が新薬の開発に利用されるなど、その研究が注目を集めている地域でもあります。
アマゾンの熱帯雨林の薬用植物は、その生育環境に、その植物を食べたり幹や根を害する生物が世界一多く存在する地域のため、それらに対抗して進化し、強力な化学物質を植物内に作り出します。また赤道直下の強い日光が、植物の光合成を活発化させ、様々な化合物を植物内でより多く生産しています。こうした生育環境から、熱帯雨林の薬用植物には、人間の健康にも益する有効な植物が多いのです。
例えば、近年注目されているのは、中南アメリカの熱帯雨林に生息するパウダルコです。
パウダルコ(別名:タヒボ、学名:Handroanthus impetiginosus)
パウダルコは、ブラジルの国花で、メキシコからコスタリカ、ブラジル、アルゼンチンにかけて分布しています。ブラジルの国花というほど南米ではポピュラーですが、その薬用効果が近年、欧米諸国や日本でも注目されています。
パウダルコは、その内皮に含まれるキノンという植物色素が、がんや白血病に対して優れた効果があることが、研究者によって証明されました。特に、アマゾン川流域の特定の地域に生息するパウダルコは、その中でも有効性が高いことも発見されています。
パウダルコは、1980年代以降は日本の研究者によってもガンの治療薬として研究が進められ、その後、パウダルコの有効性を証明したブラジルの研究者との共同研究にて、パウダルコのより強い抗がん作用と、その作用を持つ化合物が発見されています。
こうした有用植物が多く存在する貴重な地域にも関わらず、アマゾンの熱帯雨林は、19世紀頃から農地開拓などのために森林が伐採されてきました。特に第二次大戦後、ブラジルはこの地域を開拓したため、さらに森林伐採が進み、現代では、アマゾン川流域の森林破壊が懸念されています。
温暖湿潤気候
赤道から離れ、気温が穏やかになると、温暖湿潤気候帯となります。
温暖湿潤気候の地域は、主にアルゼンチンのパンパ(温帯の草原地帯)などです。
アルゼンチンには半径約600kmもの広い半円形の地域に、平坦な地形のパンパが存在し、牧畜と同時に、主要な農耕地で、小麦やとうもろこしが栽培されます。
地中海性気候
北アメリカのメキシコの大半と同じように、南アメリカでも、チリの中部が地中海性気候になります。
冬にはある程度の降雨量がありますが、夏は日差しが強く、乾燥しています。夏は亜熱帯の気候に入り、冬は亜寒帯になるのが特徴です。
地中海性気候帯では、背の低い常緑広葉樹林が広がり、乾燥に強い植物が育ちます。ヨーロッパの地中海沿岸では、耐干性の樹木性作物ブドウの栽培が盛んですが、同じ気候帯のチリでも同じくブドウが栽培され、チリは有名なワインの産地にもなっています。
寒帯気候(ツンドラ気候)
南アメリカ大陸の南端は、温帯のうちの温暖冬季少雨気候(Cwc)と寒帯のツンドラ気候のちょうど境目あたりに位置しています。その少し北側には、温帯に属する西岸海洋性気候の地域が広がります。一方、大陸とマゼラン海峡を挟んですぐ南に位置するフェゴ諸島の南部は、寒帯に属します。
南アメリカ大陸南端の寒帯には主に、ナンキョクブナなどの落葉広葉樹林が、局在的に分布しています。
ナンキョクブナ(学名:Nothofagaceae)
ナンキョクブナは、南半球の熱帯の山地(まれに低地)から亜寒帯までの地域までと、非常に多様な環境に生息します。また、常緑、落葉、高木、矮性(わいせい)木など、さまざまな種に分化しています。
ナンキョクブナ科のうち、主に次の3種は、南アメリカ大陸南端のフェゴ島までその分布範囲に至ります。
“Nothofagus antarctica”は、チリ南部とアルゼンチンから、フェゴ島にかけて分布しています。
“Nothofagus betuloides”(マゼランブナ)と “Nothofagus pumilio” は、ともに、チリとアルゼンチンの中部・南部からフェゴ島にかけて、分布しています。
ナンキョクブナは、1億数千万年ほど前にゴンドワナ大陸が存在していた時代から生き残っている植物の一つです。その後、氷河期が終わって地球が温暖になってくると、標高の高い場所や高緯度の地域にその生息地を移して生き残った貴重な植物です。現在でも、厳しい環境に適応して生息しています。