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“ハーブ”という語は、今日よく耳にされる語になってきましたが、もともと一般的に”ハーブ”という場合、ヨーロッパにおける薬草、また、料理や香料、保存料として用いられた植物を指すものでした。
こうしたことから、現在私たちがよく知っているハーブには、ヨーロッパ原産のものや、他の地域からヨーロッパに持ち込まれ利用されてきたハーブが多いことが理解できます。
一方で、ヨーロッパ以外の世界の地域でも、薬草として、また料理や香り付けのためにハーブは親しまれてきました。薬や食品としての利用以外にも、儀式での利用など、さまざまな形で利用されてきたハーブは、世界各地で、その風土によって特徴があります。
各地域原産のハーブや、その地域での利用方法などを、ヨーロッパから順にご紹介していきます。
ヨーロッパの地理的・風土的特徴と、植物の変遷
世界中の地域のハーブについて知るには、まずその地域の地理・風土を知る必要があるでしょう。
ヨーロッパの地理と風土
ヨーロッパの位置は、「ロシアのウラル山脈より西側、グルジアなどのカフカース山脈より北側の地域」とされています。南の地中海/黒海と接し、西は大西洋、北は北極海と接しています。陸においては、東のウラル山脈によって、アジア大陸と隔てられています。
ヨーロッパは、緯度的には中緯度から高緯度に位置しますが、緯度の割りには温暖な気候になっています。
特にヨーロッパの西岸(西ヨーロッパ)は暖流である北大西洋海流の影響で、比較的温暖な気候なのです。海洋性気候で、夏涼しく、冬暖かい、過ごしやすい気候が特徴です。
また南方の地中海沿岸部は地中海性気候ですが、同様に、夏涼しく冬温暖で過ごしやすい気候になっています。
一方、東ヨーロッパは、内陸部にあたり、大陸性気候で、寒冷な気候です。西ヨーロッパとは逆に、夏は暑く、冬は寒いという特徴があります。
こうしたことが、ハーブや植物の分布にも影響しています。
ヨーロッパ各地の気候をまとめると、
- 西部(西岸):海洋性気候。北大西洋海流の影響で、比較的温暖。
- 中央部(内陸部):大陸性気候。夏は乾燥して暑く、冬は寒い。
- 地中海沿岸部:夏は乾燥気味で涼しく、冬は温暖で雨が多い。
また、ヨーロッパの地形としては、上記の他に低地帯(オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ)が加えられますが、この低地帯を除くすべてのヨーロッパの地域は、ほとんどの土地が山がちな土地です。そのため、地形や気候の違いに応じて進化した特有の植物相が存在しています。
ヨーロッパの植物の歴史的変遷
こうした地理的特徴を現在持つヨーロッパですが、歴史的変遷の中では、現在とは異なった様相を示していました。
かつてヨーロッパ全域は、さまざまな種類の常緑樹の森に覆われていました。1000年ほど前までは、ヨーロッパの80~90%は森林で覆われていたとされています。現在では、広大な自然の高木林地が残っているのは、東ヨーロッパのみです。
植物相の変遷を見ますと、
太古の時代
ハシバミ類が主流でした。
セイヨウハシバミ(西洋榛、英名:Common Hazel、学名:Corylus avellana)は、ヨーロッパ大陸部~地中海沿岸地域を原産とし。樹高5~7mまで成長します。
5~6世紀
ブナ、ツノギ、モミ、ハリモミ類が優勢になります。
10世紀末~11世紀頃
シラカバ、クリが上記に加わります。寒冷な地域ではハリモミ類が、南部の暖かい地域ではマツ類も見られました。
12世紀後半以降
羊の放牧が盛んになり、また森林伐採も加わり植物相に変化が現れます。
11~13世紀頃
人口が急激に増したことにより、開拓や居住地化され、さらに森林地帯に変化が起きました。樹木は、人間の選択により介入を受け、変化が生じました。
ナラ・ブナ・クリ類は木材用として促進された一方で、木材用に適さないマツは多く伐採されました。これにより、南ヨーロッパの地域は、ステップ化*2)されていったのです。
*注2):ステップ:平らで乾燥した、樹木のない平原
近年
現在ヨーロッパでよく目にするプラタナスやポプラが植栽されました。
現在の高木林地の植物
こうした歴史的変遷を経て、現在残っている高木林地には、大切な植物がたくさん存在しています。
例えば、
- ブナ(学名:Fagus sylvatica)
最大で、高さ50m、幹の直径は3mにもなるりますが、通常は、高さ25〜35 m、幹の直径1.5 mほどに成長します。 - カシ(学名:Quercus robur)
カシは、ブナ科の常緑高木の一群の総称。狭義でコナラ属(Quercus)の中の常緑性の種をカシと呼ぶ場合もあります。
常緑性のカシは、英語ではライヴオーク (live oak) と呼ばれるが、ヨーロッパでは常緑性のカシは南ヨーロッパのみに分布しています。 - セイヨウイソノキ(英名:Alder buckthorn、学名:Rhammus frangula)
ヨーロッパの湿地などを中心に生息する落葉性の低木で、高さ3~5mに成長します。
樹皮に瀉下作用をもつアントラキノン配糖体を含み、便秘に対して利用され、また、強壮剤や駆虫剤としても利用されてきました。 - フユボダイジュ(学名:Tilia cordata)
高さ30mにまで成長する落葉高木。葉や花はハーブとして用いられたり、茶の代用品としても利用されてきました。
現在、北部の広い地帯で見られなくなってきています。
などが挙げられます。
また、かつての地中海沿岸に広がっていた高木の常緑樹の森には、カシやマツ、マスチックの木が生育していました。
■低木への変遷
こうした高木常緑樹の森は、森林破壊、侵食、過放牧などによって、現代では主に東ヨーロッパの地域を除いて、刺の多い低木地に変わっています。これは、この地域の草木が弱体化させられたといえる事態なのです。
変わりに、現在の地中海沿岸地域には、旱魃(かんばつ)に強い低木が主に生育しています。
例えば、
- ファベンダー、オリーブ、セージ、タイム、サボリ、オレガノ、ローズマリー、ゲッケイジュ など
が挙げられますが、こうしたハーブには、世界でもっとも広く使われているハーブが含まれています。