ヨーロッパのハーブ

ヨーロッパのハーブ II ~ ヨーロッパの気候とハーブの特性

ヨーロッパの気候と、ハーブの特性

ハーブは、主にその栽培方法について留意する必要性から、生育している地域(原産地)の気候によって分類されます。一般的には、4つのエリア(タイプ)に分けられ、それらは、

  • 地中海沿岸タイプ
  • ヨーロッパ中緯度地帯タイプ
  • 東南アジア&中米タイプ
  • 東アジア&日本タイプ

とされています。

4つの区分のうちの半分が、ヨーロッパのエリアに属していることからも、ヨーロッパの風土の多様性やハーブの豊富さがうかがえます。

ヨーロッパのエリアの属する2つのタイプについて見てみると、

地中海沿岸タイプ

ギリシャ・クレタ島。地中海沿岸の風景。

ヨーロッパの植物相のうち、他の地域の4倍以上もの種が生育しており、ヨーロッパ最大のハーブ・植物の育成地です。地中海沿岸に固有の維管束植物種は22,500種とも言われます。

夏は涼しく、冬は温暖な地中海沿岸に育つハーブで、日本でも栽培も比較的容易ですが、乾燥気味のエリアのため、高温多湿な環境での栽培には注意する必要のあるハーブです。
このタイプに分類されるハーには、主に以下のようなハーブです。

  • オリーブ、ラベンダー、ローズマリー、タイム(木立ち性)、セージ、コリアンダー、パセリ、マジョラム、マロウ、フレンチタラゴン、サントリナ
ヨーロッパ中緯度地帯タイプ

アルプスの草原と植物

夏は涼しく、冬は寒い気候で、地中海沿岸と同じく乾燥気味のエリアです。同じく比較的栽培しやすいハーブですが、やはり同じように高温多湿に注意が必要ですが、冬の寒いに強いという特徴があります。
このタイプに分類されるハーブには、以下のものがあります。

  • ミント、カモミール、タイム、ロシアンタラゴン、タンジー、アンゼリカ、ルバーブ、ホップ

ヨーロッパのハーブとは

ところで、”ヨーロッパのハーブ”と呼ぶとき、どういうハーブのことを指し、またどういう特徴があるのでしょうか?

アンゼリカ。ヨーロッパでも古くから、薬草として利用されてきた。

ひとつには、ヨーロッパ原産のハーブが挙げられるでしょう。

一方でヨーロッパでは、古代ギリシャ・ローマの時代から、周辺の地域(古代エジプト、アッシリア、インド、アラブ世界)の影響を受けることにより、その周辺のハーブも取り入れられ、ヨーロッパの生活に根付いたハーブもあります。さらには遠方のハーブも、交易によりヨーロッパへ持ち込まれ根付いたものもあります。

ハーブとスパイスのマーケット

これらすべての経緯のハーブが、現在、”ヨーロッパのハーブ”として認識されている中に存在します。

こうしたハーブの中でも特に、ヨーロッパ原産のハーブとして、以下のようなものが挙げられます。

ヨーロッパ原産のハーブ

ヨーロッパ原産のハーブとしては、以下のようなハーブが挙げられます。
(ヨーロッパ原産のハーブのうち、特に地中海沿岸地域を原産とするものは、次の記事でご紹介します。)

  • ワイルドストロベリー、アーティチョーク、アグリモニー、アンゼリカ、カラミント、カレープランツ、サラダバーネット、ソープワート、タラゴン、タンジー、ダンディライオン、チコリ、チャービル、チャイブス、ディル、ホップ、マーシュマロウ、ヤロウ、ルバーブ、レモンバーム

上記は、ヨーロッパの地中海沿岸以外も原産地とされるハーブです。

乱獲されてきたヨーロッパのハーブ

ヨーロッパのハーブの中には、薬用や観賞用のために乱獲されてきた歴史を持つハーブもあります。以下のようなハーブが、乱獲されてきたものです。

  • ゲンチアナ、アルニカ、ヨウシュオキナグサ(または、セイヨウオキナグサ)、クレタオレガノ
  • ゲンチアナ(学名:Gentiana lutea)

    ゲンチアナ

    リンドウ科の多年草で、夏に黄色い花を咲かせます。
    根及び根茎に苦味があり、健胃作用があることで知られ、利用されてきました。また、根には強壮作用や解熱作用もあります。
  • アルニカ(学名:Arnica montana)

    アルニカの花

    キク科アルニカ属の多年草で、黄色い花を咲かせます。
    古くから、打ち身や捻挫(ねんざ)、打撲などへの効果が知られ、塗り薬としてよく知られてきました。。
  • ヨウシュオキナグサ(または、セイヨウオキナグサ、英名: pasque flower)(学名:Pulsatilla vulgaris)

    ヨウシュオキナグサ(または、セイヨウオキナグサ、英名: pasque flower)

    キンポウゲ科オキナグサ属の多年草。ヨーロッパの石灰草地に局在し、4~5月にかけて紫色の花を咲かせます。
    ヨウシュオキナグサには神秘的な伝説があり、”ローマ人またはデーン族(デンマーク人やヴァイキングを指す)の血が流された場所に咲く”というものです。これは、ヨウシュオキナグサが、墓場のように土を盛った塚や、土手など土の盛り上がった場所に咲くためでしょう。
  • クレタオレガノ(学名:Origanum dictammus)

    クレタオレガノ

    クレタオレガノは、30cmほどの高さに成長するシソ科の多年草です。一般的な「オレガノ」もまた地中海地方が原産ですが、クレタオレガノはその中でも、ギリシャの島、山々や渓谷のみに分布しています。
    治療にも利用される芳香性の植物で、クレタ島では庭の観賞植物として、また食品の香りづけや薬用目的で広く利用されています。

これらのうちクレタオレガノは、乱獲により野生のものは少なくなっている状況です(野生のクレタオレガノはクレタ島にのみ分布しています)。

ギリシャ・クレタ島 / 地中海沿岸の風景

雑草として扱われたヨーロッパのハーブ

以下のハーブは、ハーブというよりもむしろ”雑草”と認識されています。そして雑草の繁殖力の強さから、他の国へも持ち込まれてきましたが、もともとはヨーロッパ原産のハーブでした。

  • コハコベ、セイヨウタンポポ、ナズナ、グーズグラス、イラクサ、セイヨウオオバコ

  • コハコベ(和名:コハコベ(小繁縷)、英名:Common chickweed、学名:Stellaria media)

    コハコベ(英名:Common chickweed)

    ヨーロッパでは庭などでよく見られる雑草ですが、世界中に帰化しています。日本では”史前帰化植物”としてよく知られ、春の七草にも加わっています。

    コハコベ(英名:Common chickweed)の花

  • セイヨウタンポポ(学名:Taraxacum officinale)

    セイヨウタンポポ(英名:Dandelion)

    キク科タンポポ属の多年草。なじみのある”タンポポ”ですが、日本の在来種のタンポポとは外側の総苞の反る点が異っており*3)、環境省指定の要注意外来生物とされています。

    注 *1)日本の在来種のタンポポも、花の盛りを過ぎると総苞が反り返るため、区別に注意が必要です。

    古くからヨーロッパや中東では、食用として利用されたり、また乾燥させた根がコーヒーの代用品(たんぽぽコーヒー)としても利用されてきました。根は肝臓の解毒作用があるとして、近年注目されています。

  • ナズナ(学名:Capsella bursapastoris)

    ナズナ(英名:Shepherd’s purse)

    アブラナ科ナズナ属の越年草。別名”ペンペングサ(ぺんぺん草)”として良く知られる雑草で、荒廃した土壌にも生育します。
    日本の私たちにも馴染み深い雑草ですが、日本へはムギ栽培の伝来と共に渡来した”史前帰化植物”とされています。”春の七草”のひとつで、民間薬としても利用されてきました。
  • グースグラス(学名:Galium aparine)

    グースグラス(英名:Goose grass)

    アカネ科ヤエムグラ属の越年草。別名で「クリーバーズ」(英名:False cleavers)とも呼ばれます。
    背の高いものでは2~3mまで成長することもあります。
    グースグラスは、リンパを浄化し、リンパ腺の腫れを抑える作用があるとされます。リンパは体内の老廃物や毒素を運搬する体液や管ですから、老廃物排泄に効果があるとされます。
  • セイヨウイラクサ(学名:Urtica dioica)

    セイヨウイラクサ(英名:Stinging nettle)

    イラクサ科の多年生開花植物。夏の成長期には高さ1〜2mほどになります。また、葉にトゲがあり、皮膚に刺さると、痛みや知覚障害を引き起こします。
    日本に分布するイラクサとは異なる種で、ヨーロッパのハーブとしては、このセイヨウイラクサが、伝統薬や料理に利用されてきました。
    アレルギー性鼻炎や花粉症の緩和、利尿作用、浄血作用のあるハーブとして知られます。
  • セイヨウオオバコ(学名:Plantago major)

    セイヨウオオバコ(英名:Common Plantain)

    オオバコ科オオバコ属の多年生植物。世界中に雑草として帰化しています。穀物や農作物の種子と混ざっているため、世界各地で侵略的外来種とされているほどです。
    痩せた土壌や道端にも生育し、また農地の雑草としてもよく見られます。
    薬草としては、傷の治療や、ヘビ咬まれた傷の治療にも用いられてきました。
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