目次
インド亜大陸の定義
インド亜大陸は南アジアとも呼ばれ、インド、バングラデシュ、パキスタン、ネパール、ブータン、スリランカなどの地域を指します。その面積は、440万km2にも及びます。
またインド亜大陸は、地理的には、大陸移動説やプレートテクトニクス*1)の説では、古代のパンゲア大陸から分離・移動して、ユーラシア大陸に衝突したとされます。ヒマラヤ山脈はその隆起した形です。
*注1) プレートテクトニクス: プレートテクトニクス(plate tectonics、プレート理論)とは、1960年代後半以降に発展した地球科学の学説。地球の表面は何枚かの固い岩盤(=「プレート」)で構成され、このプレートが海溝に沈み込むときに、その重みによりプレートが移動し、対流するマントルに乗って互いに動いていると説かれる。
プレートテクにクスの説では、インド亜大陸は古代のパンゲア大陸内でマダガスカル島と同じ地域にあったとされ、実際に、インド亜大陸とマダガスカル島に生息する動植物は類似しています。→アフリカのハーブ V ~ マダガスカル島の風土・植生とハーブ
インドの地理
インド亜大陸のほとんどを占めるのが、インドです。インドの地理は、非常な多様性を持っており、山岳、砂漠、平野、雨林、丘陵、高原などが見られます。そのほとんどがインド洋に面した南アジア半島にあり、7000kmもの長い海岸線をもちます。
インド(亜大陸)の気候
インド亜大陸の気候は、雨季と乾季に分かれるのが特徴です。雨季には、世界で最も多い降雨量となります。
特にインドは、雨季と乾季をさらに細かく、4つの季節に分けることができます。 1~2月の冬、3~5月の夏(酷暑期)、6~9月の季節風(モンスーン)による雨期、10~12月のポスト・モンスーン期です。
- 冬(1~2月):シベリアから北東季節風が吹くものの、ヒマラヤ山脈に遮られ、また途中で空気が暖められるため、インド北部でも極端な寒さにはならずに乾燥した天候になります。
- 夏(3~5月):アラビア海とベンガル湾から吹いてくる季節風が水分を含んでいるために、大量の雨が降り高温多湿で、インドで最も気温の高い時期(4~5月)です。内陸部では40度を超えることもあり、また西部のタール砂漠では45度を超える気温となります。過去には、1955年にラジャスターン州アルワルで50.6℃が記録されました。
- モンスーン期(6~9月):特に西海岸では相当な降水量があり、月間1000mmになることもあり、洪水被害も多く発生します。
インド各地域の気候
また、インド亜大陸の大部分を占めるインドの気候は、様々な特徴を持っています。 ケッペンの気候区分*2)では、インドには以下の気候区分が存在します。それらの気候は、赤道に近いほうから順に、
- 湿潤熱帯気候(熱帯性湿潤気候):南西部や島嶼部の雨林
- 温帯性湿潤気候:インド北部
- 乾燥砂漠気候:西部(北西インド・ラジャスターン州など)
- ステップ気候(北西インド、乾燥砂漠地帯の東側)
- 高山性ツンドラ氷河気候:北端部(ヒマラヤ山岳地方など)
です。 *注 2)ケッペンの気候区分:ドイツの気候学者ウラジミール・ペーター・ケッペンが、植生分布に注目して考案した気候区分。気温と降水量の2変数から気候区分が決定される。気候帯は5つに区分され、赤道から極地に向かって、AからEまでの符号が付けられている(熱帯(A)、乾燥帯(B)、温帯(C)、亜寒帯(D)、寒帯(E))。そのうち、熱帯(A)、温帯(C)、亜寒帯(D)は森林が生育する「樹林気候(湿潤気候)」とされ、乾燥帯(B)と寒帯(E)は森林が育成できない「無樹林気候」と分けられる。
それぞれの気候の特徴とその植生は、以下のようになります。
1. 湿潤熱帯気候
ケッペンの気候区分では「熱帯気候」に対応します。
赤道を中心に、気候区分では最も低緯度に位置する地域で、年間を通して温暖な地域です。年中温暖により上昇気流が生じ、低気圧地帯となりますが、この低気圧によって雨量が多くなり、熱帯雨林が形成されます。
また特にケッペンの気候区分では、
- 最寒月の平均気温が18℃以上(ヤシが生育できること)
- 年平均降水量が乾燥限界以上
が特徴とされています。
インドでは、デカン高原(インド半島・中央と南部の大部分を占める台地)のレグール、マハラシュトラの西ガーツ山脈などが、この気候になります。火山活動による火山岩が堆積した後に風化した土壌で、インドではこうした地で綿花栽培が盛んです。
また、インドのアッサム地方やダージリン、スリランカなどではお茶の栽培も盛んです。その他にも、高温多雨の環境のため、サトウキビ、バナナ、ココナッツなど、様々な作物が育成できる環境です。
そして植物が生育しやすいこの気候帯では、1500種の固有種が存在するとされます。
スリランカ
インド亜大陸では、インド洋に浮かぶスリランカもまた、湿潤熱帯気候に属します。スリランカは島中央部の中高地を除けば、緯度も低く、熱帯雨林や岩が多く存在します。
スリランカ産のシナモンは、特に上質なシナモンとして有名です。
2. 温帯性湿潤気候
ケッペンの気候区分では「温帯気候」に対応します。 インド北部がこの気候で、温暖ですが冬に雨が少なくなり乾季となります。一方、夏は赤道低圧帯やモンスーンの影響により雨季になります。 夏を中心に降水量が比較的多いため、植物はよく育ちますが、夏冬の温度差が大きいために、様々な植物が分布しています。
温帯性湿潤気候は適度な気温と雨量で、人にとっても過ごしやすいのと同様、植物にとっても育ちやすい環境だといえます。土壌も肥沃なため、多くの温帯では、三大穀物(=稲、小麦、とうもろこし)が多く栽培され、アジアでは米の栽培に適しています。例えばインド北部などは、夏に降雨量が非常に多い暖冬季少雨気候(温帯夏雨気候)ですが、この気候の地域では稲作が盛んで、農業の生産性も高くなっています。
また、穀物に加え、お茶や綿花なども栽培されます。
樹木は、比較的肥沃な褐色森林土が分布する温帯の性質から、常緑・落葉広葉樹林と針葉樹林が混在する温帯混合林が広がっています。温帯高地の北西ヒマラヤには、ヒマラヤスギ、クロマツ、エゾマツなどの針葉樹や、シャクナゲなどが分布しています。
3. 乾燥砂漠気候
ケッペンの気候区分では「砂漠気候」に対応します。 砂漠気候の地では、水分が十分でなく、植物はほとんど育ちませんが、乾燥に強いサボテンが育っている場合があります。
またインドで採れるハーブとして有名なクミンシードは、北西部の砂漠地帯で栽培されています。染料として有名なヘナも、砂漠地帯のラジャスターン州で大規模に栽培されていますが、寒暖の差が激しい乾燥気候で最適に育ちます。
4. ステップ気候
ケッペンの気候区分では「砂漠気候」に対応します。 基本的には砂漠気候と同じように水分が十分でありませんが、ステップ気候では夏に雨季があり、雨季に植物が育ち、草原となります。
“ステップ”とは、“短草草原”という意味です。インドのデカン高原東部、タール砂漠の外縁部などがステップ気候になります。
ステップ気候は、湿潤な温帯気候と乾燥した砂漠気候の中間にあり、降雨量はあるもののそれほど多くありません。植物の育成には水が必要なため、ステップ気候の地域では植物が自生しても森林にはならず、草原になります。雨季の夏の間だけ草原が現れ、冬には枯れてしまいます。
また、乾燥に強いサボテンが自生する地域もあります。一部の地域では、過放牧や過耕作によって水が枯渇してきており、砂漠化に向かっている地域もあります。
水が少ないために、生育する植物は30cm程の背丈にとどまり、降雨量のある春には花が咲き実をつけますが、乾燥する夏には地上部は枯れます。
特徴的な植物としては、ブルーグラマ(英名:blue grama 、学名:Bouteloua gracilis)、ヤギュウシバ(英名:buffalo grass、学名:Hierochloe odorata)、サボテン(英名:cactus、学名:Cactaceae)、ヤマヨモギ(英名:sagebrush、学名:Artemisia tridentata)、スペアグラス(英名:speargrass、学名:Aciphylla colensoi)、小型のヒマワリ(英名:sunflower、学名:学名:Helianthus annuus)などがあります。
また、丈の短いイネ科なども見られます。
5. 高山性ツンドラ氷河気候
ヒマラヤなどの山岳地帯は高地のため、気温の差も激しく、そのため植物の生育も気温に大きく影響されます。
気温が下がるほどに生育する植物の数は少なくなり、ツンドラ地帯では、短い夏の期間だけ、コケや地衣類(菌と藻が共生する)が生育しています。食用の穀物はまったく育たない環境です。
山岳地帯
人が入り込みにくい地域のため、多くの植物が手付かずのまま残されています。世界最高峰のヒマラヤには、9000種類の植物が自生しています。有名な植物としては、ヒマラヤスギが挙げられます。
● ヒマラヤスギ
ヒマラヤスギは、ヒマラヤ山脈西部の標高1500m~3200 mの地域を原産地とします。
また、各地にはそれぞれの局地的気候も存在します。