中東のハーブ

中東のハーブ II ~ 中東の特徴的なハーブ・植物と、固有種

中東に特徴的な植物

中東の各地域に特徴的な植物を、いくつかご紹介します。
この地域に特徴的な植物で、希少価値もとても高く、健康面への効能に加え、地理的・歴史的にも注目されている植物たちです。

西部 = 地中海沿岸の植物

レバノンスギ(レバノン杉、英名:Lebanon Cedar / Cedar Of Lebanon、学名:Cedrus libani)

レバノンスギ(レバノン)

「スギ(杉)」という和名がついていますが、レバノンスギはスギ科の植物ではなく、マツ科ヒマラヤスギ属の針葉樹です。
高さ約40mにまで成長し、レバノンやシリアの高地を原産地とします。

古代には中近東一帯に広く自生していましたが、大規模な伐採により現在ではレバノンスギの森は消滅しています。

かつて、古代の海洋商業民族として有名なフェニキア人のうち、レバノンに住んでいたフェニキア人たちは、レバノンスギから船を作っていたとされます。レバノンスギが良質な木材であったことが古代から知られていたことがよく分かります。

現在、レバノンスギが保護されているエリアは、「カディーシャ渓谷と神の杉の森」(The Cedars of God)と銘々された世界遺産に登録されています。

世界遺産「カディーシャ渓谷と神の杉の森」(The Cedars of God)の風景

レバノンスギは、旧約聖書にも多く登場します。
有名なのは、古代イスラエルのソロモン王が、レバノンスギで神殿を建てるまでのいきさつが述べられている部分です。ソロモン王は、神殿建設のためにレバノンスギを必要とし、ツロの王ヒラムを通して入手しますが、そのお礼にガラリア(現在のフランス)の自分の王国内の20の町をヒラム王に与えたということです。ソロモン王がレバノンスギを非情に重視していたことが分かるいきさつです。

ソロモン王(紀元前1011年~931年)

また、スギ(シダー)には、不思議な癒しの効果がある、ということを説いた小説(著者により、ノンフィクションとされている)が、20ヶ国語に翻訳されたウラジーミル・メグレによる『アナスタシア』のシリーズです。

ウラジーミル・メグレ著『アナスタシア』日本語訳本の表紙

この小説の中では、シベリアのタイガのシダー(シベリア杉)の不思議な効果や、またシベリア杉のオイルが健康に良いことなどが語られていますが、スギの不思議な力と共に、上記のようなレバノンスギについての逸話も語られています。

レバノンスギはレバノンの国旗および国章のデザインにも用いられるほど、レバノンという国にとっては重要な植物といえるでしょう。

レバノンの国旗 / 中央にレバノンスギが描かれている。

マドンナリリー(学名:Lilium candidum)

マドンナリリー

中東の西部のうち、特に地中海沿岸東部(地中海の東側沿岸)は、有名なマドンナリリーの原産地です。
学名のうち「ユリ」を指す“Lilium”は、ギリシャ語で「白」を表す“lerion”から来てたものとされますが、白い花のマドンナリリーがこのユリの名の由来になっています。

成長すると1.5m以上の高さになり、草本としては大型で、芳香を放つ白い花も大輪です。
マドンナリリーは、古代から皮膚疾患に対して利用されていましたが、現在では野生のものはほとんどみつかりません。栽培も難しいことから、ほとんど利用されなくなっているため、とても希少価値の高い植物となっています。

東部 = 内陸部の植物

中東の内陸部、高地は、バラの祖先の故郷として知られています。

歴史的にも、バラはイスラム世界でもっとも重要な植物でした。毎年、「ハジ」と呼ばれるメッカ巡礼の時期には、10トンのローズウォーターを使って、聖地メッカの壁が洗い清められます。もともと、バラ油の蒸留法を発明したのも、アラブの科学者たちでした。

バラ水製造所(イラン/カーシャーン)

現在、世界中で利用されるローズウォーターの産地も、主にトルコとイランなど中東地域になっています。

この地を原産とするバラの祖先が、ダマスクローズです。

ダマスクローズ(学名:Rosa × damascena(ロサ・ダマスケナ))

ダマスクローズ

ダマスクローズは、最高で2.2mまで成長する落葉性の低木。薄いピンク~薄い赤の花を咲かせます。オールドローズの稀少種とされています。

ダマスクローズはもともと、バラの種類であるロサ・ガリカ(学名:Rosa gallica)とロサ・モスカタ(学名:Rosa moschata)の交雑で生まれた雑種とされます。

ロサ・ガリカ(Rosa gallica)

ロサ・モスカタ(学名:Rosa moschata)

さらに、DNA分析によって、ロサ・フェドチェンコアナ(学名:Rosa fedtschenkoana)も、ダマスクローズの誕生に関係していることが判明しました。

ダマスクローズには、“夏ダマスク”と“冬ダマスク”の二つの種類が存在します。この2つの種の違いは、花期の期間です。
夏ダマスクは夏のみ花を咲かせる花期の短い種ですが、冬ダマスクは秋まで花期が続きます。

ダマスクローズは、香りづけやスパイスとして、食用にも利用されます。イラン、インド、その他中東の国々の料理では、ローズウォーターや、粉状にして利用されます。花全体、または花びらは、そのままローズティーとしても飲まれます。

ダマスクローズとピスタチオを使った“Nougat”(ヌガー:ナッツや干し果物などが入った柔らかいキャンディー)

最も多い利用方法は、デザートへの香り付けで、アイスクリームやジャム、プリンやヨーグルト、また、トルコ語で“ロクム”と呼ばれるナッツを多様したお菓子*1)などに利用されます。

*注 1)ロクム:英語では“ターキッシュ・ディライト”(Turkish delight、「トルコの悦び」の意味)と呼ばれる。

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