中東のハーブ

中東のハーブ IV ~ 中東の主なハーブ

中東の主なハーブ (ピックアップ:8種)

中東の植物・ハーブとしては、以下のようなものが挙げられます。歴史的にも有名なものから、日本ではあまり馴染みのないものまで、中東の風土が作った様々なハーブをご紹介します。

1. ソコトラアロエ(英名:Socotran_aloe、学名:Aloe perryi)

ソコトラアロエの葉

ソコトラアロエはアロエの一種で、ツルボラン亜科アロエ属の多肉植物です。
原産地は、ソマリア沖のソコトラ島。その他に、東北アフリカも主な産地になっています。

ソコトラ島の風景

アロエの種類は、世界で1000種とも600種とも言われますが、そのうち薬用として利用されるのは、主に4種類です。日本でおなじみのキダチアロエ、南方に生息する葉肉の大きなアロエヴェラ、南アフリカ共和国のケープアロエ、そしてもうひとつが、ソトコラ島で採れるソコトラアロエです。

ソコトラアロエ

現在では、民間薬として馴染みのあった多くの種類のアロエに薬効成分が確認され、薬用アロエとしては50種類を数えるともされています。

ソコトラアロエは、アロエ科アロエ属で、ソコトラ島・サムハ島(ソコトラ郡島のひとつ)に固有の種で、準絶滅危惧種とされています。

また、ソコトラアロエの葉から採れる汁は、しぼってすぐの新鮮なものは眼の疾患に、また乾燥させたものは胃腸の疾患に使われます。また中東の地域で「アロエ」といえば、このソコトラアロエの葉汁を乾燥させた黒い塊を指すこともあります。

2. トラガカントゴムノキ(英名:Tragacanth gum tree、学名:Astragalus gummifer)

トラガカントゴムノキ

トラガカントゴムノキは、マメ科ゲンゲ属の低木。
シナイ山からレバノンの山の地域の、標高1200~2100m程度の場所に自生します。また、イスラエルのネゲブ砂漠などにも生育しています。

トラガカントゴムノキが属するゲンゲ属(学名:Astragalus)は、この地域に30種以上自生していますが、そのうち樹液からガムが採れるいくつかの種のひとつが、このトラガカントゴムノキです。

トラガカントゴムノキから採れるゴム(gum)は、トラガカンスガム(英: Tragacanth gum)と呼ばれ、増粘多糖類として用いられます。
現代では、製薬産業、食品加工の安定剤、濃化剤などに主に使用されています。
作用としては、健康促進・薬用:免疫系統の刺激、腫脹緩和作用などが知られてきました。

トラガカントゴムノキ 果実と種

トラガカントゴムノキは歴史的にも古くから知られ、プリニウスの『博物誌』には、「腹の病気の薬」として紹介されています。

3. 乳香(英名:frankincense、学名:Boswellia sacra)

乳香(フランキンセンス)

乳香(フランキンセンス)とは、カンラン科ボスウェリア属の樹木から採取される固形の樹脂のことです。
ボスウェリア属の樹木は、主に中東(イエメン、オマーンなど)やアフリカ(エジプト、エチオピア、ケニア、ソマリアなど)に生育しますが、その他にもインドや中国にも分布しています。

通常、「乳香」といって一般的なのは、ソマリア産の乳香(ボスウェリア・カルテリイ(学名:Boswellia carterii))ですが、オマーンさんの乳香(ボスウェリア・サクラ(学名:Boswellia sacra))は、最も質の高い乳香で、高級品とされています。

フランキンセンスの樹(オマーン/ドファール特別行政区)

主な産地である、中東とアフリカのボスウェリア属の樹木から採れる乳香(樹脂)は、それぞれ、「フランキンセンス・オマーン」、「フランキンセンス・ソマリア」と呼ばれますが、それぞれに含む成分も、かなり異なっています。

オマーン産の乳香の成分は、
「d-リモネン:34%、E-β-オシメン:32%、ミルセン:7%、α-ツエン:7%」

一方、ソマリア産の乳香の成分は、
「α-ピネン:26%、α-ツエン:19%、サビネン:9%、リモネン:8%,、ミルセン:5%」

乳香(フランキンセンス)

オマーン産に多く含まれるd-リモネンですが、この成分はグレープフルーツやレモンにも多く含まれ、血流促進、冠状動脈の拡張、肝臓や腎臓の強壮作用、免疫力強化や新陳代謝促進、血行促進など多くの作用などがあります。

フランキンセンスの幹と葉(オマーン)

オマーン産だけに含まれる成分「E-β-オシメン」には、防腐作用、抗バクテリア・抗ウイルス作用、鎮静作用、胃の強壮など、同じく多くの作用があります。

4. キャラウェイ(英名: caraway、学名:Carum carvi)

キャラウェイの花

キャラウェイは、セリ科の二年草で、原産地は西アジアです。
種子のように見える果実が、香辛料として用いられます。
古代、地中海東岸に居住していた海洋商業民族フェニキア人によって、ヨーロッパに伝えられたといいます。

キャラウェイの種

食用としては、種がさまざまな料理に利用され、ドイツやイタリアでは、リキュールの香り付けにも用いられます。

5. コリアンダー(英名:coriander、学名:Coriandrum sativum)

コリアンダーの葉

コリアンダーは、セリ科の一年草。学名のうちの種小名「sativum」は、ラテン語で「栽培種の」という意味です。
高さは25cm程度まで成長し、葉や茎に独特の芳香があるため、香草として利用されてきました。葉以外にも、熟した果実にレモンにも似た香りがあり、スパイスとして使用されます。

コリアンダーの実

原産地は地中海東部(中東の西部)で、古代から各地で食用とされてきました。

古代エジプトでは、調理や医療にコリアンダーが用いられており、プリニウスの『博物誌』には、エジプト産のコリアンダーが最も良質という記述があります。

コリアンダーの実/スパイスとして料理にもよく利用される

葉はその香りから、主に薬味として利用されますが、栄養面でも優れており、生の葉はビタミンCが特に豊富で、他にも、βカロテン、ビタミンB1、B2、Eなどが豊富に含まれています。さらに、体内の毒素排出効果(デトックス)の効果もあるとされます。

6. クミン(英名:cumin、学名:Cuminum cyminum)

クミンの花

クミンはセリ科の一年草、または二年草で、高さは20~40cmまで成長します。
種子(クミン・シード、cumin seed)には、強い芳香とほろ苦み、辛みがあり、香辛料として用いられます。*1)

注 *1)クミンの種子:“種子(Seed)”と呼ばれますが、植物学上は種子ではなく、果実です。

“クミンシード(cumin seed、クミンの種)”と呼ばれるが、実際は、クミンの果実

原産地は、エジプトまたは地中海沿岸東部とされます。

この地域の気候の特色で、温暖湿潤な気候・水はけの良い肥沃な土壌でよく生育します。
現在、最大の輸出国はイランで、またインド~ヨーロッパの広い地域でも栽培されています。

クミンは、最も古い時代から栽培されているスパイスのひとつで、紀元前16世紀の古代エジプトの医学書『エーベルス・パピルス』にも記載されています。

古代エジプトの医学書『エーベルス・パピルス』

7. アサフォエティダ(英名:asafoetida、学名:Ferula assa-foetida)

アサフォエティダ

アサフォエティダは、セリ科の二年草。
原産地は北アフリカですが、現在では中近東やインドで栽培されています。
茎から採れる樹脂状の物質が、香辛料や生薬として利用されます。

アサフォエティダ

ニンニクのような強い臭いがありますが、加熱すると強い臭いは消えます。
香辛料としてインドではよく利用され、またウスターソースの原料にもなっています。

8. シリアン・ルー(英名:Syrian rue、学名:Peganum harmala)

シリアン・ルーの花

ニトラリア科(Nitrariaceae)の多年生植物。
シリアン・ルーは、イランではエスファンド(esfand)・エスパンド(Espand)、北アフリカではハーメル(harmel)、アメリカではメキシカン・ルーやアフリカン・ルー(african rue)と呼ばれ、またその他にも、ワイルド・ルー(wild rue)と、さまざま通称名で呼ばれます。
他の種の植物「ルー」と見た目が似ているために、「ルー」と名のつく別名が多くなっています。

シリアン・ルー

原産地はアジアとされますが、中東(特に地中海東部)や南アジアの一部で自生しています。自生していることから、ワイルド・シリアン・ルー(Wild Syrian rue)とも呼ばれます。
成長すると、高さ0.8 mほどになることもありますが、通常は、0.3mほどの背丈になります。一方、その根は、乾いた土壌では地下6.1mにまで達します。
古くから歴史家たちは、この植物を「Soma(ソーマ)*2)」だと信じており、民間療法とともに、精神的な探求にも用いてきました。

注 *2)ソーマ(Soma):ソーマ(サンスクリット語)は、『ヴェーダ』などインドの神話に登場する神々の飲料。植物の液汁と考えられていますが、植物学上、その植物は確定されていません。このソーマを作る植物を神格化したインドの神のことも、ソーマとされています。
飲み物として存在するソーマは、祭祀で利用され、興奮作用、高揚感や幻覚作用をもたらします。“霊薬”と捉えられており、『リグ・ヴェーダ』の第9巻では、ソーマへの讃歌が歌われています。

シリアン・ルーには、自然界に広く分布するアルカロイドの一種“ハルミン(harmine)”が含まれていますが、このハルミンは、薬として用いられる一方で、幻覚性もあることで知られます。

シリアン・ルーの種と莢(さや)

一般的な薬として利用される場合、近年の研究では、抗真菌、抗腫瘍、血管弛緩作用、インスリン感受性の増加などの作用が確認されています。
そしてこのハルミンは、1847年に、シリアン・ルーの種子から初めて単離されました。