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東南アジアの地理と気候
東南アジアは、中国より南、インドより東のアジアの地域を指します。地理的には、インドシナ半島、マレー半島、インドネシア諸島、フィリピン諸島アジア、島嶼部東南アジアを含んでいます。
東南アジアの地理
東南アジアには、国として「インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム、ラオス、カンボジア、シンガポール、ブルネイ、タイ、ミャンマー、東ティモール」が含まれています。
東南アジアの気候・風土と、植生
東南アジアは、赤道直下の地域を含み、ミャンマーの北部の地域を除き、南緯10度から北回帰線*1)までの地域に収まっています。そのほとんどが熱帯の、たいへん熱い気候になります。
- 注*1)北回帰線:
赤道の北23度26分22秒の緯線(北緯23度26分22秒のライン)。夏至の時、太陽がこの線の真上を通る。
平均気温は25度以上で、熱帯地域特有のスコール(=急激な雷雨)が、雨期に多く発生します。湿潤熱帯に属する島嶼(とうしょ)部では一年中降水量が多く、大陸部とインドシナ半島では、モンスーン*2)の影響を受けて雨季と乾季がはっきりと分かれ、サバナ気候となります。
- 注*2)モンスーン(monsoon):
ある地域で、一定の方角へ特によく吹く風(=卓越風と呼ぶ)で、季節によって吹く方角(=卓越風向)が変化するもの。
ケッペンの気候区分
東南アジアにおけるケッペンの気候区分は、北部から順に、以下のようになります。
- 温帯夏雨気候(温帯気候):Cwa
- サバナ気候(熱帯気候):Aw
- 熱帯モンスーン気候(熱帯気候):Am
- 熱帯雨林気候(熱帯気候):Af
温帯夏雨気候
(humid subtropical climate)Cwa
温暖冬季少雨気候とも言います。
夏は気温が高く、降水量も多く湿潤である一方、冬は乾燥し、亜寒帯との境界付近以外は寒さもあまり厳しくありません。
低緯度の地域では高地が、中緯度の地域では内陸部がこの気候となります。
年間の降雨量は1000~2000mmと多めですが、年間を通して段階的に降雨量が変化していきます。
この気候帯での植生は、低緯度の地域(熱帯から温帯への移行地域)では照葉樹であるシイ類、カシ類、クス類、ツバキ、サザンカなどが見られます。また、高緯度の地域や高地では、落葉樹、針葉樹が見られます。
また、農業の生産性が高い気候で、ベトナムやミャンマー北部では、米の二期作が行われています。その他にも、綿花、茶、とうもろこし、小麦などが栽培されます。
この気候に属する東南アジアの主な地域には、サバナ気候から北部へ至る地帯に、香港、ベトナムのハノイなどがあります。東南アジアの北部にあたる、中国の南東部の大部分や台湾が属する温帯湿潤気候への移行地帯に、この温帯夏雨気候が存在します。また、標高約1400mの高原にあるフィリピンのバギオなどは、サバナ気候地帯の緯度に相当する高原で、低緯度地域にあっても高地のため熱帯に入らないため、この気候に属しています。
サバナ気候(熱帯気候)
(tropical savanna climate)Aw
年間の気温差が少なく、夏の雨季と、冬の乾季が明確に分かれているのが特徴です。
乾燥に強い樹木がまばらに生える草原=サバナ(Savanna)が広く分布しますが、この草原には、イネ科の植物も生育します。また、樹木は乾季に葉を落とし、草原の植物も枯れます。
稲作も盛んで、バングラデシュのガンジス川河口地域、ベトナム南部・カンボジアのメコン川流域(メコン・デルタ)、タイのチャオプラヤ川流域の地域では、米の二期作が行われています。これらの地域では、雨季になると水田の水深が数mの深さにもなることがあり、水田の水が増えても成長を続けられる「浮稲(うきいね)」という種類のイネが栽培されます。浮稲は洪水のなかでも栽培できるため、この地域の雨季の作物として貴重なものです。
この気候に属する地域は、インドシナ半島内陸部、バリ島の主に東部です。
都市では、ベトナムのホーチミン、タイのバンコク、インドネシア・バリ島のデンパサールなどが、サバナ気候に属します。
熱帯モンスーン気候
(monsoon climate)Am
赤道から低緯度地域・北回帰線の間に点在し、熱帯雨林気候からサバナ気候への移行地域の気候にあたります。海岸部に分布し、1日のうち午後に、モンスーンの影響を受けます。
年間の気温は高く、最も寒い月の平均気温が18℃以上と定義されます。
熱帯雨林気候と同等の雨量があるものの、モンスーンの影響により弱い乾季のある気候です。多くの地域では、夏をはさむ時期が雨季、冬の前後に乾季になります。
植生は主に、乾季の乾燥にも強い落葉広葉樹が、見られます。一方、乾季には枯れ草の多い草原が、雨季には鬱蒼とした湿原となる地域もあります。
農業では雨季に稲作が盛んに行われます。他の作物では、バナナなどの果物、サトウキビなどが栽培されます。
その他にも雨季の降水量が多いことから、様々な植物が生育しています。
この気候に属する地域は、インドシナ半島東岸、同西岸からマレー半島北部、フィリピン諸島西岸、インドネシアのジャワ島東部、同スラウェシ島南部からタニンバル諸島、またニューギニア島南部にかけての地域です。
主な都市では、インドネシアの首都ジャカルタ、ベトナムのフエなどが、この気候に属します。
熱帯雨林気候
(equatorial climate)Af
年間を通して雨が多く、気温は高く年間差も少ない気候です。また気温が高いために水分の蒸発量も多くなり、そのため湿度が高いのが特徴です。
降雨量が年間を通してあまり差がないことを除けば、熱帯モンスーン気候とほぼ同じ気候です。午後からスコール(=突然の激しい雨)が降りますが、この後には冷たい空気が降りてきて多少涼しくなります。最も寒い月の平均気温が18℃以上と定義されています。
東南アジアでは、赤道直下の島々、大陸の中西部に分布しています。
大都市のシンガポールもこの気候ですが、この気候帯に属する他の地域の多くは、人口の少ない地域がほとんどです。
よく知られた場所としては、フィリピンのダバオ、マレーシアのジョホールバルやクアラルンプール、コタキナバルが、熱帯雨林気候に属します。
植生は、熱帯性の多種多様な植物が豊富で、大きいものでは数10mの背丈のものあります。*3)
- 注*3)樹木の背丈:
樹木のうち高さが5mを超えるものは「高木」と呼ばれます。そのうち5~10m未満のものは「小高木」、20mを超えるものは「大高木」と呼ばれます。熱帯雨林では森林のうち最も高い層を形成している植物の層を「林冠」と呼びますが、この林冠を超えてさらに上に突き抜ける背の高い植物も生育します。
年間を通して雨が多いため、内陸部で河川が発達し、この河川沿いに多様な常緑広葉樹が広がります。また、海岸や河口付近では、マングローブの林が多く見られます。
この森林を「熱帯雨林」と呼び、特に東南アジアの熱帯雨林は「ジャングル」と呼ばれます。
ジャングルの中で、日光の届く低い層には、イバラ、トウダイグサ、ツルクサなどが生息します。
熱帯雨林は、世界規模での自然環境に大きな貢献をしています。地球上の二酸化炭素を吸収し酸素を生産、また水分を保持しています。
熱帯雨林ではスコールによって、短時間に多量の雨が集中して降るため、雨水が流されてきた低地では、氾濫(はんらん)を起こす頻度が高くなります。すると雨水によって、土壌はその栄養分を流され、やせた土壌になります。こうした土壌は「ラテライト」と呼ばれ、赤い色をしています。
ラテライトの土地では、一般的には農業には向きませんが、多くの地域で焼畑農法によりキャッサバやタロイモ、ヤムイモなどが生産されています。またプランテーションとして、ヤシやカカオなども生産されています。
一方でこの焼畑は森林火災につながることもあり、森林を破壊する環境問題にもなっています。
東南アジアの農耕文化
東南アジアは、そのほとんど地域が農耕文化であり、歴史を見ても、その多くの民族が農耕民族として生計を立ててきました。
例えば、ベトナムでは紀元前2000年頃に、タイの周辺地域では紀元前300年頃に農耕が始まったとされます。時代が少し下り、紀元後4世紀頃になると、カンボジアが東南アジア有数の稲作地帯となっていました。これは現在まで引き続いてきており、現在も東南アジアは、世界屈指の農業国家群です。
こうして農業が発展した要因としては、その気候、特にモンスーンの影響が大きいでしょう。東南アジアに吹くモンスーンは、アフリカ東岸からインド洋を経て吹いて来ますが、暑い地域からの風のため高温多湿な空気の流れを形成します。この風が海洋から大陸内へ向かって吹くと、陸上に雨季をもたらします。逆に大陸から海洋に向かって吹くと、陸上は乾季になります。
このモンスーンの影響による雨季の豊富な降雨と、熱帯帯地方特有の高温によって、この地域では、米の二期作・三期作が可能となったのです。
また、ラテライトの土壌の地域では、稲作には向かないため、変わりに、他の作物が栽培されています。
ラテライトの土壌に向くのは、パーム、ココヤシ、パイナップル、ゴムなどで、これらの作物が栽培されます。
また、東南アジアでは現在、古くからの手作業による小規模な農業と、プランテーションによる大規模な農業がともに行われています。
小規模農業では、主にキャッサバ(マニオク)、サツマイモ、ヤムイモ、ナッツ、バナナ、イネ、トウモロコシ、タピオカ、野菜、大豆などが栽培されています。
一方、プランテーションでは主に、ゴム、パームヤシ、ココナツ、パイナップル、紅茶、コーヒー、サトウキビなど、商品化される作物・輸出用の作物が栽培されます。