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東南アジアのハーブ・植物の特徴
東南アジアのほとんどの地域が熱帯気候に属しています。そのため、東南アジアには、高温で多湿な気候に適したハーブが数多く存在しています。また暑さによる食材の腐敗を防ぐためにも、ふんだんにハーブやスパイスが利用されています。
ハーブやスパイスは辛味だけでなく、レモングラスに代表されるように、とてもさわやかな香りを持っていることも特徴のひとつです。
ここでは、東南アジアの原産ハーブや、東南アジアの料理で使われる主なハーブ、ハーブ・植物の利用方法をご紹介します。
東南アジア料理と、料理で利用されるハーブ
東南アジア料理とハーブ
東南アジアの料理は、香ばしいハーブを使ったスパイシーな料理が特徴です。以下のような料理が、東南アジア料理としてよく知られています。
トムヤムクン
有名なのは、タイ料理のトムヤムクン*1)。レモングラスや、カフェライムリーフという聞きなれないハーブも利用されます。
- 注*1)トムヤムクン(Tom yum goong) :
タイのエビ入りスープ。「トム」=煮る、「ヤム」=混ぜる、「クン」=エビの意味。レモングラスを使った酸味のある味で有名なタイ料理のスープ。
バインセオ
ベトナム料理のバインセオ(=ベトナム風お好み焼き)には、ターメリックが米粉に混ぜ込まれています。
フォー
ベトナム料理の米粉麺のフォーには、バジル、コリアンダー、ニラ、唐辛子などのハーブがふんだんに利用されます。さらにトッピングとして、ライムの絞り汁、ヌクマム*2)、ヌクチャム(=唐辛子や刻みニンニクを漬けたヌクマム)、生唐辛子なども、お好みで加えられます。
- 注*2)ヌクマム:
ベトナム料理で使われる調味料で、小魚を原料とする魚醤(ぎょしょう:魚醤油のこと)の一種。魚介類に塩を加えて発酵させた食品「マム」の一種でもある。ベトナムを代表する調味料。これに、。砂糖、ニンニク、トウガラシ、ライムなどを加えると、ヌクチャムという調味料になる。
東南アジア料理で使われるハーブ
東南アジア料理で利用されるハーブは、高温多湿の気候を好んで育ちます。料理に利用されるハーブも多く、日本で育てられる種類もあります。しかし、中には寒さに弱く、年間を通しての栽培が難しいものもあります。
料理でよく利用されるハーブには、
- バジル、レモングラス、レモンバーベナ、ナスタチウム、ジャスミン、ジンジャー、ガランガル
などがあります。
以下は、東南アジア原産ではないものの、東南アジア料理でよく利用されるハーブです。
コリアンダー
(英名:Coriander、和名:和名. コエンドロ、学名:Coriandrum sativum)
東南アジアで「パクチー」とも呼ばれるコリアンダーは、ヨーロッパ地中海東部原産のハーブですが、東南アジアの料理には欠かせないハーブです。
・コリアンダーの利用
東南アジアの料理で最もよく使われるのは、コリアンダーの葉です。他の地域と違うのは、コリアンダーの葉はハーブとしてよりも、野菜として料理されていることです。
タイでは「パクチー」と呼ばれ、トムヤムクンなどのスープに入れる野菜として、またその他のさまざまな料理にも薬味として利用されます。
ベトナムでは「ザウムイ」と呼ばれ、生春巻きやフォーに添えられて、食べられます。
葉以外の部位も、コリンダーは利用されます。例えば、コリアンダーの根は、タイ料理では調味料として利用されることがあります。
オオバコエンドロ
(英名:Long Coriander / culantro、和名:オオバコエンドロ、学名:Eryngium foetidum)
オオバコエンドロは、セリ科ヒゴタイサイ属に属する多年生植物です。
原産地は南アメリカ北部の熱帯地域で、気候の似ている東南アジアと中南米では、香りのある野菜として利用されます。
東南アジアではコリアンダーとともに、料理の香り付けのために利用されます。
別名「ノコギリコリアンダー」と呼ばれますが、これはヨーロッパ原産のコリアンダー(Coriandrum sativum)とは種が異なります。
・オオバコエンドロの生態
成長すると背丈は20~30cmほど。長細い葉の端が、ギザギザになっているのが特徴です。
・オオバコエンドロの利用
オオバコエンドロは、東南アジアの各地で異なる名称で呼ばれます。例えば、タイでは「パク・チー・ファラン」、ベトナム北部では「ムイ・タウ」、ベトナム南部では「ゴー・ガイ」と呼ばれます。
オオバコエンドロも、ヨーロッパ原産のコリアンダーと似た香りがあるため、香草(こうそう)*4)として利用されることが多いのです。香り自体は、コリアンダーよりもオオバコエンドロのほうが強いようです。
また、その果実は香辛料としても利用されます。さらに、茎や根は煮込み料理に利用されることもあります。
- 注*4)香草(こうそう):
良い匂いのある草のこと。料理などで、香味料として使用される草(ハーブ)。
料理では、ベトナムのフォーと一緒に食べるのが定番です。柔らかい若葉の部分が主に食されます。
オオバコエンドロには薬効もあり、滋養強壮、免疫力強化などがよく知られています。
東南アジア原産のハーブ
東南アジア料理でよく利用されるハーブのうち、東南アジア原産のハーブには、以下のものがあります。日本ではあまり聞きなれないハーブもあります。
レモングラス
(英名:Lemon grass、和名:檸檬茅、学名:Cymbopogon citratus)
レモングラスは、イネ科オガルカヤ属の多年草です。
オガルカヤ属には多くの種があり利用されていますが、本種の Cymbopogon citratus は、マレーシアが原産だとされています。また、イーストインディアン・レモングラス(学名:Cymbopogon flexuosus)と呼ばれる種は、インド、スリランカ、ミャンマー、タイが原産とされます。
レモングラスの生態
レモングラスは、成長すると背丈1.5メートルほどになる背の高いハーブで、葉も細長く、1mもの長さになります。
レモングラスの利用
レモングラスはレモンのようなフレッシュな香りを持ち、その香りの良さから、料理によく利用されます。アジア料理はもちろん、中米のカリブ料理や、インド・スリランカ料理でもポピュラーなハーブです。
東南アジアでは、特にタイのスープ料理「トムヤムクン」で香り付けに利用されるのが有名です。また、ハーブティーとしても利用されます。
また、レモンの香りは、レモングラスに含まれる成分シトラールによるものです。この香りは脳へフレッシュな刺激を与えるため、精油(エッセンシャルオイル)としても利用されます。しかし、皮膚への影響が強いため、マッサージなどの外用には利用されません。
ガランガル(ガランガー)
(英名:Galangal、学名:Alpinia galanga)
ガランガルは、ショウガ科の一年生植物で、またその根茎のことを指します。
原産地は東南アジアです。
東南アジアの国ごとに、様々な名称で呼ばれており、タイでは「カー」、インドネシアでは「ケンチュール」や「ラオ」、マレーシアでは「レンクアス」と呼ばれます。
一般的にガランガルと呼ばれる植物は、ショウガ科の以下の4つの種を指しています。
- ナンキョウ
(英名:Greater galangal、学名:Alpinia galanga)
- リョウキョウ(コウリョウキョウ)
(英名:Lesser galangal、学名:Alpinia officinarum)
- バンウコン
(英名:Kaempferia galanga、学名:Kaempferia galanga)
- オオバンガジュツ
(学名:Boesenbergia rotunda)
ガランガルの生態
ガランガルの葉は、一枚葉の槍形で先がとがっています。
葉皮は茎のように包まって重なっていますが、実際の茎は地下に伸びています。
赤紫がかった白い色の花をつけ、茎の先端で房になって咲きます。
根を乾燥させたものは、木片のように固いのが特徴です。
ガランガルの利用
・食用としての利用
ガランガルは、一般的に根茎が生のままの状態、または乾燥させた状態で利用されます。また、茎や葉、花も食用として利用されることもあります。
その味は、ほんのりと辛く、甘みと酸味も含んでいる味です。見た目はショウガにとても良く似ていますが、この微妙な味と独特な香りが、ショウガとは全く異なっています。
東南アジアでは、主に肉料理や魚料理の臭みを取るために利用されます。タイ料理の「トムヤムクン」では、レモングラスと共にガランガルが必須のハーブです。
その他、タイ・ラオス料理の「トムカーガイ*3)」や、ベトナムの「フエ料理」、インドネシア料理の「ソト」など、東南アジアの料全般によく利用されます。
- 注*3)トムカーガイ:
タイ・ラオスのココナッツミルクのスープ。トムカーカイとも呼ぶ。タイのトムカーガイには、ココナッツミルク、ガランガル、カフェライムリーフ、レモングラス、トウガラシ(タイ・チリペッパー)、コリアンダー(またはイノンド)、フクロタケ(あるいはシイタケなど)、鶏肉、ナンプラー、ライム果汁が利用される。
スープ料理の香り付けや、魚や肉の臭み消しとしての利用が一般的です。
・薬としての利用
漢方では、胃の粘膜・喉(のど)・気管支の炎症を抑える効果があるといわれています。また、インドネシアでは、薬としても利用されてきました。
さらに南東アジアの一部地域では、ガランガルとライム果汁を混合し、強壮剤としても利用されています。
カフェライムリーフ
(英名:kaffir lime leaf、和名:コブミカン、学名:Citrus hystrix)
カフェライムは、ミカン科ミカン属の潅木です。
別名「バイマックルー」、「ブルット」、「スワンギ」、「マクルー」 など、多くの名称で呼ばれます。
原産地は熱帯気候の東南アジアです。
カフェライムの生態
カフェライムは成長すると、2~10mの背丈になります。
2枚連なった葉が、独特の形をしています。
また、緑色の果実をつけ、枝には棘(とげ)があります。
東南アジアでは、家庭の裏庭によく植えられています。
カフェライムの利用
・料理での利用
カフェライムは、その葉や実が料理によく利用され、料理に使われる葉は「カフェライムリーフ」と呼ばれます。
柑橘系の強い香りが、タイ料理の香り付けとして利用されます。カレーやスープ(トムヤムクン)、チキンや魚料理の風味づけにも利用されます。
カフェライムリーフが利用されるタイ料理は、酸味のある味が特徴で、トムヤムクン、トムカーカイには欠かせないハーブです。
また、インドネシア料理のスープ「ソトアヤム(Soto ayam)」にも利用されます。
また葉だけでなく、果実の外皮にも強い香りがあり、葉と同様に料理に利用されます。果物自体には、酸味や苦味があります。
一方、食用以外では、カフェライムの実がシャンプーの原料として利用されることもあります。東南アジアでは、生活に根付いたとてもポピュラーなハーブです。
・薬としての利用
カフェライムの果汁と果皮は、インドネシアでは薬としても利用され、果皮から取れる油には強い殺虫効果があります。そのためインドネシアでは、カフェライムの果実は「ジェルク・オバット(「薬のミカン」の意)」と呼ばれます。