神話以外でも、古代ギリシャではハーブは料理の中で利用されていました。
古代メソポタミア文明と同じく、古代ギリシャでも当時の料理レシピが残されています。紀元前3世紀、シラクサのミテコスというギリシャ人が残したレシピです。
さらに古い時代、紀元前1500年頃に繁栄したとされるギリシャのミケーネ文明の粘土板にも、「セロリ、コリアンダー、フェンネル、ミント」といった、当時使用されていたハーブの名前が刻まれています。
古代ギリシャといえば、著名な哲学者や植物学者を思い起こすことも多いでしょう。
ハーブの世界でももちろん、古代ギリシャの豊富な知識・知恵が、書物の中に著されています。
アテナイのテオプラストスによる『植物誌』
紀元前2世紀に、アテナイのテオプラストスが著した『植物誌』は、全10巻の植物学の百科事典です。植物の特性を主に根や葉の形によって説明しており、18世紀”分類学の父”と呼ばれたリンネの先駆けとも言われています。
大プリニウスによる百科事典『博物誌』
1世紀、古代ローマでは、大プリニウスが、同じく百科事典『博物誌』を編纂しました。
『博物誌』は、自然界を網羅する百科事典として、160冊(全37巻)もの壮大な量にまとめられていますが、そのうち植物誌は全16巻が当てられています。
この中には、テオプラストスの著書から、そのままの引用も見られます。
ディオスコリデスによる『薬物誌』
同じく1世紀、ギリシャの医師・植物学者のディオスコリデスが著した『薬物誌』(全5巻)は、600種類以上の植物を扱っており、それらをその特徴や性質において体系化していることが特徴です。
その後、中世後期になるまで、ディオスコリデスの『薬物誌』が、植物についての知識の規範とされていました。
アピキウスの『料理帖』
古代ギリシャに続く古代ローマ時代は、贅を尽くした文明でも有名です。
1世紀の美食家アピキウスの名を冠して、彼の死後に編纂された『料理帖』からは、当時のレシピをうかがい知ることができるでしょう。

『アピシウス』De opsoniis et condimentis (アムステルダム: J. Waesbergios), 1709年。
[マーチン・リスターが個人的に出版した『アピシウス』の版の第2版の口絵]
『料理帖(アピシウス)』では、多くのハーブが料理用として紹介されていますが、現在も使用されているハーブに加え、今では絶滅したハーブや、特定の難しいハーブも記載されています。
このように、古代ギリシャ・古代ローマの時代は、当時の人々とハーブの関わりについて参照することのできる文献が生まれた、たいへん興味深い時代です。
日本語訳された著書もあるため、興味のある方は、古(いにしえ)の雰囲気を味わう楽しみと同時に、かつてのレシピを現代に蘇らせる実践のためにも、参照されてみてはいかがでしょうか?
日本語訳書籍のある当時の文献
– テオプラストス『植物誌』小川洋子訳 / 京都大学学術出版会
– 大プリニウス『博物誌』中野定雄他訳 / 雄山閣出版
– ディオスコリデス『薬物誌』鷲谷いずみ、大槻真一郎訳 / エンタプライズ刊