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太平洋諸島で利用されたハーブ
太平洋諸島での、儀式的なハーブの利用といえば、もっぱら「カヴァ」が有名です。
カヴァ(Kava、学名:Piper methysticum G.Forst.)
カヴァ(Kava)は別名「カヴァカヴァ」と呼ばれ、またフィジーでは「ヤンゴーナ」、ハワイでは「アヴァ(’Awa)」という別名も持ちます。
コショウ科の低木で、太平洋のメラネシアからポリネシアの地域(フィジー、トンガ、サモアなど)を原産とし、この地域では何世紀にも渡り、医療用や嗜好品として、また宗教的儀式において常用されてきました。
カヴァには「カヴァラクトン」と総称されるいくつかの向精神物質が含まれ、日常的にはお客様をもてなすためや王族の飲み物である一方、宗教的儀式・社会的儀式の中でも利用されます。儀式の中では、カヴァを飲むことで、神や祖先、大地・自然とつながると人々は信じており、カヴァを使用した儀式は、今でもこの地域の島々で行われています。
ハワイの伝統舞踊”フラ”の儀式とカヴァ
カヴァには、「モイ」や「ヒヴァ」と呼ばれる、いくつかの種類があります。例えばハワイの伝統舞踊「フラ」の伝道者が行う儀式では、カヴァのうち「ヒヴァ」が使われます。カヴァの力を借り、インスピレーションを得、踊りの神とつながる儀式となるのでしょう。
こうしたカヴァを利用した儀式もまた、「カヴァ」と呼ばれることがあります。
カヴァを儀式で使用する際には、通常、カヴァの根を叩いて発酵させて作った液体の飲み物のことを指します。ハワイ語では「アヴァ」と言いますが、これは「苦い」という意味の語で、その名の通り、苦味を持っています。
カヴァの薬効
カヴァの薬効は、現在、「鎮静効果、緊張や不安の緩和作用、コミュニケーション増大、インスピレーション増大」などが報告されており、閉経後の女性の不安・興奮に対しても効果があるとされたり、睡眠障害の改善のためにも利用されています。
このようなリラックス効果を持つハーブの中でも、特にカヴァは「ピース・メイカー(平和を生み出すもの)」と呼ばれています。それは、それを摂取した人々を、より穏やかに、調和的に、そして理性的な状態にする助けとなると、認識されていることによります。
また、ハワイでは現在、二日酔い止めの薬としても使用されています。
西洋文化と出会ったカヴァ
このように、現地の人々にとって、生活の中に根ざし、宗教的意味合いも強かったカヴァは、18世紀イギリスの航海士ジェームズ・クックによって発見されます。その後、植民地開拓のために南太平洋にやってきたキリスト教宣教師たちによって、排斥されようとした歴史があります。
キリスト教を布教に来た彼らにとっては、現地の宗教やその儀式と結びついたカヴァを受け入れることはできず、「悪魔の飲み物」とさえ呼びました。
ですがこうした排斥運動にもよらず、現地の人々はカヴァを守り続け、ついには、ローマ・カトリック教会も、現地での彼らの儀式にカヴァを取り入れ始めた記録もあるほどです。
これほどまでにカヴァは、当時、宗教や儀式ととても結びついたハーブととらえられていたことがうかがえる逸話です。
現代のカヴァ
ところで現在、カヴァは肝臓に害を及ぼす、という報告もありますが、これはカヴァの葉から作られたサプリメントで、ヨーロッパで販売されたものという情報です。本来、太平洋の人々が利用していたカヴァは、根を利用したもので、こうした害は報告されていません。
また一方、こうした肝臓障害をもたらしたものは、カヴァの茎が含まれる部分から人工的に有効成分を抽出したものだという情報もあります。カヴァの有毒成分は、この茎に含まれていることが、ハワイ大学での研究で明らかになっています。
本来、太平洋の人々が使用してきたカヴァは、茎は利用していませんでした。