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ヒルデガルト・フォン・ビンゲン*1)(Hildegard von Bingen, ユリウス暦1098~1179年)は、ドイツ・ビンゲンの地に自ら作ったのベネディクト会系女子修道院の院長で、中世の修道院でハーブを研究した人物として有名です。
ヒルデガルトは、医学・薬草学の研究の成果から、「ドイツ薬草学の祖」と呼ばれています。→ 中世のハーブI – 中世の定義と、ヨーロッパ中世
*ヒルデガルト・フォン・ビンゲンは、”ビンゲン(地名)のヒルデガルト”という意味です。
ヒルデガルトのハーブ
ヒルデガルトの著書『Liber Divinorum Operum』では、修道院とヒルデガルトが用いたハーブが90種、またそれらをアレンジしたヒルデガルトの植物療法が症状別で58例、紹介されています。
ヒルデガルトとハーブについて有名なのは、ヨーロッパに初めて「ラベンダー」という語と、その薬効のパワーを紹介したことです。
ハーブを取り入れたさまざまなレシピが残されています。
ヒルデガルトは、人々のそれぞれの性質(体液バランス)と反対の性質を取り入れると良いと考え、ハーブを処方しました。心と身体を一体のものと考え、心身ともに健康的なライフスタイルを提唱した、中世で最も重要な人物の一人です。
ヒルデガルトは、自身のハーブ研究の成果も、広く広めようと努めました。自身で作った2つの修道院において、修道女たちにメディカルハーブを伝え、書物も記しています。現代でも、彼女のレシピ本が邦訳されるほど、実用性が高く人気のあるハーブ研究家です。
ヒルデガルトが言及したハーブとして、以下のようなものが挙げられます。*1)
- アグリモニー、アサ、アルム属、アロエ、(ブラック)エルダー、オオグルマ、オートムギ、大麦、オリーブ、オレガノ、ガーリック、カウスリップ、ガジュツ、カモミール・ジャーマン、カレンデュラ、カンファー、キャラウェイ、グランドアイビー、クルミ、クレソン、クローブ、ケシ、コウリョウキョウ、コタニワタリ、小麦、コモンタイム、コルツフット、サニクル、シナモン、ジュニパー、ジョチュウギク・ローマン、シルバーバーチ、ジンジャー、スペルト小麦、スロー、セイヨウオダマキ、セイヨウカリン、セイヨウザクラ、セイヨウナシ、セイヨウハシバミ、セイヨウリンゴ、セージ、セロリ、セントジョンズワート、ソラマメ、チャービル、ディル、ナツメグ、ナナカマド属、ニオイスミレ、乳香、ネトル、バーベイン、バジル、パセリ、ヒソップ、フェヌグリーク、フェンネル、ブドウ(ワイン)、フラックス、ブラックベリー、プルーン、ヘラオオバコ、ヘンルーダ、ホアハウンド、マーシュマロウ、マグワート、マスターワート、マドンナリリー、マルメロ、マレイン、ミスルトゥ、ミルラ、ミント、メリッサ、モモ、ヤロウ、ヨウシュクサノオウ、ヨーロッパグリ、ヨーロッパモミ、ライ麦、ラビッジ、ラベンダー、ラングワート、リコリス、ローズ、ローレル、ワームウッド、ワイルドタイム
注*1) 引用:邦訳書『ヒルデガルトのハーブ療法 修道院の薬草90種と症状別アドバイス』目次より90種
「四体液説」と「四気質」
ヒルデガルトは、古代ギリシャの医師ヒポクラテスの唱えた「四体液説」を基礎とし、「四気質」に基づいて健康とハーブを解釈しました。
「四体液説」は、人間の身体に存在する数種類の体液の調和によって、身体と精神の健康が保たれ、それらのバランスが崩れると病気になる、という考え方です。
「4」という数は、西洋哲学の基礎に見られるもので、万物が4つの元素(火、土、風、水)によって成り立っているとする「四大元素説」が有名です。この四大元素説は、西洋占星術の理論でも共有され、ヨーロッパの哲学と精神性に、大きく影響を与えています。
四大元素の「火、土、風、水」は、あらゆる分野の性質を象徴していると捉えられますが、それを人間の体質に当てはめたものが、「四体液説」です。
「四体液説」は「血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁」の4種類を人の基本体液として分類していますが、それらの体液は人の気質にも影響するという考えから、「四気質」(胆汁質、多血質、粘液質、憂鬱質(黒胆汁質))が導かれました。
そして、人の健康は、体液のバランスが調和していることだと解釈しています。
「四気質」では、人間と植物の性質を、「温/冷、湿/乾」の4つの性質に分類しましたが、「温または冷」と「湿または乾」をそれぞれ組み合わせることで、四大元素「火、土、風、水」に対応させています。
その対応は、
- 火(黄胆汁):温+乾
- 土(黒胆汁):冷+乾
- 風(血液) :温+湿
- 水(粘液) :冷+湿
となります。
「熱・冷・湿・乾」の4区分はもともと、アリストテレスの四大元素説(四性質説)で唱えられており、「熱と冷」「湿と乾」という相反する性質の組み合わせが、物質の性質を作っていると考えました。「火・地・風・水」という象徴的な性質よりも、より”人間の感覚に根ざした性質”を四気質として挙げていて、ヒルデガルトの四気質も、この理論に基づいています。
ヒルデガルトは、この四気質の性質にそって、ハーブを分類しました。例えば、
<温>のハーブ
- ・カランガル(完全な温)
・マグワート(大変な温)
・シナモン(大変な温)
・ジンジャー
・ジャーマンカモミール
・メリッサ(レモンバーム)
・リコリス(適度な温)
・フェンネル(穏やかな温)
・ブラックベリー(やや温)
・ジュニパー(やや温)
<冷>のハーブ
- ・ローズ(適度な冷)
また、2つの性質の組み合わせとしては、
<温・乾>のハーブ:四大元素の「火」、四体液説の「黄胆汁」に対応
-
・クリバーズ
・ジャーマンカモミール
・ジュニパー
・ジンジャー
・セージ
・タイム
・チェストツリー
・ネトル
・バーベイン
・ヒソップ
・フェンネル
・ヤロウ
・ラベンダー
・レディースマントル
・ローズマリー
<温・湿>のハーブ:四大元素の「風」、四体液説の「血液」に対応
-
・コルツフット
・バレリアン
・メドウスィート
・リコリス
<冷・乾>のハーブ:四大元素の「地」、四体液説の「黒胆汁」に対応
-
・シェバーズバース
・ダンデライオン
・ホーステール
<冷・湿>のハーブ:四大元素の「水」、四体液説の「粘液」に対応
- ・マレイン
などに分類しています。
ヒルデガルトのハーブティー・ブレンド
ヒルデガルトは、生活のシーンや身体の症状にあわせて、ハーブティーのブレンド・レシピも残しています。
それらのブレンドには、このような名前がつけられています。
- Energy Tea(エネルギーのお茶)
体調を高め、気分を爽快にするもの。ヒソップ、ミントなどを含み、香り高い。 - Fasting Tea(断食のお茶)
空腹感を抑え、水分排出を促し、ダイエットに最適。ヒソップ、スペアミント、フェンネルなどを含む。 - Warming Tea(暖めるお茶)
胃腸のバランスを整え、フェイシャルスチームにも利用できるもの。ブラックベリー、セージ、タイム、ヨモビなどを含む。 - Harmony Tea(調和のお茶)
香りのよさでリラックス効果が高いもの。マルメロ、フェンネル、レモンバームなどを含む。 - Women Spice Tea(女性のためのお茶)
特に女性の心身の調和とバランスをとり、また活性化させるもの。オレンジ、シナモン、コリアンダー、レモンバームなどを含む。 - Easy Breath (呼吸のお茶)
季節の変わり目などに、調和をとるためのもの。ブラックベリー、タイム、フェンネル、ヒソップ、エルダーフラワー、マロウなどを含む。 - Relaxing Tea(リラックスのお茶)
その香りで心身を落ち着かせるもの。メリッサ、ラヴェンダーなどの香りが特徴。他に、レモンバーム、セージ、フェンネル、マリーゴールどなどを含む。
などです。
これらのブレンドは、現代でも、オーストリアのオーガニック紅茶の業者”ゾネントア社”より、「ヒルデガルトのお茶」シリーズとして販売されています。