近世のハーブ

近世のハーブI – 近世の定義と、本草書の百花繚乱期 1.イギリス

近世の定義

近世は、「西洋史上では、東ローマ帝国の滅亡からルネサンス・宗教改革・大航海時代あたり(15世紀~16世紀前半)から、市民革命・産業革命の時代の前あたり(18世紀後半~19世紀初頭)まで」(*Wikipediaより)とされます。

時代区分として、古代・中世・近世・近代の4期の時代が一般的に定義されますが、近世はその中で、「ルネサンス・宗教改革・大航海時代」というヨーロッパにおける大きな文化的変化を経て、人々の生活や食生活にも大きな発展がもたらされた時代と言ってよいでしょう。

ハーブの世界では、先に述べた「大航海時代」によって東方や新大陸のハーブがヨーロッパにもたらされた後、植民地時代を迎えるとさらに、現地の食生活とヨーロッパのハーブや植物が融合されていきました。

文化的な改革も華やかなこの時代、大きな役割を担ったのが、グーテンベルクによる活版印刷術の普及でした。これにより、多くの本草書が、ヨーロッパ各国で著されました。

各国の代表的な本草書には、以下のようなものがあげられます。

イギリスでの本草書

リチャード・バンクスによる『大本草書(Banckes’s Herbal)

1525年、印刷業者リチャード・バンクスによって出版された『大本草書(Banckes’s Herbal)』は、イギリスにおいて、植物学の詳細な情報を盛り込んだ最初の書籍でした。薬効についての記述よりも、植物の形態や描写について詳しいこの書籍は、1941年に現代版としてニューヨーク植物園より『大本草[1525]』として出版されたほどです。

ニューヨーク植物園

ニューヨーク植物園

この書籍は、16~17世紀にドイツ本草学が興隆する先駆けとなった『ドイツ本草』(1496年)と、『大本草』(1520年)を下敷きにして、中世英語で書かれています。

リチャード・バンクス『大本草書』

リチャード・バンクス『大本草書』

ピーター・トレヴェリスによる『大本草書』

その翌年、1526年には、ピーター・トレヴェリスによって出版された『大本草書』も、近世イギリスで中世英語で記された、重要な本草書です。

ピーター・トレヴェリス『大本草書』

ピーター・トレヴェリス『大本草書』

ジョン・ジェラードによる『本草書または植物の話(The Herball or Generall Hiftorie of Plantes.)

16世紀以降には、イギリスで偉大な2人のハーバリストによる書籍が印刷されています。

ひとつは、ジョン・ジェラード(1545~1611年)による『本草書または植物の話(The Herball or Generall Hiftorie of Plantes.)(1597年)(通称「ジェラードの本草書」(Gerard’s Herbal))で、民間伝承の内容も多いものの、先の多くの本草書を下敷きにした上、独自の加筆もされた内容です。

ジョン・ジェラード(John Gerard, 1545-1612)ポートレイト

ジョン・ジェラード(John Gerard, 1545-1612)ポートレイト

ジョン・ジェラード 『本草書または植物の話』

ジョン・ジェラード 『本草書または植物の話』

この頃の植物学は、それまでの時代の、ディオスコリデスの『薬物誌』を研究するものから、植物そのものを観察・分類する形へと移行し始めていました。ジェラードの本書は、その両方の性質を含んでおり、また多くの図版も掲載されていました。

ニコラス・カルペパーによる『英語で書かれた療法 (English Physitian))』

17世紀になると、占星術師としても有名な、ニコラス・カルペパー(1616~1654年)が登場します。彼の著書には、占星術や錬金術、植物と人間の体の部位の相似性を説いた”特徴説”など独自の視点も盛り込まれています。カルペパーは現代でも人気が高く、”ハーブ伝統の開祖”と捉えられています。

ニコラス・カルペパー(Nicholas Culpepper, 1616~1654年) ポートレイト

ニコラス・カルペパー(Nicholas Culpepper, 1616~1654年) ポートレイト

カルペパーの著書『英語で書かれた療法 (English Physitian)(1652年)は、英国内で読まれただけでなく、その後の歴史の中で、北米の植民地へ運ばれ、現地では医療書としても重宝されました。

ニコラス・カルペパー『英語で書かれた療法 (English Physitian)』

ニコラス・カルペパー『英語で書かれた療法 (English Physitian)』

近世のハーブII – 本草書の百花繚乱期 2. ドイツ、フランスの本草学