目次
植民地時代には、ヨーロッパから殖民した人々が、現地で採取した種を本国へ送るなど、ヨーロッパへもたらされたハーブもありました。
2.ヨーロッパへ伝えられたハーブと、その原産地
植民地においてヨーロッパ人に発見され、その後ヨーロッパへ持ち帰られ、今では世界中に広がっていったハーブもたくさんあります。
アメリカ大陸のハーブ
アメリカ大陸からは、ヨーロッパで知られていなかった貴重なハーブが伝えられました。代表的なものに、以下のハーブが挙げられます。
1.マテ(=イェルバ・マテ) [学名 Ilex paraguariensis]
南米原産。英名「Yerba mate, Yerba mate, Erva mate」。
南米の東部(ブラジル、パラグアイ、アルゼンチンにまたがるイグアスの滝周辺)が原産と推定されています。この地域の先住民たちが、自生のマテを飲用されていたとされています。
15世紀末からこれらの地に植民を始めたスペイン人宣教師たちによって、現在のパラグアイを中心に栽培されていました。これにより商業化が進み、ヨーロッパへも大きく普及していきました。
2.ササフラス(=サッサフラス) [学名 Sassafras J.Presl]
英名「Sassafras」。1602年、イギリス人によってマサチューセッツ州沖で発見され、その後イギリスへ持ち帰られました。ササフラスの一種 “Sassafras albidum” は、北米東部原産で、芳香があり、現代では精油など香料原料として利用されます。
狭義のサッサフラスは “Sassafras albidum”(学名)のことで、北米東部一帯に自生します。
3.レモン・バーベナ [学名 Aloysia citrodora]
南米原産。アルゼンチン、チリ、ペルー原産。17世紀、スペイン人たちが自国へ持ち帰ったことにより、ヨーロッパに伝わりました。
4.マリーゴールド [学名 Calendula officinalis]
南米原産。和名「キンセンカ(金盞花)」。
食用花のマリーゴールドは、レモン・バーベナ同様に、17世紀にスペイン人たちによりヨーロッパに伝わりました。
マリーゴールドと呼ばれるハーブにはいくつか種類がありますが、アメリカ大陸で発見されたマリーゴールドはメキシコ原産で、”アフリカン・マリーゴールド”と呼ばれるものです。
ジョン・バートラムと、”バートラムの庭園”
アメリカ植民地時代の植物学者として特筆すべき人物が、ジョン・バートラム(John Bartram、1699年3月23日 ~ 1777年9月22日)です。
バートラムは1765年、ペンシルバニア入植地に、クエーカー教徒のイギリス人農民の息子として生まれました。専門的な教育は受けていないにもかかわらず、生涯、薬用植物についての研究を続け、自宅の農園に植物を育てたことから、北アメリカの植物研究に貢献しました。
彼は北アメリカ大陸を旅し、アメリカ大陸土着の植物200種類以上と、その種を採取し、イギリスへ送っています(それらの植物は、”Bartram’s Boxes”と呼ばれました)。「アメリカ植物学の父」と評価され、後のリンネの分類学にも貢献することになりました。
こうしたことから、ジョージ3世時代には、北米における王室植物学者に任じられています。
彼が発見したハーブに、ブラックコホシュとオスウィーゴ(=ベルガモット)があります。
また彼は、ハーブの研究のため、アメリカに最初の植物園を作りましたが、形を変え現在も”バートラムの庭園(Bartram’s Garden)”として、フィラデルフィアに存続しています。
新大陸のハーブのうち、以下は特に、南米のインカ帝国/マヤ・アステカ文明から継承されたハーブ/スパイスの一部です。
インカ帝国のハーブ・スパイス
1.ピンク・ペッパー [学名 Schinus molle L.](コショウボク)
英名「Pink peppercorn」。コショウボクという低木の実を乾燥させたもの。コショウボクは、南北アメリカの乾燥地帯、ペルーのアンデス砂漠地帯が原産です(ペルー種 Peruvian pepper)。
見た目も味も、コショウに似ていますが、スパイスの胡椒とは別物です。見た目から”ピンクペッパーと呼ばれており、ブラジル種(Brazilian pepper)とペルー種(Peruvian pepper)があります。
1598年に鑑賞用植物としてフロリダに運ばれ、その後この地ではびこることになりました。
2.コカ [学名 Erythroxylum coca]
南米原産。コカの葉からは麻薬成分が抽出できますが、葉自体には麻薬成分は少なく、現地では日常的に、お茶として飲用されていました(”コカ茶”と呼ぶ)。
*コカの葉から麻薬成分コカインを抽出する技術は、ずっと時代が下った1860年に発見されたものです。
マヤ・アステカ文明のハーブ・スパイス
1.チョコレート(カカオ) [学名 Theobroma cacao]
中央~南アメリカの熱帯地域が原産。”カカオポッド”と呼ばれる果実が幹からぶら下がりますが、この果実は形も色もさまざまなものがあります。カカオポッドの中から採れるのがカカオ豆 (cacao beans)で、チョコレートの元になります。
学名の[Theobroma]は、ギリシャ語で「神 (theos)の食べ物 (broma)」を意味するほど、栄養価の高い植物です。
コロンブスは1502年、現在のホンジュラス付近からカカオの種子をスペインへ持ち帰りましたが、この時はカカオの利用法はまだよく知られておらず、1519年この地を征服したコルテスによって、カカオの利用法が知られることになりました。
2.バニラ [学名 Vanilla planifolia]
メキシコ~中央アメリカが原産。種子の鞘(さや)を繰り返し発酵・乾燥させることで、甘い香りが得られます。この地ではタバコなどへの香り付けに利用されていました。
コロンブスが訪れた後、スペインからの征服者(コンキスタドール)により、ヨーロッパへと運ばれました。
3.チリ(チリ・ペッパー) [学名 Capsicum annuum]
メキシコ原産。多くの種類があり、ハラペーニョやハバネロなどが有名です。
クリストファー・コロンブスが胡椒と誤ってヨーロッパへ伝えたため、「ペッパー」の名で呼ばれています。コロンブスが最初にスペインに持ち帰った際にはヨーロッパで大きく知られることはなく、後にポルトガル人がブラジルを再発見した際に、改めて伝えられました。
4.タバスコ・ペッパー [学名 Capsicum frutescens ‘Tabasco’]
メキシコ・タバスコ州原産のキダチトウガラシの一品種”チレ・タバスコ”のことで、チリ・ペッパーの仲間です。タバスコ・ペッパーの名は、タバスコ州にちなんでつけられました。
5.スコッチ・ボンネット [学名 Capsicum chinense]
チリの仲間ですが、その中でも非常に辛味の強い種です。主に南北アメリカの間のカリブ海の島々に見られます。
アメリカ大陸は、熱帯雨林や広大なアマゾン川を抱える南米を含み、それらの地域で発見されたハーブ・スパイスは、現在でもさらに学術的研究が進められているほど、栄養価や薬効の高いものが豊富です。
近世では、特に中・南米において、暑い地域で育成するこれらの植物が発見され、食生活や嗜好にも影響を与え始めた時代と言えるでしょう。