人類が、ハーブや植物を健康や治療のために利用するようになった以前にも、もちろん、それらの植物は地上に存在していました。ハーブや植物は、私たち人類だけが利用していたのではなく、人間以外の野生動物も、有益な薬草を利用していたと考えられる記録があります。
野生動物たちも、その古い歴史の中で、世代から世代へと伝えられた知恵があったのでしょうか?もちろん、本能によって、ハーブや植物の効果を知って利用していたのだとしたら、とても興味深いことです。
例えば、京都大学霊長類研究所グループの研究では、カメルーンのチンパンジーは、病気の時だけに食べる植物があるということが分かっています。その植物は、キク科ヤンバルヒゴタ属で、寄生虫を殺す成分が含まれているということ。噛むととても苦いのですが、この苦味成分はステロイド配糖体(*1)とベルノダリン(*2)によるものです。
さらにチンパンジーは、この有用な植物の、毒性のない枝の髄の汁の部分(ステロイド配糖体を含む)を選んで食べていたということも、驚きですね。
- *注1)ステロイド配糖体:あらゆる植物に多く含まれる化合物で、様々な種類があり、苦味と薬理作用を持つものが多い。
- *注2)ベルノダリン:医療現場で免疫抑制剤の有効成分としても利用されているもの。海外での研究では抗腫瘍効果も確認も認められている。
また、野生のニホンザルの研究においても、志賀のニホンザルが食べていた植物193種類中49種が薬用植物で、房総のニホンザルでは、218種類中30種が薬用植物だったという研究もあります。常食とする植物の中で、とても高い比率で薬用植物を食べていたのですね。
サルは人類に近い種で、その行動から私たち人類の生活の歴史を振り返ると、多くの発見があるでしょう。
ヒマラヤの腐植土”シラジット”(*3)は、インドのアーユルヴェーダの古典文献『チャラカ・サムヒター』に「シラジットで効果が出ない病はほとんどない」と記載されているほどの万能薬ですが、岩場でサルが摂取しているのを見て、人類が発見した物質です。
- *注3)シラジット:ヒマラヤの断崖絶壁(高度3,000~5,000メートル)から採取される天然の腐植土と植物性有機物の混合物。84種の微量元素と豊富な腐植質(フミン質)を含み、健康増進の万能薬とされる。
自然の一部である野生動物の本能、知恵は、同じ動物である私たち人類の歴史を振り返る中でも、とても示唆深いものですね。
考えてみれば、人類ももともとは野生動物。他の動物を観察し、より本能の強い野生動物たちが選んでいるハーブや自然の物質を取り入れることで、ハーブや植物を学び発展させて来たとも言えるでしょう。
サルはハーブとの関係で、最も観察されている動物の一種でしょうが、他の野生動物も同様に、ハーブや植物を利用してきたのでしょう。
そして現代では、私たちと生活を共にするペットたちにも、こうした経験から、ハーブを利用し健やかに生きる生き方が提案されてきています。