目次
アフリカ大陸・各地の植生とハーブ
広大なアフリカは、各地でそれぞれ違った気候を持ち、そのため植生も様々です。アフリカ大陸は、大きく分けると「大陸北部、赤道付近、大陸南部、大陸東部」の4つの気候的特色を持つ地域に分けることができます。
それら各地域の植生とハーブの特性を、以下にご紹介します。
大陸北部:非常に乾燥したサハラ砂漠
アフリカ大陸の北部は、そのほとんどがサハラ砂漠であり、砂漠のため植物はほとんど育ちませんが、オアシスなどの水辺で、群生している植物が見られます。
また、アフリカの砂漠には、以下のような植物が生息しています。
ユーフォルビア属
(和名:トウダイグサ属、学名:Euphorbia)
ユーフォルビア属は、ユーフォルビア科(和名:トウダイグサ科)に属する一群の植物です。見た目は、サボテンによく似ています。
アフリカ原産ではありませんが、アフリカに持ち込まれた後、サハラ砂漠や他の砂漠で繁殖していきました。地中海周辺にも栽培されましたが、現在では「侵略的な外来種」とされています。
ユーフォルビア属は、アフリカ以外にも世界中の熱帯~温帯の地域に広く分布し、約2000種の草本または低木を含む大きな属です。
アフリカでは、砂漠から湿地まで様々な環境に適応しており、様々な形態を見せています。特に砂漠に生育する種には、Euphorbia horrida、Euphorbia valida、Euphorbia obesaなどがあり、これらは葉が退化し茎が多肉となってサボテンに似た形態をしています。これは、“収斂進化(しゅうれんしんか)”と呼ばれ、異なる種が、似た環境に生息することで、似た形態を持つことを現しています。
ユーフォルビア属の植物は、茎を切ると有害な乳液を出します。この毒は、皮膚につくとかぶれることもあります。
ナツメヤシ
(和名:棗椰子、英名:Date Palm、学名:Phoenix dactylifera)
アフリカ大陸の水辺のオアシスなどでは、ナツメヤシとその果実”デーツ”が栽培されています。
ナツメヤシは、ヤシ科の常緑高木。成長すると、高さ15~25m程度になります。
その果実は“デーツ(Date)”と呼ばれ、北アフリカや中東の食べ物として有名です。
原産地は、北アフリカか西南アジアのペルシャ湾沿岸と考えられています。
また、古くから、北アフリカや中東で広く栽培されています。古代エジプトやメソポタミアでは、紀元前6千年紀にすでに栽培されていたと考えられています。
ナツメヤシの果実“デーツ”は、品種により明るい赤~黄色がありますが、干すと濃褐色になり、食用のデーツはこの色で馴染みがあります。
雨の少ない砂漠でも育つナツメヤシは、乾燥地帯に住むサハラ砂漠の遊牧民たちにとっては貴重な食料です。果物のデーツはカロリーも高く、炭水化物源として重宝されます。乾燥させたデーツは、乳製品と共に、遊牧民族のベドウィンたちの伝統的な主食です。
また、チュニジアには、デーツを小麦粉で包んで揚げ、砂糖シロップに漬けた“マクルード”という菓子があります。
デーツはビタミンCを豊富に含み、乾燥したデーツは、食物繊維も豊富に含みます。
“テネレの木”(アカシア)
サハラ砂漠の中央部は極度に乾燥しており植生はほとんどありませんが、砂漠の端の地域では、山地からの水が届く場所で、草や潅木、高木などが見られます。
歴史を経て砂漠化が進んできましたが、かつて湿潤だった時代の植生の名残りだと考えられる植物が見られました。
例えば、ニジェールの中部に位置するテネレ砂漠には、“テネレの木”と呼ばれるアカシアが、1本だけ孤立して存在しました。
“テネレの木”は、樹齢300年と想定され、アカシア属の種の“アカキア・ラディアーナ(Acacia raddiana)”か、あるいは“アカシア・トルティリス(Acacia tortilis)”だと考えられていました。
砂漠の中でも生息できていた理由として、木の根が地下33~36mまで伸び、地下の水面に達していることが、発見されています。
砂漠の中の樹木として、「世界で最も孤立した場所の木」として有名でしたが、残念なことに1973年、運転事故により倒されてしまいました。
オカヒジキ属
(和名:陸鹿尾菜属、学名:Salsola)
オカヒジキ属はヒユ科の植物群で、別名、ロシアアザミ、タンブル・ウィード(Tumbleweed)とも呼ばれます。タンブル・ウィードとは、英語で「回転する草」という意味で、和名では「回転草」と呼ばれます。
「移動する植物」と言われることもありますが、オカヒジキ属は、風に吹かれて地面を転がって移動します。
オカヒジキ属は、アフリカとユーラシアに分布しており、乾燥地や塩性地が主な生息地です。
オカイヒジキ属の株はボールのような形に成長し、秋に果実が成熟する頃、風によって茎が折れると、地面の上を転がっていきます。こうして転がりながら、種子をまき散らします。
オカヒジキ属の中では、北アフリカとユーラシアが原産とされるソルソラ・ソーダ(Salsola soda)が、食用として利用されます。
ソルソラ・ソーダは、現代では北アメリカの太平洋沿岸にも帰化しており、オカヒジキ属の植物は、アメリカの西部劇で原野を転がる植物としてもお馴染みの風景となってきました。
また、ソルソラ・ソーダを燃やした灰から、ソーダ石灰ガラス(=ガラスの一種で、現在最も広く利用されているもの)、石けんなどの製品が製造されます。
赤道付近:広大な熱帯雨林
赤道付近の熱帯雨林には、重要な薬用植物が生育しており、たとえば、ニチニチソウ、カラバルマメ、ヴォアカンガ属などのハーブが挙げられます。
ニチニチソウ
(和名:日々草、英名:Madagascar periwinkle、学名: Catharanthus roseus)
ニチニチソウは、キョウチクトウ科ニチニチソウ属の一年草。
原種は、匍匐(ほふく)*1)する小低木でしたが、観賞用の品種は直立する一年草に改良されました。
*注 1)匍匐(ほふく):植物では、垂直に成長せず、地を這うように水平に成長すること。著しい伸長力がある。
和名の「日々草」は、初夏から晩秋まで次々に花が咲くことが由来です。
原産地はアフリカの島・マダガスカルですが、熱帯の各地で野生化しています。また温帯でも栽培可能なため、日本でも馴染みのある植物です。
ニチニチソウは近年、その成分に抗癌作用があることが発見され、抗癌剤の成分として利用されていますが、強い毒性や副作用もあるため、一般の人が利用する際には、量などの調整に注意が必要です。
伝統的には、ニチニチソウは薬草として世界中で知られ、薬として用いられてきました。
例えば、インドでは蜂に刺された際にニチニチソウの葉から調製した液体を用いたり、中南米では肺の鬱血や炎症、のどの痛みに利用しました。また、カリブ海の国々では目の痛みや炎症にニチニチソウの花のエキスが用いられてきました。
一方で、ニチニチソウには毒性があり、「ビンカアルカロイド」と総称される10種以上のアルカロイドが、全草に含まれています。これらのアルカロイドのうちいくつかは、抗がん剤としても用いられます。そのため脱毛などの副作用や、また食すると嘔吐や下痢以上の毒性を示すこともあるため、知識のない素人が摂取するのは危険な植物です。
カラバルマメ
(英名:Calabar bean または ordeal bean、学名:Physostigma venenosum)
カラバルマメは、マメ科の蔓(つる)性の多年草です。
原産地は、アフリカ西岸のカラバル地方です。
学名の「Physostigma」は、雄しべの柱頭の先端にある奇妙なくちばしのような形に由来しています。(stigma=「(雄しべの)柱頭」の意)
外観はインゲンマメに似ており、成長すると15mの高さまで育ちます。
花は暗赤色やピンク色でマメのような形をしており、褐色がかった黒い種子には有毒性のあるアルカロイドを含みます。
カラバルマメのアルカロイドの有毒性と効能
カラバルマメのアルカロイドには有毒性があり、様々な副作用を持つ反面、治療に使われる薬にもなるという特徴があります。
毒性・副作用としては、神経ガスような働きをし、神経と筋肉の間の交感に作用しますが、副作用の症状として、
- 「大量の唾液分泌、吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振、めまい、頭痛、胃痛、発汗、消化不良、発作(てんかんの発作)」
などが認められています。
さらに、最終的に呼吸器のコントロールを失わせ、窒息死にまで至ることもあります。
一方で、以下のような病気や症候群の薬にもなっています。
- 「重症筋無力症、緑内障、アルツハイマー病、胃(内容)排出遅延、瞳孔(どうこう)縮小・眼圧下降」
さらに、鎮痙薬としても用いられます。
カラバルマメに含まれるアルカロイドである“カラバリン(calabarine)”は、ベラドンナから抽出されるアルカロイド“アトロピン”に似た効果を持ちます。
また、他のアルカロイドは薬の“フィゾスチグミン”となり、抗コリン症候群や重症筋無力症、緑内障、胃排出遅延などの治療に使われます。
アフリカでの伝統的な使われ方
歴史的に、古代のナイジェリアの人々にとって「裁きの豆」とされ、魔女罪や他の犯罪者に対して、投与されました。その毒が回って死に至れば有罪とされ、もし毒が回らず生き延びれば無罪の証明とされました。また、決闘にも利用され、2人の対戦者が豆を半々に分け、摂取したり、毒矢に塗る毒としても、利用されました。
ヴォアカンガ属
(学名:Voacanga)
ヴォアカンガ属は、 キョウチクトウ科(Apocynaceae)の属のひとつで、常緑樹です。
原産地は西アフリカのガーナですが、アフリカの他にも、東南アジアやニューギニア、オーストラリアでの生息が見られます。
ヴォアカンガ属には13の種が存在しますが、そのうち7種がマダガスカルを含むアフリカの原産です。
7つの種とそれらが生息している地域は、以下の通りです。
・Voacanga africana:アフリカの熱帯地域の、北部を除くほぼすべての地域
・Voacanga bracteata :アフリカの熱帯地域の西部と中央部
・Voacanga caudiflora:アフリカの熱帯地域の西部
・Voacanga chalotiana:アフリカの熱帯地域の中央部
・Voacanga pachyceras:ザイール
・Voacanga psilocalyx:ナイジェリア、カメルーン、ガボン、コンゴ
・Voacanga thouarsii:マダガスカル、南アフリカのケープ州からスーダンまでと、セネガルを加えた広い地域
これらのうち、最も広い地域に分布しているのが、ヴォアカンガ・アフリカーナです。
ヴォアカンガ・アフリカーナ(Voacanga africana)
ヴォアカンガ・アフリカーナは、成長すると高さ6メートルまでになりますが、熱帯アフリカでは小さめの樹木になります。葉は長さ30cmほどの大きさで、黄色と白の花を咲かせ、黄色い種を持つ果実を実らせます。
ヴォアカンガ・アフリカーナには、様々なイボガアルカロイドが含まれますが、例えば、「ボアカンジン、ボアカイン、ボブチン、アマタイン、アクアミジン、タバソニン、コロナリジン、ボブチン」などがそのアルカロイドの一種です。
これらのアルカロイドには、毒性や薬効があり、一方では毒として利用され、他方では、薬として利用されます。
例えば、ガーナでは、ヴォアカンガの樹皮と種は、毒としての利用され、また、興奮剤(刺激剤)や媚薬、儀式での幻覚剤としても利用されます。
大陸南側:サバンナと砂漠が広がる乾燥地帯
南アフリカ
広大でさまざまな気候と風土を見せるアフリカ大陸の中でも、南アフリカは特に、豊かな植物相を持っています。「世界で最も豊かな植物相」とさえいわれることがあるほどです。
有名なのは、ケープタウンの南に位置する大山塊(だいさんかい:山稜がひとまとまりに集まっている一群の山岳)の“テーブルマウンテン”は、植物にとっての最高の環境として、豊かな植物相を見せています。
南アフリカは、雨季と乾季がはっきりと分かれる気候が特徴です。
この地域の育つ植物は、高温多湿が苦手で、乾燥した気候を好みます。例えば、以下のような植物が挙げられます。
センテッド・ゼラニウム
(英名:scented geranium、和名:香料ゼラニウム、学名:Pelargonium ssp.)
センテッド・ゼラニウムは、フウロソウ科テンジクアオイ属 (Pelargonium) の常緑多年草で、耐寒性がありません。ハーブゼラニウムとも呼ばれます。
原産地は、南アフリカです。センテッド・ゼラニウム以外のテンジクアオイ属の多くの種が、南アフリカ原産です。
テンジクアオイ属は、園芸用としてもよく知られ、またその性質からいくつかの系統に分けられますが、そのうちハーブとして利用されるのが、センテッド・ゼラニウム(scented geranium)です。その名の通り、りんご・みかん・ばらなどの強い“香り”を持つ系統で、香りを持つハーブとして好まれます。
センテッド・ゼラニウムには、ローズ・ゼラニウム(Pelargonium graveolens)、レモン・ゼラニウム(Pelargonium crispum)、アーモンド・ゼラニウム(Pelargonium odoratissium)などの種があり、それぞれの名がつく香りを持っています。これらは、その香料が取り出される一方で、虫に対する忌避植物としても利用されます。
テンジクアオイ属の植物は、古くから南アフリカで下痢止めとして利用されてきました。また、胃炎や神経痛、発熱、月経不順、通経剤、堕胎薬として用いられた品種もあります。
ワルブルギア
(英名:pepper-bark tree、学名:Warburgia salutaris)
南アフリカのアフリカーンス語(Afrikaans)では、「Peperbasboom」と呼ばれます。
カネラ科(Canellaceae)の樹木の一種で、カネラ(学名:Canella winterana)の近縁になります。
ワルブルギアは、ボツワナ、ナミビア、タンザニア、ザンビア、モザンビーク、南アフリカ、スワジランド、マラウイ、ジンバブエと、アフリカの多くの地で見られますが、生育できる地が減少しているため、危機に瀕しています。
また、アフリカでは薬用植物としてポピュラーで、樹皮を環状にはぎとりますが、こうして採集されることもまた、生育の危機の理由です。
1946年には絶滅の危機の警告が発せられましたが、その後も長く保護にはいたらず、近年やっと、保護対象となり、栽培による調査や、自然環境への植え付けが行われてきました。
メディカルハーブとしては、マラリアの薬としてマサイ族に利用されてきました。風邪や咳などの呼吸器疾患に対して、鼻から吸い込んだり、口から煙を吸い込んで利用されます。タンザニアでは、こうした薬用のワルブルギアがマーケットで販売されています。
大陸東部:大陸を東西に引き裂く南北の大地溝帯
アフリカ大陸の東部は、大きな地溝帯により、その東西に区別されますが、乾燥地帯と山岳地帯を特徴とします。
乾燥地帯と山岳地帯
乾燥地帯や山がちな林地もまた、多くのハーブの原産地となっています。しかし昨今の都会化により、土地や植物の管理が行き届いていない状況にもなっています。
こうした中でも、「薬用植物」は現地の人々にとっても健康管理の「薬」であり、かつては治療師が植物の採取を行っていたものの、現代では植物がアフリカの経済の一端を担っていることもあり、野生ハーブが無計画に採集されている事情もあります。
そうした植物の例として、「デビルス・クロウ」や「ワルブルギア」が挙げられます。
デビルス・クロウ = ハルパゴフィツム属
(英名:Devil’s claw、学名:Harpagophytum)
ハルパゴフィツム属(またはハルパゴフィタム属とも呼ばれる)はゴマ科の多年生植物。
南アフリカ、東アフリカに生育します。
紫か赤のラッパ型の花と、堅い2本の爪状の棘(とげ)を持つ実の姿から、“デビルズ・クロウ”(「悪魔のかぎ爪」の意)という俗名で呼ばれます。
今日では世界的に取引されていますが、経済的な利益のための大量な採集のため、野生のデビルスクロウは激減しています。
1984年には、採集家によりボツワナの66%のデビルスクロウが採集されたということです。