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現代のアフリカのハーブ事情を考える上で見逃せないのが、プランテーション(大規模農園)と、お茶の文化です。
アフリカの気候・風土の特徴から栽培地とされた植物と、アフリカの食文化の中でのハーブ・スパイスと、アフリカ独特のハーブティーの文化をご紹介いたします。
プランテーション
大自然にあふれたアフリカですが、産業のためのプランテーションも歴史的に行われてきました。ハーブにおけるその代表は、健康茶としても有名なルイボスです。
ルイボス
(英名:Rooibos、学名:Aspalathus linearis)
ルイボスは、高さ2メートル程に育つ潅木(かんぼく)です。
原産地は、南アフリカの西ケープ州。
葉は鮮やかな緑色の針状で、葉の長さは15~60mm、厚さは0.4~1mmで、葉は加工すると赤みのある茶色になります。
2月から3月に種が蒔かれ、収穫までは、18ヶ月を要します。お茶の材料になるのは、葉と茎の部分です。
歴史的には、ルイボス茶は、第二次世界大戦時にお茶の産業として発展しました。当時、インドなどで生産される紅茶が不足したため、その代用としてルイボスティーが茶葉として供給されるようになります。そして現代では、健康茶としてその薬効が研究されています。
ルイボス茶を製造するためのプランテーションは、西ケープ州の乾燥したシーダバーグ山地にあります。
ルイボスが安全なお茶として子供から大人まで愛飲されているのは、カフェインを含まないという大きな理由があります。カロリーもゼロの上、タンニンも紅茶や日本茶などと比べ3分の1以下の量のため、妊娠中・授乳中の女性や、小さな子供でも常飲できます。また、空腹時やスポーツ時の水分補給にも最適な飲料です。
安全性だけでなく、さらに、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛などの豊富なミネラルを含むため、栄養やミネラルの必要な妊娠中・授乳中の女性や子供たちにも、有用なハーブです。まさにルイボスは、アフリカの大地が育む恵みがたっぷりとつまっているといえるでしょう。
ルイボスは、美容の味方でもあります。フルーツ酸と呼ばれる“アルファハイドロキシ酸(AHA)”が多く含まれ、さらに、抗酸化力の強さからも、スキンケアの強い味方になります。
胃に優しく、美容では冷え・ダイエット・美肌などにも良い働きをすることでもよく知られています。
このような多くの有益な点から、ルイボスティーは「奇跡のお茶」と呼ばれています
またアフリカでは、ルイボスは伝統的に、お茶以外にも入浴時のハーブバスとしても利用されています。
アフリカの食文化としてのハーブとスパイス
料理に使用されるハーブ
広大なアフリカのため、その各地で食文化の特徴は異なるものの、共通して料理によく利用されるハーブやスパイスがあります。
クミン、コリアンダー(シード)、唐辛子などは、アフリカの様々な地域で使われます。
例えば、アフリカ北部のチュニジアやモロッコの料理“クスクス”*1)では、“ハリッサ”と呼ばれる唐辛子ペーストが料理に添えられます。
注 *1)クスクス:デュラム小麦の粗挽粉から作られた小粒のパスタ“クスクス”に、肉や豆・野菜などを煮込んだスープをかけて食べる料理。
ハーブティー
アフリカには、健康に非常に有益なハーブティーとして飲用されるハーブがあります。
ハイビスカス = ローゼル
(英名:Roselle、学名:Hibiscus sabdariffa)
アフリカで“ハイビスカス”と呼ばれる植物は、英名で“ローゼル”とされる植物です。
日本などで、通常馴染みがあり、観賞用で花が有名なハイビスカスは=ブッソウゲ(仏桑華、学名:Hibiscus rosa-sinensis)とは別の種です。
ローゼルはアオイ科フヨウ属の一年生または多年生の亜灌木(亜低木)です。ロゼリ草、ローゼリ草、レモネードブッシュなどとも呼ばれます。
原産地は西アフリカですが、アジアやアフリカ大陸の熱帯地方にも、広く分布しています。
背丈は2~3メートルほどに成長します。クリーム色の花は9~11月頃に開き、萼(がく)と苞(ほう:「花のねもとにつく小形の葉」の意)は、厚く成長し、また赤く熟します。厚く肥大した、この萼(がく)と苞(ほう)が、ハイビスカスティーとして利用されます。
■ハイビスカス・ティー
鮮赤の色が印象的なハイビスカス・ティーは、クエン酸などの植物酸やビタミンCが豊富です。味は酸味があります。
エジプトでは“カルカデー”、西アフリカでは“ビサップ”と呼ばれ、日中いつでも飲用されるポピュラーな飲み物です。暑い地方に住む人々にとって、クエン酸やビタミンCを日常的に補充でき、疲労回復も期待できる、重要な飲み物なのです。
昨今、欧米や日本で健康嗜好で飲用されるハイビスカスティーは、その味や効能の相乗効果から、特にローズヒップとブレンドされ飲まれることが多いです。
ハニーブッシュ
(英名:honey bush、学名:Cyclopia intermedia)

同じサイクロピア属の“Cyclopia meyeriana” (カーステンボッシュ・ナショナル・ボタニカル・ガーデン(Kirstenbosch National Botanical Gardens)/ 南アフリカ)
ハニーブッシュは、マメ科のシクロピア(Cyclopia)属の潅木で、南アフリカに固有の種です。その種は20種前後が知られていますが、その中でもこのハニーブッシュが、一般的によく知られる種です。
シクロピア属の植物は、その花に蜂蜜のような香りがあるため、“ハニーブッシュ”の名前がつけられたようです。
原産地は、南アフリカ。現在も、南アフリカに自生していますが、お茶の商品化のため、南アフリカで栽培もされています。シクロピア属の中には、自生しているものしか採取できない種もあるようです。
ハニーブッシュは、成長すると背丈1メートルほどの高さになります。
茎の色は緑とゴールデンイエロー、葉には葉毛がなく、小さな3枚の葉に分かれています。花は芳香のがあり美しい黄色です。
ハニーブッシュは、伝統的にお茶として飲まれてきましたが、単品としても美味しく飲める一方、ルイボスなどの他のハーブや果汁などとブレンドして飲まれることも多いようです。葉と茎はお茶の原料として利用されます。
ハニーブッシュの成分は、同じくお茶として飲まれるルイボスとよく似ており、「カリウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、亜鉛、マンガン、鉄」などのミネラルが、バランスよく含まれています。
ルイボスと似た成分や特性を持つとされますが、味はルイボスよりもずっと甘いといわれます。
また、カフェインフリーであることも、年齢を問わず安心して日常的に飲まれてきた理由です。
成分的には、SOD様作用*2)があると同時に女性ホルモン様作用のある成分が豊富に含まれていることが、ハニーブッシュの大きな最大の特徴です。
注 *2) SOD:「スーパーオキシド ディスムターゼ」の略。活性酸素除去酵素。
その他、ハニーブッシュには、以下のような有効成分が含まれています。
- イソフラボン:大豆に含まれることで有名ですが、女性ホルモンに似た働きをする。
- フラボノイド:「活性酸素の除去、抗ガン作用、高血圧の改善、抗菌・抗ウイルス作用、抗アレルギー作用」など、さまざまな効果が認められている有機化合物群。
- クメスタン:イソフラボンと同様の作用があり、植物性エストロゲンの主要活性成分。
- キサントン:ポリフェノールの一種で、非常に強い抗酸化作用を持つ。活性酸素から体を守る役割をするもの。
- フラバノン:フラボノイド群の1つで、抗酸化物質の特性を持つもの。
- フェノール酸:フラバノン同様に抗酸化物質の特性を持つ。
アフリカ紅茶・ケニア紅茶
= チャノキ、カメリアシネンシス(学名:Camellia sinensis)
「アフリカ紅茶」や「ケニア紅茶」と呼ばれるお茶は、種としてはチャノキ(=カメリアシネンシス)(学名:Camellia sinensis)になります。
もともと、イギリスが紅茶の産地として主要だったインドやスリランカから、次なる産地として東アフリカの地を開発し、この地へ運んで栽培したお茶が、「アフリカ紅茶」や「ケニア紅茶」と呼ばれるようになりました。
イギリスは、1903年のケニヤでの栽培実験が成功すると、1924年から本格的にこの地で紅茶の栽培を始めました。
現在ではその栽培地は、ケニヤ、ウガンダ、タンザニア、マラウィ、モザンビークにまで至り、世界有数の紅茶栽培地であるインドやスリランカに次ぐ大規模な紅茶産地になっています。
また現代では、紅茶の種は、より生産性の高いクローナル種*3)が栽培されています。
注 *3) クローナル種:ある親株と全く同じ遺伝子(=同じ特徴)を持つ茶樹で、挿し木によって増やした選抜種。
アフリカ紅茶の栽培地は、主に赤道直下の東アフリカの高地です。
強い紫外線下で成長するため、土壌からの栄養吸収が優れており、強い生命力を持ちます。
東アフリカの地では、このアフリカ紅茶の効能は、あらゆる病に対する万能薬とされており、また、不老不死も得られる植物とさえ考えられていました。
アフリカの王族も愛飲する「神が与えた最高の恵み」と崇められていたほどです。
現代栽培されるアフリカ紅茶の多くはブレンド茶として販売されますが、その中でもケニア産のものは標高2000mという高地で栽培される良質な茶葉で、化学肥料を使用しない有機紅茶として人気が高くなっています。
見た目の色も美しく、紅茶よりも赤みの強いルビー色が美しいお茶です。
アフリカ紅茶は、その成分も優れており、「ポリフェノール」と同様の働きの“テアフラビン”*4)成分が赤ワインの約130倍・ぶどうの約300倍も含まれています。こうしたことから、アフリカでは“聖なるお茶”と呼ばれるほどです(アフリカ紅茶の標準のテアフラビン含有量は、100g中約600mgとされます)。
注 *4)テアフラビン:プーアール茶など発酵茶に多く含まれている。また「2次ポリフェノール」と呼ばれ、α-アミラーゼ抑制がカテキンの10倍以上もある。
アフリカ紅茶には、以下のような効果が認められています。
- 活性酸素除去
- 利尿効果
- 代謝促進
- 細胞の老化抑制
- 自然治癒力向上
健康増強に加え、美容にも有効でな効果な上、子供でも安心して飲めるのが、アフリカ紅茶の良い点です。
ローズヒップ=イヌバラの果実
イヌバラ(英名:dog rose、学名:Rosa canina)
イヌバラは、バラ科の落葉樹で、野生のバラの一種です。
成長すると、背丈1~5メートルになります。
茎は小さくて鋭い針で覆われており、葉は5~7枚の小葉で出来ています。
花は淡いピンク色が多いですが、濃いピンク色から白色まで色の変化があります。果実は直径4~6cmで赤橙色に成熟し、花は1.5~2cmの楕円形の花弁が5枚でできています。
原産地は、ヨーロッパ、北西アフリカ、西アジアとされ、これらの地域に自生していますが、ローズヒップの採取のために、栽培もされています。
現代では、アフリカ南部に育つ野性のバラから採取されるローズヒップも、商品化されています。
ローズヒップには、ビタミンCが非常に多く含まれることがよく知られています。ビタミンCは抗酸化物質であり、健康面で有益である一方、美容面では紫外線の影響を抑え、肌の再生を促すなどの効果もあります。紫外線の強いアフリカの地域では、必須のハーブでしょう。
さらに、ローズヒップに含まれるビタミンには、ビタミンCに加え、ビタミンP、ビタミンEも豊富で、これらが相乗効果となって、それらの働きを高めます。その他にも、栄養的に、カルシウムや鉄分も豊富に含まれています。
また、ローズヒップには、抗菌・抗ウイルス作用もあります。豊富なビタミンCとの相乗効果で、風邪の予防効果も高く期待できます。
さらに、ペクチンやフラボノイドなども含まれており、これらの成分により、緩下作用や利尿作用も確認されています。
ローズヒップの豊富なビタミンやミネラルは、ローズヒップティーとして飲用した後も、その果実に残っています。お湯を注いだ後の果実も捨てずに食べることで、しっかり栄養が摂取できます。