アフリカのハーブ

アフリカのハーブ V ~ マダガスカル島の風土・植生とハーブ

アフリカV ~ マダガスカル島の風土・植生とハーブ

マダガスカル島の地理・風土と、植生

マダガスカル島の地理・風土

マダガスカル島は、熱帯圏に位置しますが、その中央部は数千mの高地で、気温も涼しくなっています。中央部の最高気温は30℃、年平均気温は17℃程度で、過ごしいやすい気温です。通常地球上では、極に近くなるほど気温が低くなりますが、マダガスカル島では極に近い南西部の地域のほうが、気温は高く、40℃を超えることもあります。

マダガスカル島・高地の風景

マダガスカル島・高地の風景

島とは呼ばれますが、日本の約1.6倍の面積を持つ大きな島で、「第七の大陸」と呼ばれるほどです。

その植生は、400m離れたアフリカ大陸本土よりも、むしろ、熱帯アジアやオーストラリア、南米との共通点が多いとされますが、それは、古生代の地史と大きく関係しています。
古生代、南半球には“超大陸”ゴンドワナ大陸があったとされ、この超大陸の中に、マダガスカル島も含まれていました。

古代のゴンドワナ大陸が分裂していく様子と、植物・動物の分布

古代のゴンドワナ大陸が分裂していく様子と、植物・動物の分布

約1億8千年前に分裂を始めたゴンドワナ大陸は、現在の南米、アフリカ、インド半島、オーストラリア、南極に、それぞれ分かれていきました。マダガスカル島は、このゴンドワナ大陸の「要(かなめ)」の位置(5つの大陸に分かれていくその中心部・接点あたりの位置)にあったのです。

後に、中世代の終わりに、マダガスカル島はアフリカ大陸と切り離され、今の形になったのですが、その後長い間、アフリカ大陸と隔離されていたために、独自の植生を持つに至っています。これは植生だけでなく、動物や居住している人々の遺伝子においても、マダガスカル島がアフリカ大陸とは異なる様相を持っていることが確認されています。

マダガスカル島の人々

マダガスカル島の人々

マダガスカル島の植生とその特徴

マダガスカル島の植生は、主に4つのエリアに分けて説明できます。

東部(東海岸):「熱帯雨林」
マダガスカル島東部“ナカカラ(Manakara)”近くの熱帯雨林

マダガスカル島東部“ナカカラ(Manakara)”近くの熱帯雨林

インド洋からの貿易風が、島の中央部の高地にぶつかり、東部の地で雨を多くもたらします。
植生としては、オコテア(クスノキ科)、シタン(マメ科)、シメコロシノキ(クワ科)、パンダナス属、ドラセナ属、リュウビンタイ、ラン科、エンゼルランプ(カランコエ)、シダ類などが豊富に分布しています。

中央高原:中央台地の「草原」
マダガスカル中央高地の棚田

マダガスカル中央高地の棚田

中央高原の草原は、水田が作られたり野焼きされることから、本来の植生はほとんど残っていません。ユーカリ、マツなどが植林されている中、自生する植物は岩上や谷などにごくわずかに分布しています。こうして自生する植物には、アロエ、パキポディウム(キョウチクトウ科)、カランコエ、ハナキリンなどがあります。

西部:「サバンナ」(乾生落葉樹林)
マダガスカル島“イザロ国立公園(Isalo National Park)”のサバンナ

マダガスカル島“イザロ国立公園(Isalo National Park)”のサバンナ

サバンナの植生は、主に樹木です。大型ヤシであるメデミア・ノビリスやサタンヤシ、その他の樹木としてブラスス・マダガスカリエンシス、ディコマ・インカナ(キク科)、スクロレカリヤ・カフラ(ウルシ科)、サルバドラ・アングスフォリア(サルバドラ科)などが見られます。

南西部:「乾燥地帯」(乾生林)
様々なバオバブの種や“マダガスカルオコティロ(Madagascar ocotillo)”などの有刺林(マダガスカル島・南西部の海岸沿いの土地“Ifaty”)

様々なバオバブの種や“マダガスカルオコティロ(Madagascar ocotillo)”などの有刺林(マダガスカル島・南西部の海岸沿いの土地“Ifaty”)

この地域は、マダガスカル島の中でも最も特色のある植生を見せています。
ディディエレア科やトウダイグサ科ユーフォルビア属の多肉植物がこの地域の優占種*1)です。

注 *1)優占種:「生物群集や植物群落内で,量的にまさり,最も大きな影響力をもって群全体の性格を決定づけ,代表するような種をいう。」(ブリタニカ国際大百科事典より)

特に、マダガスカルの固有種であるディディエレア科は、その4属11種すべてがこの地域に分布しています。ユーフォルビア属も10種近くの種がこの地域の優占種となっています。その他、カランコエ属やキョウチクトウ科も、この地に固有に分布しています。
アロエは、巨大なツリーアロエであるアロエ・バオンベ、ヘレナエ、スザンナエ、バオツアングの4種が、マダガスカル南部に分布しています。

マダガスカル島の植物

マダガスカル島の植物の固有科

マダガスカル島には、マダガスカル島に固有の種が非常に多く存在します。マダガスカル島の植物のうち、7~8割が、固有の種とされます。研究者によっては、9割が固有種だという見解もあるほどです。

さらに、マダガスカル島の植物のうち、固有の科は7つも存在します。そのうちの5つの科は独立した科ではないという見解もありますが、独立科として明らかに認識されている2つの科は、「ディディエレア科」と「ディディメラ科」になります。

ディディエレア科

(和名:カナボウノキ科、学名:Didiereaceae)

ディディエレア科の“Alluaudia ascendens”(Fairchild Tropical Botanic Garden, Miami, USA)

ディディエレア科の“Alluaudia ascendens”(Fairchild Tropical Botanic Garden, Miami, USA)

ディディエレア科は4属11種からなる被子植物の科で、マダガスカル(南部と南西部)に固有の植物です。
(とげ)のある多肉植物で、肥厚した幹には水が蓄えられ、葉は長い乾期に落葉します。
背丈が2mの低木から20mの高木までが存在し、有刺林*2)の重要な構成種となっています。
また、ディディエレア属の植物は針は同じ場所から4本以上出る特徴があります。

注 *2)有刺林:アフリカでは南部と東部の乾燥気候地帯に分布する、有刺の高木または低木の林。落葉性で葉は退化し、枝または茎が太くクロロフィルを含む。

ディディエレア科の“Alluaudia humbertii”

ディディエレア科の“Alluaudia humbertii”

ディディエレア科のうち、ディディエレア属の植物として、以下のものがよく知られています。

  • マダガスカリエンシス(学名:Didierea madagascariensis)
    1880年に初めて種として記述されました。
    “Didierea madagascariensis”の木2本と、その間に“Euphorbia stenoclada”(Reniala公園(Parc de Reniala)/マダガスカル)

    “Didierea madagascariensis”の木2本と、その間に“Euphorbia stenoclada”(Reniala公園(Parc de Reniala)/マダガスカル)

  • トロリー(学名:Didierea trollii)
    1961年に初めて種として記述されました。
    マダガスカル島南部からの“Didierea trollii”(シュトゥットガルト動物園/ドイツ・ヴィルヘルマ)

    マダガスカル島南部からの“Didierea trollii”(シュトゥットガルト動物園/ドイツ・ヴィルヘルマ)

  • ペティグナティ(学名:Didierea petignatii)
    マダガスカル島のアマチュア研究家ペテュニアット(Petignat)氏の発見による種で、“第三のディディエレア”と呼ばれる新種です。マダガスカル島南西部の限定された地域で、自生するペティグナティが発見されています。
    他のディディエレア属の種と比較し、枝は細い等の特徴がありますが、その起源は確定されていません。

ディディエレア科はナデシコ目に属しますが、同じナデシコ目でアメリカ大陸に分布するサボテン科とは近縁になります。アフリカ大陸にはアメリカ大陸に分布するサボテンは存在しませんが、ディディエレア科の種は幾種かのサボテンとは接ぎ木できます。

ディディメラ科

(学名:Didymellaceae)

ディディメラ科の植物は、祖先系あるいは属間交配種という見解もあります。

一方でマダガスカルには、サボテンの一種であるリプサリス属が分布しています。

リプサリス属

(学名:Rhipsalis)

リプサリス属は、サボテン(学名:Epiphytic cacti)の種のひとつで、その中でも最も広い地域に分布している属です。

リプサリス属の“Rhipsalis cereuscula”

リプサリス属の“Rhipsalis cereuscula”

マダガスカル島原産の有毒植物と薬用植物

マダガスカル島には多くの薬用植物が存在する一方で、毒性の強い有毒植物も数多く存在します。注意しなければならない有毒植物と薬用植物として、以下のような植物がよく知られています。

マダガスカル・ジャスミン

(別名:アフリカシタキヅル、英名:Madagascar jasmine、学名:Stephanotis floribunda)

マダガスカル・ジャスミン

マダガスカル・ジャスミン

マダガスカル・ジャスミンは、ガガイモ科シタキソウ属の、多年生つる植物草です。原産地はマダガスカルで、海岸の岩場などに生息しています。
「ジャスミン」という名を持っていますが、いわゆる観賞用のジャスミン(モクセイ科ソケイ属)とは別の植物です。マダガスカル原産ですが、現在では世界中で観賞用に栽培されています。観賞用やブーケの材料として利用されます。

マダガスカル・ジャスミンは、葉、花、実、根にアルカロイドを含み、毒性があります。毒性の症状として、中枢神経刺激作用、心機能障害、痙攣、筋肉麻痺を引き起こします。

トウダイグサ科

(学名:Euphorbiaceae)

トウダイグサ科トウダイグサ属(Euphorbia)の種(“Euphorbia serrata”と思われる)

トウダイグサ科トウダイグサ属(Euphorbia)の種(“Euphorbia serrata”と思われる)

トウダイグサ科は、約300属7500種以上もの植物を含む大きな双子葉植物の科です。その中でも、特にトウダイグサ(ユーフォルビア、学名:Euphorbia)属のものが多く、1500種ほどが知られています。

トウダイグサ科は、その有毒物質がよく知られています。特に、トウダイグサ連(学名:Euphorbiae)に特徴的に含まれるのが“ユーフォルビン”で、乳液として分泌されます。これはトイダイグザ科の他の多くの連(=植物の区分で“科”の下位、“属”の上位にあたるもの)には見られません。

その他、トウダイグサ科に属する植物のもつ毒性として有名なものに、以下が挙げられます。

  • ハズ(巴豆、英名:クロトン、学名:Croton tiglium)
    ハズの各部位のイラスト

    ハズの各部位のイラスト


    (トウダイグサ科ハズ属)
    有毒物質“ホルボールエステル”=発ガン作用や急性炎症があります。
  • トウゴマ(唐胡麻、学名:Ricinus communis)
    トウゴマの花部 / 雌しべ(赤色)と雄しべ(白色)が離れている(Chimoto, モザンビーク)

    トウゴマの花部 / 雌しべ(赤色)と雄しべ(白色)が離れている(Chimoto, モザンビーク)


    (トウダイグサ科トウゴマ属)
    種子に猛毒タンパク質“リシン”を含みます。
    トウゴマは油が採れるため食用にも利用されていることから、こうした有毒性にも注意が必要です。
  • ヒッポマネ連(学名:Hippomaneae)
    ヒッポマネ連に属する“Hippomane mancinella”(マヌエル・アントニオ国立公園・コスタリカ)

    ヒッポマネ連に属する“Hippomane mancinella”(マヌエル・アントニオ国立公園・コスタリカ)


    (トウダイグサ科ヒッポマネ属)
    ヒッポマネ連の植物に含まれる有毒物質“マンチニール”は、ギネス世界記録で世界一危険な樹とも記録されています。

他に、トウダイグサ科の他の植物として、以下のものがよく知られています。

ユーフォルビア・ロイコヌラ

(学名:Euphorbia leuconeura)

“マダガスカルの宝石”と呼ばれる“ユーフォルビア・ロイコヌラ(Euphorbia leuconeura)”

“マダガスカルの宝石”と呼ばれる“ユーフォルビア・ロイコヌラ(Euphorbia leuconeura)”

ユーフォルビア・ロイコヌラはユーフォルビア科(学名:Euphorbiaceae)の一種で、マダガスカル島の固有種です。岩の多い地域で、森林の下層に生息しています。

“マダガスカルの宝石”という別名を持ち、葉が魅力的な観葉植物でもあります。
背丈は1.8mほどまで、枝分かれして成長する小さめの樹木です。

Euphorbia leuconeuraの花(ドイツ・カールスルーエの植物園)

Euphorbia leuconeuraの花(ドイツ・カールスルーエの植物園)

また、損傷を受けると、皮膚刺激のある白い有毒な液体が分泌されます。この有毒物質は、重い皮膚刺激を引き起こし、また腫瘍を作ることもあります。
近年は、その生息地が奪われてきていることから、生息の危機にあります。

ユーフォルビア・アンカレンシス

(学名:Euphorbia ankarensis)

ユーフォルビア・アンカレンシス

ユーフォルビア・アンカレンシス

マダガスカル島の固有種で、非常な薬効を持っていますが、同時に強い毒性も含みます。
ユーフォルビア・ロイコヌラと同様に、近年、その生息地が奪われ生息の危機に瀕しています。

ヴォアカンガ・トウアルシー

(学名:Voacanga thouarsii)

ヴォアカンガ属の一種"Voacanga thouarsii"(タンザニア)

ヴォアカンガ属の一種”Voacanga thouarsii”(タンザニア)

ヴォアカンガ属の種“ヴォアカンガ・トウアルシー”は、高さ20メートルまで成長し、アフリカでは小さな樹木になります。
薄い緑色の花はかぐわしく香りを放ち、萼(がく)の内側にある花冠(かかん:「花弁の総称」の意)はクリーム色または白いをしています。
10cm程の果実は深い緑色で、2つの組になった袋果(たいか:「果実のうち、縫い目状の線に沿って裂け種子を出すもの」の意)は斑点模様があります。

Voacanga thouarsiiの果実

Voacanga thouarsiiの果実

生息地は、海抜0~600mまでの森やサバンナに生育で、マダガスカル島以外のアフリカ大陸では、西アフリカ~中央アフリカの地域に分布しています。

生息している地域では、医薬品として伝統的に利用されてきました。傷の手当、痛み、淋(りん)病、湿疹(しっしん)、 心臓疾患、高血圧、リューマチ、胃痛、ヘビに噛まれた際の治療などでの薬とされています。

マダガスカル島を主要な産地とする植物

マダガスカル島は、世界中で愛用されている以下のような作物や植物の重要な産地でもあります。マダガスカル島を原産地としない植物ですが、歴史の中でマダガスカル島に持ち込まれ、現代ではマダガスカル島が主要な産地となっている植物です。

イランイラン

=イランイランノキ(学名:Cananga odorata)

イランイランの花

イランイランの花

マダガスカル島は、エッセンシャルオイルの原料の産地でもあります。
マダガスカル島固有の植物や、島の外部から持ち込まれて栽培された植物が、その原料となっています。その代表的なものが、イランイラン(=イランイランノキ)です。

イランイランノキは12m程度まで成長します。長い葉はなめらかで光沢があり、花は黄緑色や淡紅色で、縮れてヒトデのような形に巻き上がっているのが特徴です。

イランイランの葉イランイランの葉と、花弁が縮れた形状の黄緑色の花/“Jardin d'Eden”マダガスカル島東方・インド洋上のレユニオン県(Reunion island)(フランスと、花弁が縮れた形状の花/“Jardin d'Eden”マダガスカル島東方・インド洋上のレユニオン県(Reunion island)(フランス

イランイランの葉と、花弁が縮れた形状の黄緑色の花/“Jardin d’Eden”マダガスカル島東方・インド洋上のレユニオン県(Reunion island)(フランス

イランイランは熱帯多雨林の酸性土で生育し、原産地は、マダガスカルの他に、コモロ(マダガスカルの北西に位置する島々の連合国)、フィリピン、セイシェル、インドネシアなどがありますが、イランイランの精油の全産出量の29%は、コモロが占めています(1998年時点)

マダガスカルのイランイランは、島の北部に浮かぶリゾートアイランド“ノシベ”(Nosy Be)*3)で栽培されています。
島内には、エッセンシャルオイルを製造する工場があり、その製造過程を見学することもできます。

ノシ・ベ(マダガスカル)のアンディラーナ・ビーチ(Andilana beach)

ノシ・ベ(マダガスカル)のアンディラーナ・ビーチ(Andilana beach)

注 *3)ノシベ:ココナッツのプランテーションやサトウキビ畑もあり、サトウキビから作られるラム酒はノシベの名産となっています。

イランイランは、そのエキゾチックで濃厚な甘く芳しい香りが特徴です。
イランイランの精油の主な香気成分はアントラニル酸メチル、リナロール、ゲラニオール、酢酸ベンジル、安息香酸メチルです。

イランイランの花

イランイランの花

アロマテラピーで利用される場合、中枢神経のリラックス効果、興奮・陶酔作用、抗抑鬱作用、催淫作用などが知られています。
科学的にはリラックス作用とは逆の刺激作用があるのですが、香りの吸引で鬱状態が軽減されるため、低濃度で利用するとリラックス作用を感じられるのだと認識されています。香りが強いため、悪心や頭痛を引き起こす場合もあります。また精油は、皮膚への刺激(感作性)が強いことも知られています。

カカオ

=カカオノキ(学名:Theobroma cacao)

カカオの果実

カカオの果実

カカオ(=カカオノキ、ココアノキ)はアオイ科(クロンキスト体系や新エングラー体系ではアオギリ科)の常緑樹です。
学名の“Theobroma”はギリシャ語で「神 (theos)の食べ物 (broma)」を意味し、栄養価が高く、近年では“スーパーフード”にも数えられています。

カカオの原産地は、中央アメリカから南アメリカの熱帯地域ですが、マダガスカルはカカオの栽培地としても有名です。
カカオが生育するのは、規則的な降雨と排水のよい土壌で、湿潤な気候の地域です。標高約300mの丘陵地域に自生します。

世界最高品質とされるマダガスカルのカカオは、プランテーションで栽培されています。マダガスカル最北端の空港ディエゴスアレスから南南西へ240kmの“アンバンジャ(Ambaja)”には、カカオのプランテーションがいくつも見られます。

収穫された様々なカカオの果実(マダガスカル島アンバンジャ(Ambaja)にて)

収穫された様々なカカオの果実(マダガスカル島アンバンジャ(Ambaja)にて)

カカオははじめ、原産地近くの中南米やカリブ海の西インド諸島などで栽培されていましたが、その後、1830年頃に西アフリカでも栽培が開始され、19世紀半ばに中米でのプランテーションがカカオの病害で生産量が激減したことから、徐々にアフリカがカカオ生産の主要地となってきました。アフリカを植民地としていたイギリスが(現在の)赤道ギニアやガーナの黄金海岸で、さらに1890年代にはフランスがコートジボアールにて生産を開始しました。

カカオ豆の生産のために働く女性(ガーナ)

カカオ豆の生産のために働く女性(ガーナ)

カカオの生産は、古くから奴隷労働によって行われてきましたが、現在でも、西アフリカ・コートジボアールなどでは児童労働により生産が行われており、問題視もされています。

カカオの果実は長さ15~30cm、直径8~10cmの大きさで幹からぶら下がっています。約6か月で熟するこの果実は、“カカオポッド”と呼ばれ、品種により卵型・長楕円形・偏卵型・三角形などの様々な形をしています。外皮の色も赤・黄・緑など様々です。

樹木に実るカカオの果実

樹木に実るカカオの果実

カカオポッドの中には20~60個の種子が含まれ、これがカカオ豆 (cacao beans)です。またカカオの果肉はパルプと呼ばれて利用されます。

カカオの果実の断面 / 縦長のカカオの果実には、縦に豆が並んで詰まっている

カカオの果実の断面 / 縦長のカカオの果実には、縦に豆が並んで詰まっている

カカオの薬効や日常的な利用として、主に、以下の成分などが利用されています。

  • テオブロミン:利尿作用・筋肉弛緩作用として
    テオブロミンはアルカロイドの1種で、チャノキやコーラなどの植物にも含まれています。テオブロミンという名前は、カカオの学名“Theobroma”に由来します。
    1916年より、テオブロミンは浮腫、梅毒などの治療に用いられるようになり、また、かつては動脈硬化症、狭心症、高血圧など循環器系の疾患の治療にも用いられたという記述もあります。近年では、血管拡張薬、中枢神経刺激薬、利尿薬としても用いられています。
  • カフェイン:覚醒作用として
    カフェインもまたアルカロイドの1種で、コーヒーや緑茶などに含まれていることで有名です。中枢神経を興奮させることから覚醒作用、また、解熱鎮痛作用、強心作用、利尿作用などが認められています。
    医薬品にも使われていますが、不眠・めまい・中毒症状などの副作用もあるため、過剰摂取には注意が必要です。
  • ココアバター:ヒトの体温で溶ける植物性油脂として、座薬、軟膏の基剤
    ココアバターは、カカオ豆の脂肪分で、カカオ豆の40~50%に相当します。主に菓子(特にチョコレート)などの食品に利用されますが、その他にも、薬品(軟膏・座薬など)、化粧品の原料として利用されます。
    ココアバターは滑らかな素地で、皮膚を軟化させる特性があるため、化粧品・石鹸・ローションなどのスキンケア製品として重宝されています。
カカオの果実と、中に詰まっている豆

カカオの果実と、中に詰まっている豆

バニラ

(英名:vanilla、学名:Vanilla planifolia)

バニラ属の “Vanilla planifolia” のプランテーション

バニラ属の “Vanilla planifolia” のプランテーション

バニラはラン科バニラ属の蔓(つる)性植物です。また、その植物から抽出された香料のことも指します。

バニラの原産地は、メキシコ・中央アメリカとされていますが、現在の主な栽培地のひとつがマダガスカルで、その生産量は世界第1位です。
その他には、メキシコ、グアテマラ、ブラジル、パラグアイ、インドネシアなどでも栽培されています。

マダガスカルのバニラは、世界での最大の生産量に加え、その品質も良質です。
マダガスカルでのバニラの産地は、ディエゴスアレスから南南東へ460kmの“サンバヴァ(Sambava)”で、ここはバニラの名産地として有名です。

ヴァニラを選別する女性(Sambava、マダガスカル)

ヴァニラを選別する女性(Sambava、マダガスカル)

サンバヴァ(Sambava)地域の場所(マダガスカル島)

サンバヴァ(Sambava)地域の場所(マダガスカル島)


原産地メキシコでは、メリポナ蜂によって受粉されていますが、この蜂はメキシコ以外には分布しないため、マダガスカルでは人為的に受粉されています。

バニラは蘭(らん)の一種ですが、蘭(らん)の種の中で唯一食用にできる種です。
(つる)(茎)は樹木などにからんで成長していき、最長で60mを超えることもあります。種子が香料の原料として有名で、非常に微細で黒く、鞘(さや)の中に無数に含まれています。収穫した豆(種子鞘)には香りはなく、発酵・乾燥を繰り返すこと(=キュアリング)で、独特の甘い香りが発せられるようになります。このキュアリングを経た種子鞘が「バニラ・ビーンズ」と呼ばれ、食用に利用されます。

乾燥させた“バニラ・ビーンズ”

乾燥させた“バニラ・ビーンズ”

バニラ・ビーンズの原料とされるのは、バニラ属のうち主に“Vanilla planifolia”の種子鞘で、他には品質が少し劣る“ニシインドバニラ (V. pompona)” も利用されます。

バニラ属の “Vanilla planifolia” の花

バニラ属の “Vanilla planifolia” の花

さらにバニラ・ビーンズの成分を抽出して溶剤にとかし、バニラ・エッセンスやバニラ・オイルが作られます。

バニラ・ビーンズは非常に高価な香料のため、現代では人工的に合成された成分も利用されていますが、こうした人工香料を利用せず自然のバニラ・ビーンズを直接利用したものは、特にバニラ・エキストラクトと呼ばれています。

このように香料として主に利用されるバニラは、食用として菓子類に利用される他、香水などとしても世界中で利用されています。