目次
北アメリカの自然保護の歴史
変化に富んだ自然を見せる北アメリカも、近代化により植物の生息地が徐々に失われ、多くの原生植物が失われてきています。
そうした中、北アメリカでは、国立公園という形で、その自然や植物を保護する政策が行われてきました。
国立公園は、探検家・博物学者・先見的な自然保護論者そして植物学者であったジョン・ミューア*1)(John Muir, 1838~1914年)が、第26代大統領セオドア・ルーズベルトに、原生地帯の保護を訴えたことから広がっていきました。
- 注 *1) ジョン・ミューア:
スコットランド・ダンバー出身で、アメリカ合衆国のナチュラリストの草分け的存在として知られ、『自然保護の父』と呼ばれる。
作家・植物学者として知られるが、地質学にも精通する。アメリカ西部開拓の時代、ゴールドラッシュにより森林伐採・ダム建設が計画される中、これに反対し、シエラネバダの大自然を守ってきた。ヨセミテ渓谷から端を発する遊歩道は、彼の業績を記念し「ジョン・ミューア・トレイル」と名付けられている。
このミューアの自然保護への情熱には、セオドア・ルーズベルト大統領も心を動かされ、現代まで繋がる北アメリカの国立公園の理念が、ここに確立されることになりました。
また、ミューアの「自然の保護は、自然を知るところから始まる」という理念から、彼は人々に森の体験を促し、自然教室なども開いてきました。こうした彼の行動は、「自然と人間との共生」という理論に裏付けられています。
ミューアの活動のように自然保護運動も活発に広がり、その後、法的措置も取られてきましたが、それでも、現代のアメリカとカナダでは、原生植物の保護が課題となっています。
こうした原生植物の危機は、近代化の波だけが原因ではありません。
ハーブの利用においても、野生植物が採取されていたことにより、数が減少しているという事実もあります。
もともと、北アメリカの重要なハーブは、ほとんど森林で採取される植物で、これらはアメリカの先住民たちにとっては「薬」でした。大航海時代より、植民者たちが入植していくと、これらのメディカル・ハーブを採取し、商業的に活用し始めたため、ハーブの需要が高まり、野生のハーブにも危機が訪れます。
現代でもポピュラーな北アメリカのメディカル・ハーブは、北アメリカの先住民(ネイティブ・アメリカン)の医療、薬草の知識に、大きく拠っています。
例えば、以下からご紹介する植物は、ネイティブアメリカンに利用され、その後、アメリカ以外でもメディカル・ハーブとして利用されるようになった重要な植物です。
北アメリカの重要なハーブ
以下の植物は、どれも森林に生息する植物で、ネイティブアメリカンに伝統的に利用されてきた後、現代でもメディカルハーブとして利用されているものです。
トリリウム・エレクツム
(英名:Purple trillium, Red trillium など、和名:アカバナエンレイソウ、学名:Trillium erectum)
トリリウム・エレクツムはユリ科エンレイソウ属の植物です。
北アメリカ大陸の東部が原産地で、この地域に分布しています。
園芸用にも利用され、需要の高い植物ですが、メディカルハーブとしては主に根が利用されるため、大量採取の問題が懸念されています。
一方、葉には毒性があるため、注意が必要です。
アメリカチョウセンニンジン(アメリカニンジン)
(英名:American ginseng、学名:Panax quinquefolius)
アメリカチョウセンニンジンは、ウコギ科の薬用植物です。北アメリカ東部が原産地で、北アメリカ北東部からカナダ南部の森林地帯に分布しています。
古くから、ネイティブアメリカンの人々は、アメリカチョウセンニンジンの根と葉を、薬用として利用していました。
ヨーロッパからの入植が始まると、チョウセンニンジンの薬効を知るイエズス会の宣教師がこの植物を探し始め、1716年に、モントリオールの近くで発見されました。
その後、すぐに輸出されるようになり、1752年にはアメリカの業者も輸出に進出します。
1800年代には、野生の根を中国・清朝の商人が買い付け始めましたが、野生の大きな根は高価な根で取引されていました。
そして1890年頃にはすでに大量採集から野生種が不足し始め、野生の根からの栽培実験が開始されました。
近年では、1975年にワシントン条約の「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora、通称:CITES(サイテス))」が発足されて以来、アメリカチョウセンニンジンは、絶滅の危機に瀕する植物としてリストアップされています。
アメリカチョウセンニンジンの薬効としては、朝鮮人参に似た強壮作用、また解熱鎮静作用もあります。
ブラックコホッシュ
(英名:black cohosh、学名:Cimicifuga racemosa=Actaea racemosa)
ブラックコホッシュはサラシナショウマの一種で、キンポウゲ科の植物です。原産地は北アメリカで、北アメリカの肥沃な広々とした林地に多く生息しています。
ブラックコホシュという名前は、根茎が黒味がかっていることに由来すると言われています。
古くからネイティブアメリカンが利用してきたメディカルハーブで、主に婦人病や咽頭炎などに対して用いられてきました。その後、ヨーロッパからアメリカに入植した人々に伝わり、現代でも重要なメディカルハーブとして知られ、特に月経前症候群(PMS)や更年期障害に対して処方されます。
その他にも、以下のようなハーブは、こうした伝統的な北アメリカのメディカル・ハーブとしてよく知られています。
特に、ネイティブ・アメリカたちが利用したメディカル・ハーブの多くは、木や潅木がその多くを占めています。
北アメリカの伝統的なメディカルハーブ
カバノキ属
(英名:Birch, 学名:Betulaceae)
カバノキは、北半球のうち、温帯気候と寒帯気候の地域に生息する落葉広葉樹です。一般に小~中程度の背丈の低木です。
カバノキ属は30~60種が知られていますが、そのうちの11種は、国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature, 通称:IUCN)による動植物のリストに掲載されており、保護が必要とされるものです。
カバノキはその芽や樹皮が民間療法に利用されてきました。樹皮にベツリンとベツリン酸を多く含み、医薬品としての可能性が発見されています。
カバノキは、世界中で見られますが、各地域によってその種が異なり、北アメリカ大陸で見られるカバノキは、ヨーロッパやアジアで見られるカバノキとは違う種も多くあります。以下は、北アメリカに生息するカバノキの種です。
マウンテン・ ホワイト・バーチ(英名:Mountain white birch、学名:Betula cordifolia)
マウンテン・ ホワイト・バーチは、北アメリカの東部に自生し、この地域でしか見られない種です。
アメリカンドワーフバーチ(英名:American dwarf birch、学名:Betula glandulosa)
アメリカンドワーフバーチもまた、北アメリカに固有のカバノキ属の種で、北極圏、アラスカ東部からカナダ東部の寒冷な地域に生息します。また北アメリカの南方部では、高地に生息します。
ペーパーバーチ(英名:paper birch または white birch、学名:Betula papyrifera)
ペーパーバーチは特に、その樹液からシロップが作られることで知られます。現在、アラスカと、カナダ北西部のユーコン準州でバーチ・シロップが生産されています。
スィート・バーチ(英名:sweet birch,、学名:Betula lenta)
スィート・バーチは、別名「ブラック・バー(black birch)」「チェリーバーチ(cherry birch)」とも呼ばれ、北アメリカを中心に生息しています。
スィート・バーチはさまざまな薬効が知られていますが、例えば、以下のような作用が挙げられます。
- 鎮痛作用(筋肉痛・関節炎の痛みなどに対して)
- 浄化作用(発汗、利尿、血液浄化)
- 抗菌作用(皮膚の感染症予防など、また炎症を抑える)
- 強壮作用
- 解熱作用
- 抗リウマチ作用
- 抗うつ作用
- 皮膚の収れん作用・頭皮への作用(育毛促進、抜け毛防止)
エンピツビャクシン
(英名:pencil cedar、和名:鉛筆柏槇、学名:Juniperus virginiana)
エンピツビャクシンは、ヒノキ科ビャクシン属の針葉樹で、北アメリカ東部の森林や岩石地の斜面に生育しています。
木材が柔らかいため鉛筆の材料に使われることから「エンピツビャクシン(英名:pencil cedar)」と言う名ですが、別名「イースタンシダー(eastern cedar)」、「レッドシダー(red cedar)」とも呼ばれます。
エンピツビャクシンの樹皮、果実、葉、木片からは、エッセンシャルオイルが抽出され、アロマテラピーでも利用されます。
エンピツビャクシンのエッセンシャルオイルには、鎮静効果がありますが、それは成分のα-セドレン、β-セドレン、セドロール、ツジョプセンなどによるものです。鎮静作用によって、気管支炎や咳、リウマチなどへの効果が知られています。その他にも、殺菌作用から膀胱炎の改善、腎臓の強化、皮膚の引き締め効果や、さらに、精神を安定させる作用も確認されています。
シダーの語源は、「霊的なパワー」という意味だとされます。
かつてシダーといえば、薬用で利用されるのは主に、ヨーロッパに存在するレバノンシダーでしたが、伐採により数が少なくなったことで、現在では、北アメリカに自生するエンピツビャクシンが、精油の製造に利用されています。
サッサフラス
(英名:sassafras、学名:Sassafras albidum)
サッサフラスはクスノキ科サッサフラス属の落葉性高木です。
サッサフラス属の中でも、特に北アメリカ東部原産で、この地域に自生する「サッサフラス・アルビダム(Sassafras albidum)」が、狭義に「サッサフラス」と呼ばれています。
この種には芳香があり、香料の原料として用いられます。
サッサフラスは葉の形状が特徴的で、一般的には葉の先が3つに裂けていますが、同じ木の葉でも裂けずに卵形になったり、また2つに裂けたり、4つから5つに裂けることもあります。
サッサフラスが利用されるのは、主にその芳香からです。樹木全体に柑橘系の芳香がありますが、特に根からは精油の「サッサフラス油」が抽出され、香料として用いられます。
サッサフラス油の主要成分“サフロール”には毒性があるため、現在アメリカでは、サッサフラス油を食用利用することは禁止されており、サフロールを除いたものが利用されています。
また、サッサフラスは料理にも利用されます。
アメリカ合衆国の“ケイジャン料理*2)”と“クレオール料理*3)”では、サッサフラスの葉を粉にしたものを“フィレパウダー(file powder)”と呼び、ガンボのとろみ付けに用います。葉には毒性のあるサフロールは含まれていないため、食用として利用されています。
- 注 *2)ケイジャン料理:
祖先が北米東部のアカディア地方に入植したフランス人の直系の人々のことをケイジャンと呼ぶ。彼らはイギリス人によってアカディアから追放されたのち、最終的に主にアメリカ合衆国ルイジアナ州南部に永住した。ケイジャン料理は、彼らケイジャンの人々による庶民料理のこと。ケイジャン料理では、「聖なる三位一体」と呼ばれる“タマネギ、セロリ、ピーマン”を合わせて炒め、料理のベースとすることが多い。
- 注 *3)クレオール料理:
米国ルイジアナ州ニューオーリンズ地域の伝統料理のこと。この地域で複数の食文化が混合された独特の料理。
フランス、スペイン、フランス領アンティル、西アフリカ、南北アメリカの食文化が混合された上、イタリア料理の特徴も備えている。
料理のベースとなる、タマネギ、セロリ、ピーマンを炒めたものを「聖なる三位一体」として使用するなど、またその食材も、ケイジャン料理と似ている。
モミジバフウ
(和名:紅葉葉楓、英名:American storax, hazel pine、学名:Liquidambar styraciflua)
モミジバフウは、フウ科フウ属の落葉高木。別名「アメリカフウ」とも呼ばれます。
フウ属の樹木は、中国・台湾・小アジア・北米に4種類存在しますが、そのうちのひとつが、モミジバフウです。
モミジバフウは、北アメリカ中南部と中央アメリカが原産地です。日本にも、大正時代に渡来しています。
モミジバフウはネイティブアメリカンに利用されていました。その後、この地を制服したスペイン、またアステカ帝国を滅ぼしたコルテスによって、ヨーロッパへ伝えられました。
フウ属の学名“リキッドアンバー”(Liquidambar)は、「琥珀色の液」を意味しますが、この植物から採れる樹枝は、香水などの香料や民間薬に利用されてきました。その樹皮は褐色を帯びていて、若枝にはコルク質の綾(あや。「物の表面に現れたいろいろの形・色彩。模様。特に、線が斜めに交わった模様。」の意。)があります。
葉は手のひらのような形で、光沢があり、紅葉するため、まさに「紅葉(もみじ)」を思わせます。街路樹などにも、よく利用されています。
フウ属の樹液を原料とした精油は「レーバントスタイラックス」と呼ばれ、他の属から作られたものと区別するため、特に「レーバントスタイラックス/レバントスチラックス(Levant styrax)」とも呼ばれます。
レーバントスタイラックスは小アジア原産のものから製造されたものがほとんどですが、アメリカ原産のモミジバフウの樹脂からも製造され、これは“アメリカンスタイラックス”精油と呼ばれています。
一方で、フウ属の樹木の樹脂は、世界中の各原産地で、伝統医療として用いられてきたとされますが、現代まで、医学的な検証は行われていないともされています。
アメリカノリノキ
(英名:smooth hydrangea, wild hydrangea, or sevenbark、学名:Hydrangea arborescens)
アメリカノリノキは、アジサイ科アジサイ属の開花植物、また高さ3mまで成長する中型の落葉低木です。別名「アメリカアジサイ」とも呼ばれます。
原産地は、北アメリカ東部で、この地域に広く分布しています。主に広葉樹林“キャノピー”の下の湿った土壌に生息し、森林の山状地や小川の周辺で、よく見られます。また、デラウェア川流域やアパラチア山脈でもよく見られます。
アメリカノリノキは、その根が、ネイティブアメリカンによって薬草として利用されていました。ネイティブアメリカンのチェロキー族は、アメリカノリノキが腎臟結石、膀胱結石の治療に特に有効だと知っていました。結石の排出を促し、残った結石も溶かすと考えられていました。
その後、この地への初期の入植者たちによっても、アメリカノリノキは薬草として利用されてきました。
アメリカノリノキはその他にも、利尿作用で知られます。膀胱炎、尿道炎、前立腺肥大、前立腺炎など泌尿器系の感染症にも用いられてきました。
こうした効果を持つアメリカノリノキの薬用成分は、フラボノイド、青酸配糖体(ハイドランゲイン:hydrangin)、サポニン、揮発油です。
一方で、アジサイ属の一部の種では、その毒性についても注意しなければなりません。1920年アメリカでは、アメリカノリノキによるウシとウマの中毒が報告されています。中毒症状は、下痢・体温上昇・呼吸数と心拍数の増加・骨格筋の強い収縮・足を突っ張って飛び上がるなどの症状です。さらに日本でも、2008年に、料理の飾りに使われたアジサイの葉を摂食した客が、中毒を起こした事故が発生しています。こうした症状が報告される一方で、アジサイ属の毒性物質は明らかにされていない状況もあります。
ニオイヒバ
(英名:northern white-cedar, eastern arborvitae、和名:匂檜葉、学名:Thuja occidentalis)
ニオイヒバは、ヒノキ科クロベ属の常緑針葉樹の高木です。
ニオイヒバは別名「北部の白い杉(northern white-cedar)」や「東部の樹木葉(eastern arborvitae)」とも呼ばれます。
一般的には“アルボル・ウイタエ(Arbor vitae)”という名でも知られますが、これはラテン語で“命の木”という意味を持ちます。
現代では、栽培植物として、様々な園芸種も作られていますが、もともとのニオイヒバの原種は、高さ15m前後まで成長します。
ニオイヒバが分布する地域は、カナダの東部から合衆国の東北部・北部・中にかけての地域です。半日陰の湿潤な環境や、他の樹木が育成しにくい崖のような場所に、多く生息しています。
現在、絶滅の危機に瀕した植物リストにはあげられていないものの、各地でその数が減ってきており、それは、柔らかい常緑の葉を冬の常食とする鹿の個体数の多い場所で起きています。
もともとニオイヒバは非常に長く行き続ける樹木であるため、このような状況から、野火(=自然の火災)が起こりにくく鹿などが近寄れない崖の土地で、大きなニオイヒバが確認できます。オンタリオ州南部の崖の上では、1650年以上生きているニオイヒバが確認されています。
ニオイヒバの精油は、様々な日用品にも取り入れられています。例えば、クレンザー、消毒剤、整髪剤、殺虫剤、塗布薬、ルームスプレー、石鹸などです。
北アメリカ先住民のオジブワ族の人々は、ニオイヒバの柔らかい小枝の内樹皮から、スープを作っていたという報告があります。また他の民族では、ニオイヒバの小枝をお茶にし、これは便秘や頭痛の緩和に利用されていたとされます。
19世紀になると、ニオイヒバの抽出物から、イボ、白癬(はくせん:糸状菌によって起こる皮膚病の一種)、鵞口瘡(がこうそう:糸状菌の寄生によって起きる乳児の口内炎の一種)の治療のための、外用薬(チンキや軟膏)が一般的に使用されていました。
またニオイヒバは、代替医療のホメオパシーでも、“スーヤ”という名称で利用されている植物で、ニオイヒバの葉と小枝が使用されます。
ホメオパシーの古典の時代には、「淋病(りんびょう)」と関係づけられた植物で、一般的に、皮膚の症状、イボなどに対して利用されています。
ニオイヒバの葉にはレモンに似た芳香がありますが、これがニオイヒバの名前の由来となっています。
など。
こうした植物は、その樹皮が利用されるため、皮をはがれた樹木の多くは枯れてしまい、その生存が危機にさらされるようになってきました。
メディカル・ハーブの栽培の試み
このように、貴重なメディカル・ハーブの生息が危ぶまれるようになり、法的な規制がなされてきました。
例えば、アメリカ合衆国では、固有林で採集を禁止する植物リストを作成し、それ以外の植物にも、採集許可の必要を設けました。
しかしそれでも保護が追いつかないものについては、栽培が試みられてきました。
例えば、ネイティブアメリカンの重要なメディカル・ハーブ「エキナセア」は、栽培に成功した例です。その他にも、ホホバなどが、長年の研究の末に、現代では効率的に栽培できるようになりました。また、前述のように、アメリカチョウセンニンジンもまた、野生種の不足に伴って栽培実験が始められた経緯があります。
北アメリカで栽培により量産されている植物は、以下のようなものがあります。
- アメリカチョウセンニンジン
- トケイソウ
- ロベリア
- エキナケア・プルプレア
- ホホバ
など。
トケイソウ
(和名:時計草、英名:Passion flower、学名:Passiflora caerulea)
トケイソウは、トケイソウ科トケイソウ属の常緑蔓性低木です。
原産地は南アメリカの中西部と、中央アメリカのブラジルからペルーにかけての地域です。これら熱帯・亜熱帯の地域が原産地ですが、現在では観賞用として、世界中で広く栽培されています。
トケイソウの種には、約500の種類があり、さらに栽培品種ではそれらを掛け合わせるために、さらに多くの数が存在します。特に栽培品種には、特徴的なさまざまな色や形のものが見られます。
この特徴的なトケイソウの花は、7~8月頃に咲き、10cmほどの大きさになります。それは名前にも表現されており、「トケイソウ(時計草)」という和名は、花のかたちが時計の文字盤に見えることが由来です。時計の長針、短針、秒針のように見えるのは、この花の3つに分裂した雌しべです。
一方、英名の「パッション・フラワー」は、「パッション(=キリストの受難)」に由来します。花の子房柱が、キリストが張りつけにされた十字架に、3つに分裂した雌しべが釘に見えるとされます。
また、16世紀に中・南アメリカに派遣されたイエズス会の宣教師たちが、この花を見て、かつてアッシジの聖フランチェスコが夢に見たという「十字架上の花」だと信じ、キリスト教の布教に利用したという経緯もあります。
トケイソウには精神や痛みを静める働きがあり、具体的な薬効として、「鎮痛・精神安定・抗痙攣(けいれん)・不眠の緩和・血圧降下・ヒステリーやノイローゼの緩和・抗更年期障害」などが知られています。
また、一般にパッションフルーツと呼ばれて食される果実がありますが、これは薬草として利用される上記のトケイソウの種「Passiflora caerulea」とは、別の種の、“クダモノトケイソウ(Passiflora edulis)”の果実です。
クダモノトケイソウ以外にも、「P. ligularis」、「P. mollissima」、「P. quadrangularis」などが、果汁の採取目的などで食用として栽培されることがあります。
ロベリア
(和名:ベニバナサワギキョウ、英名:cardinal flower、学名:Lobelia cardinalis)
ベニバナサワギキョウは、“ロベリア”としてよく知られるキキョウ科の多年生開花植物です。
キキョウ科の植物ロベリアは、世界各地の熱帯と亜熱帯の地域を中心に、約300~400種が知られています。現代、観賞用としては、主に以下の3つのロベリアがよく知られています。
- ルリミゾカクシ(学名:L. erinus):南アフリカ原産
- ベニバナサワギキョウ(学名:L. cardinalis または L. fulgens):北アメリカ・メキシコ原産
- スレンダー・ロベルニア(英名:slender lobelia、学名:L. tenuior):オーストラリア原産
イギリスでは、このベニバナサワギキョウは「カーディナルフラワー(cardinal flower)」と呼ばれ、他の種のロベリアとは別の一般名となっています。また、アメリカでは、このベニバナサワギキョウのことを一般的に「ロベリア」と呼びます。一般に英語圏では、ベニバナサワギキョウを「スカーレットロベリア」(真紅のロベリア)と呼び、例えば他の種のひとつL.Erinusは「ブルーロベリア」(青いロベリア)と呼ばれています。
北アメリカ原産のロベリアであるベニバナサワギキョウ(学名:L. cardinalis)は、カナダの南東部から、アメリカ合衆国の南西部、メキシコ、中央アメリカ、コロンビア北部にかけて生息しています。湿った土地や渓流の近くなどでよく見られます。
一般名として知られる「カーディナル・フラワー」とは、「枢機卿の花」という意味です。この名称の意味は、ローマカトリック教の枢機卿が着用する赤い服を指しています。
ロベリアは、成長すると背丈1.2mほどになり、葉は長さ20cm・幅5cmほどで楕円形にとがって歯があるのが特徴です。また、鮮明な赤い花を咲かせます。
ベニバナサワギキョウは、種子からの増殖が容易で、よく栽培されています。毎年、古い植物の周りに、若い植物が育っていきます。
薬草としての利用は、ネイティブアメリカンのズーニー族*4)が、皮膚の腫れやこぶ、リューマチの症状に対して、外用の湿布として利用していました。また、アメリカ合衆国メイン州の河川ペノブスコット川流域の人々は、この植物の葉を乾燥させ、タバコの代用品として、喫煙していました。
- 注 *4)ズーニー族:
ズーニー川の谷(Zuni River valley)に住んでいたネイティブアメリカンの人々。現在のアメリカ合衆国ニューメキシコ州西部に位置する、リトル・コロラド川の支流であるズーニー川沿いに居住している。日々の生活に宗教を組み込み、先祖、自然、動物を尊重する民族だが、その詳細は非公開にされている。
毒性を持つロベリア属の植物であることから、ベニバナサワギキョウにも潜在的に毒性があると考えられています。大量摂取した場合には、悪心、嘔吐、下痢、唾液分泌、疲労や衰弱、瞳孔の膨張、痙攣(けいれん)と昏睡などの症状に至ります。
ベニバナサワギキョウには、ロベラミンやロブリンなど、有毒アルカロイドが数多く含まれています。
エキナセア
(和名:ムラサキバレンギク(紫馬簾菊)、英名:Echinacea、学名:Echinacea purpurea)
エキナセアは、キク科ムラサキバレンギク属の多年草です。英名のエキナセアの名で、近年では日本でも、メディカルハーブとしてよく知られるようになってきました。
エキナセアは、その花の姿が特徴的です。7~10月頃に開花する花は、花の中央部が盛り上がり、花弁の部がやや下向きに咲きます。非常に鮮明なピンク色の花弁も印象的です。
原産地は北アメリカで、ネイティブ・アメリカンが“聖なるハーブ”と呼んで、長く利用してきたメディカルハーブです。
後に、北アメリカ大陸に入植してきた人々により、ヨーロッパへ伝えられます。そして現代でも、欧米諸国で、エキナセアはハーブティーとして日常的に親しまれ、炎症や傷の治療にも用いられています。
エキナセアは、WHO(世界保健機構)が安全性や有効性が確立されている薬用植物を集めたリスト『WHO Monographs』に載っており、また、ヨーロッパでは現在、医薬品として指定されています。
エキナセアの薬効としては、まず、「免疫強化」がよく知られ、抗ウィルス・抗菌の作用が認められています。日常的には、風邪のときなどによく利用されています。
ネイティブ・アメリカンのホピ族*5)の人々は、ウィルス性疾患の予防と治療、虫さされ、蛇に噛まれた際の消毒薬としても利用していました。その他にも、紅斑熱、梅毒、マラリア、ジフテリアなどの感染症の治療薬としても利用されていました。
- 注 *5)ホピ族:
「ホピ」=「平和の民」という意味の名を持つネイティブ・アメリカンの一部族。主にアリゾナ州北部の6,000km2の保留地に居住している。
特に1950年頃に抗生物質が登場するまでは、エキナセアは、感染症の治療薬として広く利用されていました。
薬草としては、エキナセアの花、葉、茎、根と、植物のすべての部位が利用されますが、主には根が利用されてきました。それぞれの部位は、少しずつその有効成分が異なるため、プロのハーバリスト(薬草家、ハーブの専門家)は、症状によって利用する部位を使い分けることもあります。
エキナセアには、エキナセイン、イヌリン、フラボノイド、フィトケミカル、ビタミンCや、その他の有効成分が、非常にたくさん含まれています。
多くの有効成分から、エキナセアには、免疫強化や抗菌・抗ウイルス以外にも、抗ガン、鎮痛、呼吸器疾患の緩和・予防、美肌、便秘改善、糖尿病予防、抗うつ、関節痛の緩和などの多くの効果が知られています。
ホホバ
(英名:Jojoba、学名:Simmondsia chinensis)
ホホバはシモンジア科シモンジア属の多年生常緑低木です。以前はツゲ科やトウダイグサ科に分類されていましたが、1990年代にシモンジア科(ホホバ科)が新たに作られ、この種「Simmondsia chinensis」のみがこのシモンジア科に属しています。
一般的に使用される“ホホバ(jojoba)”と言う呼び名は、もともとスペイン語です。
原産地は、アメリカ合衆国南西部からメキシコ北部の砂漠地帯です。
過酷な環境の砂漠地帯でも生存できるよう、水分を保持して長く生き続けるたくましい植物です。中には、樹齢200年にも達するホホバもあるようです。
ホホバがこのように水分を保持できるのは、その硬い皮に覆われた実の中に詰まっているクリーム色の果肉の働きによります。その果肉を硬い皮で覆うことで、さらに水分の保持を助けています。
ホホバの木は、成長すると背丈2mほどになります。株も大きく、幹は直立してよく枝分かれします。また、楕円形で光沢のある葉が特徴です。
ホホバが利用されるのは、主にその種子になります。
種子を絞って得られるホホバオイルは、その保湿効果のために、非常に多くの品に利用されます。例えば、皮膚への外用マッサージオイルや、エッセンシャルオイル用のキャリアオイルとして、また、皮膚や毛髪の保湿や、シャンプー・石鹸の原料としても利用されます。
人に対してだけでなく、潤滑用に工業用油脂の原料としても利用されます。
ホホバオイルがこれだけ用途が広いのは、他の植物オイルと異なり、液状ワックスエステルが主成分であることがその理由です。ホホバは、この「液状ワックスエステル」*6)を種子に含む唯一の植物です。
- 注 *6)ワックスエステル:蝋(ワックス)のことで、ヒトの皮脂腺で作られる脂質の主成分。「自然界で最も人間の皮脂に近いオイル」と呼ばれている。一方、ワックスエステルはヒトは消化できず、油脂瀉下を引き起こすことがある。
ホホバオイルは、他の植物オイルとは異なり、その成分のほとんどがワックスエステルです。その特徴として、通常の植物オイルのように容易に酸化せず、安定しています。このため、酸化から皮膚を守る化粧品として大変多く利用されています。例えば、70度以上の高温に4日間置いても変質がなかったという実験もあります。こうした性質から、大変希少価値の高いオイルだといえるでしょう。
また、常温で液体のワックスエステルであるという性質から、同じ性質を持つマッコウクジラオイルの代替としても利用されています。
ところで、商品として精製していない天然のホバオイルは、黄金色をしています。それは、ホホバオイルの成分がそのまま残っているためで、栄養豊富な状態です。精製され商品化されたものは、透明な状態ですが、これは自然のものより低刺激です。
このホホバオイルを初めて利用したのは、原産地のアメリカ西部に住むネイティブアメリカンたちです。彼らはホホバオイルを「金の液」と呼び、さまざまな用途に利用しました。1790年頃の文献には、ホホバオイルについて、「北アメリカの原住民が肌の保護や傷への治療薬・料理に使用している」との記述が見られます。
このような万能のホホバオイルには、以下のようなメリット(特徴)があります。
- 全身に利用できる。
- ヒトの皮膚となじみやすく、皮脂分泌量を調整する。=「自然界で最も人間の皮脂に近いオイル」
- 低刺激・低アレルギー性:肌質を選ばない。赤ちゃんや敏感肌にも利用できる。
このように万能なホホバの成分としては下記のものが挙げられます。
上記の成分のうちの9割が、“ワックスエステル”にあたる成分です。
ホホバオイルの効果が期待できる症状として、以下の効果が挙げられます。
- アトピーや皮膚炎の改善:アトピーが原因として発症しやすい黄色ブドウ球菌も消滅させる。
- ニキビ・吹き出物の改善:大人の乾燥性のニキビに特に有効。ホホバの保湿効果と、皮脂の汚れを落とす効果より。
- 美肌効果:成分の「ビタミンA、ビタミンE、ミネラル」が、肌の代謝を促進する。また「シミ、しわ、老化」を防止する。
- 頭皮や髪を健康に:頭皮マッサージにより頭皮を柔らかくし、「抜け毛、フケ、かゆみ」を改善する。
- 髪を美しく健康に:ワックスエステルとビタミンなどの栄養による。また髪を紫外線から守る。