目次
北アメリカには以下のような重要なメディカルハーブが存在します。そのほとんどは、古くから、この地のネイティブアメリカンたちによって薬用利用され、その後、入植者たちによってヨーロッパに紹介され、現代まで引き継がれてきたハーブです。
多くの北アメリカのハーブのうち、北アメリカ固有のハーブ、絶滅が危惧されるハーブ、毒性を持つハーブなどを、ご紹介します。
北アメリカ固有のハーブ
ユニコーンルート
(英名:True Unicorn root, crow-corn, white colic-root、和名:ソクシンラン(束心蘭)、学名:Aletris farinosa)
ユニコーンルートは、ユリ科ソクシンラン属の多年草です。
地下に根茎が伸び、葉は放射状に広がります。最大20cmの長さまでになる葉は細長く、明るい黄緑色です。花の咲く頃には、100cmほどの背丈に成長しています。
ユニコーンルートは北アメリカの固有種で、アメリカ合衆国の中・東部からカナダの南東部にかけて分布しています。カナダでは現在、オンタリオ州南西部にのみ生息するとも言われます。
薬効としては、根茎の消化強壮作用が知られています。
カナダでは絶滅の危機にさらされていますが、その原因は、生息地を往来する小型バイクやトレールバイクなどの交通だと考えられています。
ノコギリパルメット(ソウパルメッド)
(英名:saw palmetto、学名:Serenoa repens)
ノコギリパルメットは、ヤシ科(Arecaceae)タリポットヤシ亜科(Coryphoideae)ノコギリパルメット属(Serenoa)の植物です。そしてノコギリパルメットは、ノコギリパルメット属に属する唯一の種です。
名称の「パルメット(palmetto)」とは、「手の平のような形状、扇形の葉を持つヤシ」の意味です。
欧米では、男性の性機能の治療薬や強壮剤として、ソウパルメットの名でよく知られています。バニラの香りがします。
●ノコギリパルメットの生息地
ノコギリパルメットは、アメリカ合衆国南西部の亜熱帯地域の固有種です。
多くは、大西洋岸からメキシコ湾岸にかけて、これらの地域の平地、低地、砂丘などに生息していますが、アーカンソー州南部など内陸部でも見かけることがあります。
ヤシの中では小型で、背丈2~4mほどに成長します。多くのノキギリパルメットが規則的に並び、海岸沿いの砂浜に密集して群生するか、木立や密生した藪(やぶ)で、また、松林や広葉樹の下方に生育しています。
ノコギリパルメットは、丈夫な植物ですが、成長が非常に遅く、そして長く生きます。フロリダには推定樹齢500~700年のノコギリパルメットも存在します。
●ノコギリパルメットの形態
ノコギリパルメットの葉は長さ1~2mまで成長し、扇形で無毛の葉柄を持ち、1つの葉には約20の小葉がついています。小葉は50~100cmほどになります。
葉柄は細かく鋭い棘(とげ)で覆われているため、和名の「ノコギリ」や英名の「Saw(のこぎり)」がつけられました。この棘(とげ)は、触ると皮膚を傷つけるため、注意が必要です。
花は淡黄色で、幅5mm、長さ60cmの大きさで、密集して円錐状に花を咲かせます。
果実は大きく、赤黒い核果を持ち、野生動物や人の食料になります。
●ノコギリパルメットの利用とその歴史
ネイティブアメリカンの人々は、ノコギリパルメットの果実を食用にしていました。
ネイティブアメリカンのうちセミノール族*6)やバハマに住む人々は、ノコギリパルメットの果実を、魚にあたった際の食中毒の治療に利用されていたともいわれます。
- 注 *6)セミノール族:
もともとはフロリダ州のネイティブアメリカンたちで、現在は、フロリダ州とオクラホマ州に住んでいる。
また、その果物は、様々な尿や生殖器に関する問題の治療のためにも利用しました。
マヤ文明のマヤ人たちは、強壮剤として飲用し、セミノール族の人々は果実を去痰(きょたん)薬や消毒剤として利用しました。
食用以外にもノコギリパルメットは利用されてきました。この植物が生息する地域のネイティブアメリカンたちは、ヨーロッパ人の入植以前から、ノコギリパルメットの繊維をウィスコンシンやニューヨークまで運び取引していました。
また、葉は茅葺(かやぶき)屋根に利用されました。
●ノコギリパルメットの現代の薬用利用
ノコギリパルメットは、現代でも薬用としても利用され、研究も続けられています。
その果実は、脂肪酸やフィトステロールが豊富なため、抽出物が前立腺肥大症 (BPH) 、前立腺癌の治療薬として研究されています。特に欧米諸国では、BPHに関係する軽度の尿路症状の治療には、ノコギリパルメットを利用することが一般的だともいえます。特にヨーロッパでは、ノコギリパルメットは伝統生薬製剤の欧州指令に従って、医薬品となっています。
その他、脱毛症や多嚢胞性卵巣症候群など、高アンドロゲン*7)状態の症状に対してや、抗炎症、滋養強壮、利尿などの目的でも用いられています。
こうしたさまざまな利用がなされていますが、医学的な実証はいまだ十分になされていません。
- 注 *7)アンドロゲン:
ステロイドの一種で、生体内で働いているステロイドホルモンのひとつ。雄性ホルモン、男性ホルモンとも呼ばれる。
●ノコギリパルメットの毒性
ノコギリパルメットには、特に重大な副作用やアレルギー反応、また毒性は報告させていませんが、多少の注意が必要です。
例えば、ノコギリパルメットの抽出物を食品と一緒に摂取すると、消化の際に胃腸の働きを低減させることがあります。また、出血しやすくなったり、性ホルモンに影響を与えることもあります。さらに、同様の作用を持つ薬剤と同時に摂取することは避けるべきと考えられていますです。
このように、性ホルモンに影響を与えることから、12歳以下の子供にはノコギリヤシの抽出物の摂取は薦められません。
同じ理由から、妊娠中の期間にも摂取すべきではありません。ノコギリパルメットの抽出物の効果である、アンドロゲンとエストロゲンの代謝に対する影響は、胎児の生殖器の発達を損なう可能性があるためです。
同様に、十分な検証結果がないことからも、授乳中の摂取も控えるべきでしょう。
絶滅が危惧されるハーブ
上記のユニコーンルートに加え、以下の植物も、絶滅が危惧されている植物です。
ゴールデンシール
(英名:Goldenseal、学名:Hydrastis canadensis)
ゴールデンシールは、キンポウゲ科の多年生ハーブで、カナダ南東部と米国東部に生息しています。
●ゴールデンシールの形態
ゴールデンシールは、厚くて黄色い、結び目のある根茎が特徴です。
茎は地上では紫色がかった毛状、地下では黄色い根茎になっています。
ゴールデンシールは、主に根茎によって自己増殖します。葉は、手のひらの形で毛に覆われ、花は小さく白い目立たない姿をしています。果実は、10~30の種を含んだ大きなラズベリーのような形をしています。
●ゴールデンシールの薬用利用
ゴールデンシールは伝統的に、胃や肝臓の症状に対して利用されてきました。主に、根と根茎が、薬草として利用されてきました。
薬効が利用されるのは、主にゴールデンシールの根と根茎で、その成分“ベルベリン”と“ヒドラシン”は、抗炎症、抗下痢、抗菌、免疫増強などに効果があるとされています。
ゴールデンシールは、その薬効として、抗炎症、抗下痢、抗菌、免疫増強などが知られています。また、筋肉の痙攣、癌、胃腸障害、結膜炎、重い月経痛、感染症、腫脹および浮腫などの治療薬としても利用されます。また、心臓強化や血圧上昇作用もあります。
現代では、ゴールデンシールは、他のハーブの薬効を高めるために配合して利用されています。
ただしこうした効果は、現在、科学的な研究や証拠をもって示されていない状態です。
●ゴールデンシールの薬用利用の歴史
南北アメリカの植民地時代、ゴールデンシールは北アメリカの特定のネイティブアメリカンたちの間で、薬として、また染料として、広く利用されていました。
その後、アメリカのナチュラリスト・植物学者・医者であるベンジャミン・スミス・バートン(Benjamin Smith Barton、1766年~1815年)が1798年に記した『アメリカ合衆国のマテリアメディカ(Materia Medica)に向けたエッセイ集』(Collections for An Essay Towards a Materia Medica of the United-States, 1798~1804年)の初版では、チェロキー族の人々がゴールデンシールを癌の治療のために利用していることが述べられています。またチョロキー族の人々は、ゴールデンシールを昆虫の忌避剤としても利用していました。
また後にバートンは、ゴールデンシールの苦味のある強壮剤としての作用や、結膜炎に対する洗浄剤としての作用についても、記しました。
こうした作用は、ネイティブアメリカンたちにも知られており、彼らもまた、消化促進、目の洗浄、利尿、苦み(の味付け)などの用途のため、ゴールデンセンスを利用していました。
●ゴールデンシールの毒性
ゴールデンシールは、その毒性についても注意が必要です。
カリフォルニア州では、ゴールデンシールの根の粉を、発がん物質としてリストに載せることを提案しています。
通常の用量では毒性が低いとはいわれるものの、妊婦や幼児に対しては、アルカロイドを豊富に含むという点で、摂取に注意が必要です。高アルカロイドへの注意は、コーヒーやタバコなどの物質についての注意と同様という考えです。特に、新生児が直接摂取したり、母乳保育中の母親や妊婦が摂取した場合には、新生児に脳損傷を引き起こす可能性も懸念されています。
その他、ゴールデンシールの副作用として、
などが懸念されています。
また、多量の摂取で呼吸障害が、長期間の使用でビタミンBの欠乏、幻覚、せん妄などにつながる可能性も指摘されています。
●絶滅危惧種としてのゴールデンシールと、その保護
現在、ゴールデンシールは絶滅危惧種とされています。
19世紀半ばに普及した後、1905年頃には十分な個体数がなくなっており、過剰な採集や生息地の破壊がその理由でした。野生のゴールデンシールは、ワシントン条約の「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora、通称:CITES(サイテス))」の付属書IIに記載されており、公有地からの収穫が禁止され、輸出には許可が必要です。
カナダとアメリカ合衆国の17の州では、野生のゴールデンシールの生息は、国際自然保護連合(IUCN)が定めた絶滅危惧種に含まれています。
こうしたことから、ゴールデンシールを含むハーブ商品について、この植物が将来生存できないような方法で採取されていないかどうか懸念する必要があると、ハーバリストたちは指摘しています。
一方で、こうしたゴールデンシールの生存の危機から、現代ではほとんどのゴールデンシールは栽培されているものです。さらに、薬草としての利用では、ゴールデンシールの代用として、ゴールデンシールの有効成分“イソキノリンアルカロイド”のうち、ベルベリンを含む植物の利用が検討されています。
毒性のあるハーブ
上記のゴールデンシールも毒性を持ちますが、その他にも、薬効が利用されてきた植物には、毒性を持つものも多く存在します。以下は、薬効と共に毒性を持つ植物です。
ヨウシュヤマゴボウ
(英名: American pokeweed,
pokeweed、和名:洋種山牛蒡、学名:Phytolacca americana)
ヨウシュヤマゴボウは、ヤマゴボウ科ヤマゴボウ属の多年草です。別名で、アメリカヤマゴボウとも呼ばれます。
●ヨウシュヤマゴボウの生息地
北アメリカ、アメリカ合衆国の東部、中西部、西海岸などが原産地です。
●ヨウシュヤマゴボウの形態
ヨウシュヤマゴボウは、成長すると背丈2mほどになり、赤い茎、大きな葉、太く長い根を持ちます。6~9月には白~薄紅色の花を咲かせます。
また、夏には平べったい形状の果実をつけた後、この果実は初秋には黒く熟します。
熟した果実は柔らかく、つぶすと赤紫色の果汁が出ますが、この果汁は強く染まるため、付着するとなかなか落ちません。この果汁の性質から、アメリカ合衆国ではポークウィード(Pokeweed)やインクベリー(Inkberry)という別名でも呼ばれています。
●ヨウシュヤマゴボウの毒性
また、ヨウシュヤマゴボウには毒性があるため、注意が必要です。
植物の全体に毒性があり、果実にも毒があります。毒性の強さは、根、葉、果実の順で強いのですが、この中では果実自体の毒性は弱いものの、果実の中の種子は毒性が高いので注意が必要です。果実はブルーベリーに見た目が似ていることから、誤って果実を食べてしまう事故もあり、注意が必要です。
ヨウシュヤマゴボウの持つ毒の成分は、アルカロイドであるフィトラッカトキシン(phytolaccatoxin)、サポニンであるフィトラッカサポニン(phytolaccasaponins)、アグリコンであるフィトラッキゲニン(phytolaccigenin)などで、さらに根には、硝酸カリウムが多く含まれています。
毒の作用としては、摂取して2時間後には、強い嘔吐や下痢が起こります。摂取量が多かった場合には、中枢神経が麻痺して、痙攣(けいれん)や意識障害が生じ、最悪の場合には呼吸障害や心臓麻痺から死に至ることもあります。幼児では、種子を摂取すると、果実数粒分に含まれる種子であっても、重篤な症状を引き起こす可能性があります。
不思議なことに、鳥はこのヨウシュヤマゴボウの毒の影響を受けることがなく、果実を食べて、中の種子を撒き散らします。
こうした毒性にもかかわらず、ヨウシュヤマゴボウの根や種子に含まれる植物タンパク質には、毒性と同時に有用な薬理作用があると期待され、研究が進められています。
●ヨウシュヤマボゴウの薬用利用の歴史
オーウェンが記しているところによると、ネイティブアメリカンや初期の入植者たちは、ヨウシュヤマゴボウの根を、湿布や、皮膚炎やリューマチに対する薬として利用していました。
19世紀後半の『王のアメリカ薬局方』には、ヨウシュヤマゴボウの摂取を薦めるさまざまな民間療法が記されています。1890年代には、ヨウシュヤマゴボウの抽出物は、体重減量のための処方薬としても宣伝されています。
●ヨウシュヤマボゴウの現代の薬用利用
ヨウシュヤマゴボウは、代替療法において、流行性耳下腺炎、関節炎、様々な皮膚状態など広範囲の病気を治療する栄養補助食品として推進されています。
このようにヨウシュヤマゴボウは薬草としての実験対象となっていますが、医学的な有効性の証明は、いまだなされていません。
ポドフィルム
(英名:mandrake、和名:アメリカハッカクレン(亜米利加八角蓮)、学名:Podophyllum peltnatum)
ポドフィルムは、メギ科(Berberidaceae)ミヤオソウ属(Podophyllum)の多年草です。
一般名として「メイアプル(mayapple)」「アメリカンマンドレイク(American mandrake)」 、「ワイルドマンドレイク(Wild mandrake)」「グランドレモン(Ground lemon)」の名でも知られています。
別名で「マンドレイク」と呼ばれていますが、ナス科マンドラゴラ属のマンドレイク(Mandragora officinarum)とは別の種の植物です。
●ポドフィルムの生息地
ポドフィルムは、北アメリカが原産地で、アメリカ合衆国東部とカナダ南東部の大部分に分布しています。
●ポドフィルムの形態
ポドフィルムは、ひとつの根から派生した集合体で育成する森林の植物です。茎は30~40cmの高さままで成長し、葉は直径20~40cmで傘を開いたような形状で生えています。
花は白、黄、赤などの色で、直径2~6cm、花弁6~9枚です。成熟すると、2~5cmの緑、黄、赤などの色の果肉をつけます。
●ポドフィルムの毒性
ポドフィルムには毒性があるので注意が必要です。成熟した黄色の果実は、少量であれば食べても問題ありませんが、大量に摂取すると毒性があります。根茎、葉、根も同様な毒性があります。摂取する場合のこうした毒性は、成分のポドフィロトキシン*2)によるものですが、一方で、ポドフィルムを身体の部位において局所的に利用すると、この成分は薬として利用可能なものです。この成分ポドフィロトキシンや、また他の成分ポドフィリンは、下剤や細胞増殖抑制剤として利用されます。
- 注 *2)ポドフィロトキシン:
ポドフィルム属植物の根および根茎に含まれる毒性の化学物質。
瀉下薬、発疱薬、抗リウマチ薬、抗ウイルス薬、駆虫薬として利用され、また、ポドフィロトキシンから重要な抗がん剤であるエトポシドが生成される。つまり、抗がん剤の原材料となる物質。
また、ポドフィルムはそのすべての部位において毒性を持ちますが、例えば、緑色の果物は有毒でも、果物が黄色に変わった後に種を取り除くと、毒性はすでになく、安全に食べることができます。
ポドフィルムはまた、このような毒性や薬効のみでなく、その魅力的な葉と花の姿のため、観賞用としても栽培されています。
●ポドフィルムの薬用利用の歴史
ポドフィルムの薬効としては、ネイティブアメリカンたちによって、催吐剤、瀉下剤、抗ヘルペス剤として利用されてきました。また彼らは、毒性のあるポドフィルムの根を煮出した水で、胃の痛みを治療しました。このように、ポドフィルムの根茎は、当初はこの地の原住民であるネイティブアメリカンたちによって、後には入植者たちによって、さまざまな医薬的目的で利用されました。
カスカラ・サグラダ
(英名:cascara buckthorn, cascara, bearberry、学名:Rhamnus purshiana)
カスカラ・サグラダは、アカマツ属の開花植物です。
●カスカラ・サグラダの生息地
北アメリカの西部(ブリティッシュ・コロンビア南部からカリフォルニア中央部まで)から、東はモンタナ州北西部にかけて生息しています。特に、これらの地域のうち、さまざまな種を含む落葉広葉樹林や、湿った低地の森林の中の渓谷の脇などで、見られます。
●カスカラ・サグラダの形態
カスカラ・サグラダは、背丈4.5~10m、幹の直径20~50cmほどで、樹木としては小さめですが、低木というには大きめです。
樹皮は茶色味~銀色がかった灰色で、小さな斑点があります。樹皮の内側は、なめらかで黄色味を帯び、樹齢を重ねたり日光に当たることで、暗い褐色に変化していきます。
葉は長さ5~15cmの楕円形で、表は光沢のある緑色で、葉の縁には小さなのこぎり状の“歯”(=鋸歯(きょし))があります。
花は直径4~5mmと小さく、5つの黄緑色の花弁を持ち、カップのような形をしており、傘のように房になって咲きます。
果実は、直径6~10mmの核果で、鮮やかな赤色から、成熟すると深い紫色や黒色に変化します。果実の中には、果肉と2~3個の硬く滑らかなオリーブグリーンや黒色の種子を含んでいます。
●カスカラ・サグラダの薬用・その他の利用の歴史
カスカラ・サグラダは、北アメリカ北西部・太平洋岸のネイティブアメリカンたちによって、その樹皮が下剤として、何世紀もの間利用されてきました。彼らはまた、この植物を染料としても利用していました。
後に、1600年代になると、この地を探索していたスペインの征服者たちは、ネイティブアメリカンがこの薬草を利用していることを知り、下剤として利用しました。ここで彼らは、この薬草に、スペイン語で「神聖な樹皮」(=カスカラ・サグラダ)という名前をつけます。
彼らは、カスカラ・サグラダの樹皮を乾燥させ、さらに時間を置いた後*3)、自然の下剤として、またアントラキノン*4)を含む薬草として利用しました。
- 注 *3)樹皮は春から初夏にかけて採集されますが、幹から剥がされた後に乾燥しただけの新鮮な樹皮は、嘔吐や激しい下痢を引き起こします。このため、薬用利用には、採集後少なくとも1年間たったものを利用する必要があります。
- 注 *4)アントラキノン(anthraquinone):
結晶性の粉末で、芳香族に属する有機化合物。黄色から薄い灰色、または緑がかった灰色をしており、センナの葉と果実や、アロエ・ヴェラのラテックス、大黄の根などに含まれている。
●カスカラ・サグラダの薬効成分
カスカラ・サグラダに含まれる薬効成分としては、化学物質“ヒドロキシアントラセン配糖体(hydroxyanthracene glycosides)”と“エモジン(emodin)”が、下剤作用に関わっています。ヒドロキシアントラセン配糖体が蠕動(ぜんどう)を誘導し、エモジンが大腸内の平滑筋細胞を刺激して、緩下(かんげ)作用*5)をもたらします。
- 注 *5)緩下(かんげ)作用:穏やかに排便を促す作用。
●カスカラ・サグラダの現在の状況
さらに1877年までは、カスカラ・サグラダは、アメリカ合衆国の製薬会社パーク・デイヴィス(Parke-Davis)によって製剤化され、ヨーロッパへも輸出されています。これを機会に、カスカラ・サグラダは過剰に収穫されるようになり、1900年代には、野生のカスカラ・サグラダの個体数が、大きく被害を与えられることになりました。
カスカラ・サグラダは、その樹皮が商業的に求められるために、現代では野生種が過剰に収穫され、その数が大幅に減少している可能性があります。
こうした中、20世紀後半には米国食品医薬品局 (FDA)が、下剤としてのカスカラ・サグラダの使用を承認しました。しかしその後、21世紀初頭になると、FDAは有効性と安全性の証拠がないとして、この承認を撤回しました。こうしたことから、現在アメリカ合衆国では、カスケラ・サグラダは規制のない栄養補助食品としてで利用可能な状態です。
現在では、この樹皮への需要が高まっており、野生の樹木からの採取が過剰となり、野生種は大幅に減少しているという見方があります。
●カスカラ・サグラダの毒性
カスカラ・サグラダには、上記のように、採取後の新鮮な樹皮に嘔吐や下痢を引き起こす毒性がありますが、薬剤とされたものも、7日以内の短期間利用にする必要があります。また、分娩誘発の可能性もあるため、妊娠中の女性には使用できず、さらに有効成分が幼児に移行するため授乳中の女性も使用は控えるべきです。その他にも、クローン病、過敏性腸症候群、大腸炎、痔、虫垂炎、腎臓障害のある人々は、下剤としてカスカラ・サグラダを使用すべきではありません。
実際、カスカラ・サグラダは何世紀にも渡って、ネイティブアメリカンの人々に利用されてきていますが、アメリカ合衆国内での薬剤としての使用には、複雑な経緯があります。
近年、FDAが1877年に医薬品としてカスカラ・サグラダの使用を認め、1890年には一般的な利用において下剤としての利用が始まりました。さらに、2002年までは、アメリカ合衆国内の薬局で販売されている多くの下剤の主成分でした。
ところが、2002年5月に、米国薬草協会(AHPA)および国際アロエ学会(IASC)によるOTC下剤の使用禁止が申し立てられ、これに対して市民たちは反対し、下剤としての使用を要請しますが、FDAはそれに対し、カスカラ・サグラダの安全性に対して十分な証拠がないとの回答を出しました。
さらにその翌年の2003年にも、FDAは、「カスケラ・サラダを下剤として使用する利点がリスクを上回っているとは認めない」、また「カスケラ・サグラダ製剤が遺伝毒性および/または発癌性を持つ可能性は否定できない」とも回答しており、その毒性や安全性への懸念は、現在も払拭されていません。
一方、こうした安全性への懸念があるものの、カスケラ・サグラダは食品中に含まれていることもあります。その果実は、生のまま、あるいは調理されて食され、カスケラ・サグラダの蜂蜜も食されますが、どちらも穏やかな下剤効果があります。市販の食品では、酒類、清涼飲料水、アイスクリーム、焼いた食品などの香料として利用されています。
ブラッドルート
(英名:Bloodroot、和名:赤根草(アカネグサ)、学名:Sanguinaria canadensis)
ブラッドルートは、ケシ(Papaveraceae)科サンギナリア属のうち、唯一の種であるの多年生草本です。
●ブラッドルートの生息地
北アメリカ東部、カナダ南東部のノバスコシア州や南部から、合衆国のフロリダまでの地域や、五大湖・ミシシッピー川流域に生息しています。
湿地から乾燥地までの森林や植物の生い茂った場所、特に氾濫原や、斜面になった土地にある河川の岸などでよく見られます。反対に、植物の生育していない広い場所や、牧草地、砂地では、ほとんど見られません。また春先には、ブラッドルートは鹿の食糧となります。
ブラッドルートは、根や葉が赤いところから、「ブラッドワート(bloodwort)」、「レッドルート(redroot)」、「レッドパックーン(red puccoon)」の名で、さらに「ポーソン(pauson)」の名でも知られます。
●ブラッドルートの形態
ブラッドルートは20~50cmの背丈で、大きな根元を持つ葉が12cm間隔に5~9つ並んでいます。葉と花は、赤い根茎から発芽し、明るいオレンジ色の樹液が土壌の表面か少し下方に発生します。
花は、8~12枚の繊細な花弁と黄色い雄しべを持っており、花の茎は葉でつかまれています。また、3月~5月にかけて開花します。
種子は、長さ40~60mmほどの緑色の鞘(さや)の中で成長します。熟すると丸くなり、黒からオレンジ・レッドの色になります。
●ブラッドルートの毒性
ブラッドルートには毒性があります。多くのアルカロイドを含む化合物である“ベンジルイソキノリン(benzylisoquinoline)”を生成し、これには、毒性のあるアルカロイド“サンギナリン(sanguinarine)”などが含まれています。このアルカロイドは、根茎に移動し、根茎にとどまります。
サンギナリンには、動物の細胞を殺す作用があるため、皮膚につけられると皮膚細胞を破壊し、皮膚をかさぶた状にします。こうしたことから、もちろん、内服は薦められません。
●ブラッドルートの薬用利用の歴史
このような毒性にも関わらず、ブラッドルートは、ネイティブアメリカンたちによって、嘔吐の治療薬、去痰剤、呼吸を助ける薬として、さらに、風邪や鬱血(うっけつ)症状に対して、お茶や吸引するパウダーとして利用されました。リューマチの治療薬としてや、高熱の際の解熱剤にもなりました。
ウィスコンシン州のオジブワ族は、喉の痛みの際に、メープルシロップを加えてトローチにして利用しました。また、ジフテリアや出血性結核症の際には、ブラッドルートの小片をごく少量、摂取して治療しました。
また、外用としても、多くのネイティブアメリカンの部族に利用されていました。その根茎を沸騰させた湯で熱し、その液体を冷まし、斧で負った際の傷につけ、血液の凝固剤としました。火傷の際にも、皮膚に塗布されていました。ブラッドルートの持つ抗菌性を、彼らは知っていたようです。
これらの薬効を、彼らに接触した入植者たちも知ることになり、ヨーロッパに存在していた疾病に対しても利用されていき、特にその根茎に薬効があると認識されました。
アメリカの外科医、ジェス・ウェルドン・フェル(Jesse Weldon Fell)は、チェロキー族の人々が、癌の治療のためブラッドルートの根茎を利用していることを知りますが、彼はさらに、塩化亜鉛がその作用を増強することを発見します。フェルのこの発見は、1857年にランセットの医学文献で初めて報告されます。
また、この局部へのガン治療法は、現代でも“ブラック・サルブ(Black Salve)”という名で知られ、利用されていますが、使用した局部の皮膚を損傷するために危険だともされています。FDAはこの治療法のための薬剤を、「擬似医療」とし、その使用を避けるように警告しています。
後に、医師のウィリアム・クックが1869年に著した『The Physiomedical Dispensatory(自然療法の薬局方)』で、ブラッドルートについて、チンキ剤や抽出物としての使用や調剤について触れられていますが、同時に、副作用についての注意書きも示されています。
それによると、ニューヨーク市の病院において、誤って大量のブラッドルートのチンキ剤を摂取したことから、4人が亡くなっていることが伝えられています。
また、ブラッドルートの抽出物は、一部のサプリメント会社によって、ガンの治療薬として販売されていますが、FDAは、これらの商品のうちのいくつかを、「187 Fake Cancer ‘Cures’ Consumers Should Avoid(消費者が避けるべき187の偽のガン治療)」のリストに加えています。ブラッドルートを成分に含む製品を経口摂取すると、口腔ガンに発展する可能性のある症状を引き起こす可能性がとても高い、としています。
●ブラッドルートのその他の利用の歴史
他の用途としては、ネイティブアメリカンのアーティストたちは、ブラッドルートを赤色に染める染料として利用しました。いくつかのネイティブアメリカンの部族が持つ文化で、「リバーケーンバスケットリー」と呼ばれる“かご”作りに、この染料は使われました。
染料としては、ネイティブアメリカンの部族のうち、特にアルゴンキン語族、イロコイ族とスー族の人々は、ブラッドルートに胡桃(くるみ)オイルやクマのグリースをや混ぜ、肌に塗布して染めました。これには魔術的な意味もあり、主に異性をひきつけるおまじないとしての力があると信じられていました。
ヴァージニアスカルキャップ
英名:skullcap, blue skullcap, mad dog skullcap, side-flowering skullcap、和名:タツナミソウ、学名:Scutellaria lateriflora)
ヴァージニアスカルキャップは、シソ科タツナミソウ属の硬質多年生ハーブです。
一般名の「スカルキャップ」また、「ブルースカルキャップ」「マッド・ドッグ・スカルキャップ」で、よく知られています。「バージニアスカルキャップ」という呼び名は、原産地のアメリカ合衆国バージニア州に因んだものです。
湿地を好み、湿った草原や沼地などで成長します。
●ヴァージニアスカルキャップの形態
ヴァージニアスカルキャップは、まっすぐに茎を伸ばし、成長すると60~80cmの背丈となります。
花は青く、1cmもない大きさです。花の多くは中心の茎の先には咲かずに、分かれた茎の先の、葉の軸あたりから咲きます。
●ヴァージニアスカルキャップの薬用利用の歴史
ヴァージニアスカルキャップは、ネイティブアメリカンたちによって、狂犬病の治療薬として利用されていました。後にアメリカへの入植者たちによって、その効果がヨーロッパに紹介され、「狂犬病のハーブ」と呼ばれるようになります。
ヴァージニアスカルキャップの薬効としては、神経系の強壮・鎮静作用が主なものです。ストレスや不安、緊張、うつ、パニック、不眠症などの症状や、さらに神経衰弱、神経過敏などの神経疾患を緩和します。
このような症状や疾病が特になくても、ストレスの多い現代社会では、日ごろからのストレス解消に飲用すると、健康維持のためにも良いでしょう。
さらにこのような精神面だけでなく、肉体面においても、筋肉の緊張を和らげる作用があります。女性では、生理痛にも有効とされています。
こうしたヴァージニアスカルキャップの効果は、成分のフラボノイドによるものが大きく、その抽出物は、穏やかな鎮静剤や睡眠薬として利用されます。
また、伝統的に、ヴァージニアスカルキャップの葉に含まれる成分のバイカリンには、不安解消効果があるとされており、抗不安薬として利用されます。天然の鎮痛薬としても、重要なハーブです。
●ヴァージニアスカルキャップの毒性
一方で、ヴァージニアスカルキャップには、潜在的に肝臓への毒性のあるジテルペンが含まれています。ジテルペンには、ヒトのガン細胞への傷害性がありますが、ヒトに対する有効性はいまだ確認されていません。
その他の重要なハーブ
以下のハーブも、北アメリカの長い歴史の中で、重要な役割を果たしてきたものです。
ソリチャ
(和名:鼠李茶、英名:New Jersey tea、Jersey tea ceanothus、学名:Ceanothus americanus)
ソリチャは、クロウメモドキ科ソリチャ属(Ceanothus)の常緑落葉小低木です。
●ソリチャの生息地
ソリチャ属の原産地は北アメリカ~中央アメリカの地域で、中でもソリチャは、カナダのケベック州からアメリカ合衆国のフロリダ州、さらに西のテキサス州、北のミネソタ州にかけて広く分布しています。また北アメリカ以外にも、メキシコ、中央アメリカ(コスタリカ、グアテマラ、パママ)に分布しています。
ソリチャ属の種は約50種あり、自然交雑種により多くの種が栽培されたり、またハイブリッドの園芸品種も現代では多く作られています。
野生のソリチャは、乾燥した平野や草原、砂や岩の多い土壌の開拓されていない地域によく見られます。しばしば、森林の中の開けた場所や、土壌の盛り上がった場所、湖畔や、穏やかな斜面に生息しています。
●ソリチャの形態
成長すると背丈45~100cmほどになり、細い枝を多くつけ、卵型で互生または対生した葉には、平滑のものに加え、細かい鋸歯があるものや、またわずかに繊毛を持つものもあります。
●ソリチャのさまざまな利用
ソリチャは英名で「ニュージャージーティー(New Jersey tea)」と呼ばれますが、この名は1800年代後半のアメリカ独立戦争の時代に呼ばれるようになった名で、当時、ソリチャの葉はそれまで輸入されていた紅茶の代用として飲用されました。
ソリチャは、動物たちの食糧でもあります。ミズーリ州のオザークでは、ソリチャの小枝は、冬の間の鹿の食糧です。また特に白尾シカ(Odocoileus virginianus)は、1年中ソリチャの葉を食糧としています。
またソリチャの花は、ルリシジミ属の蝶の食糧です。
さらにソリチャの種は、野生の七面鳥(シチメンチョウ)とウズラの食糧になります。
ソリチャの薬効は、北アメリカのネイティブアメリカンたちによって、知られていました。
ネイティブアメリカンたちは、ソリチャの赤い根と根の皮を上気道の感染症に対して利用しており、また、皮膚癌の治療薬としても利用していました。
その後、ソリチャの葉はお茶の代用品として、ヨーロッパからの入植者たちに利用されましたが、これはカフェインフリーのお茶となります。
また、根と花の抽出物は、染料としても利用されます。
●ソリチャの薬用利用
根の皮は現代のハーバリストによっても利用され、主にリンパ系の症状に対する薬となります。ソリチャの根には収れん性のタンニンに加え、多くのペプチドアルカロイドが含まれており、穏やかな降圧効果があります。
アメリカヒトツバタゴ
(英名:White fringetree、学名:Chionanthus virginicus)
アメリカヒトツバタゴは、モクセイ科ヒトツバタゴ属の落葉樹です。
●アメリカヒトツバタゴの生息地
ヒトツバタゴ属は、世界中に約80種が存在しますが、その多くは、熱帯、亜熱帯の地域に分布します。アメリカヒトツバタゴと東アジアに生息する種の2種が、温帯域に分布するヒトツバタゴ属です。
ヒトツバタゴは、和名で“一つ葉田子”と記しますが、同じモクセイ科のトネリコ(別名「タゴ」)に似ていることから、複葉のトネリコに対し、小葉を持たない単葉のこの種が「一つ葉タゴ」と呼ばれます。
また学名の“Chionanthos”は、「Chion」が雪、「anthos」が花を意味しますが、雪のように白い花をつけることをよく表しています。
アメリカヒトツバタゴは、北アメリカ東南部の原産で、アメリカ合衆国東南部のサバンナや低地に生息します。特に、ニュージャージー州の南部からフロリダ、合衆国の西部からオクラホマ州、テキサス州にかけての地域に多く見られます。
●アメリカヒトツバタゴの形態
アメリカヒトツバタゴは、成長すると背丈は10m程度になる小高木です。
樹皮はうろこ状の形状で、赤味を帯びた茶色で、成長すると縦に裂けます。芽は綿毛で覆われ淡い緑色で、後に明るい茶色からオレンジ色になります。
葉は、7.5~20cmの長さで、秋には黄色に変わります。花は豊かな香りを放ち、純粋な白い4葉の花冠を持ちます。
果実は、1.5~2cmの長さの卵型で、濃い青~紫色をし、ひとつの種子(まれに2~3つの種子)を内包し、夏の終わりから秋の半ばにかけて成熟します。
●アメリカヒトツバタゴの薬用利用の歴史
アメリカヒトツバタゴは、北アメリカのネイティブアメリカンたちによって、伝統的に利用されてきました。彼らは、アメリカヒトツバタゴの根や樹皮を乾燥させ、皮膚の炎症の治療に用いました。樹皮を砕いたものは、傷の治療にも使われました。
さらに、ネイティブアメリカンとともにヨーロッパからの入植者たちも、目の炎症や口内炎の治療のために利用しました。
●アメリカヒトツバタゴの薬効
また、アメリカヒトツバタゴには、防腐剤としての作用があり、さらに食欲不振時に食欲を増す成分もあるとされます。また、便秘も改善するなど、たくさんの効果があります。
その他にも、現在、薬草療法として、肝臓や胆嚢障害の治療薬として最も信頼できるもののひとつと考えられています。
乾燥した根皮には、代謝、覚醒、利尿、強壮などの作用があり、胆嚢痛、胆石、黄疸、慢性的な衰弱の治療に使用されています。
また樹皮の抽出液は、肝臓肥大、黄疸、頭痛、胆石、リウマチなどの治療で、内服薬として利用されていました。
さらに根皮は、膵臓と脾臓の機能を強化し、尿中の糖レベルを下げることが証明されています。
その他にも、アメリカヒトツバタゴは、食欲増加、消化促進の作用があり、特に肝臓の慢性疾患に対する優れた治療薬です。
外用としては、傷や炎症、びらん、感染症などの症状で、皮膚の洗浄のために利用されます。
根は常に収穫できるため季節を問わず利用され、樹皮は剥離後に乾燥・保存して利用されます。
多くの効果を持ち、健康増進に役立つアメリカヒトツバタゴですが、妊娠中の摂取は避けるようにとされています。
カリフォルニアポピー
(和名:ハナビシソウ(花菱草)、英名:California poppy、学名:Eschscholzia californica)
カリフォルニアポピーは、ケシ科ハナビシソウ属の耐寒性の一年草です。
●カリフォルニアポピーの生息地
北アメリカ原産で、カリフォルニアポピーという英名の通り、アメリカ合衆国カリフォルニア州の州花でもあります。
カリフォルニアポピーが属するハナビシソウ属には、8~10種が存在しますが、そのいずれもアメリカ合衆国西部に分布しています。
●カリフォルニアポピーの形態
カリフォルニアポピーは、背丈20~60cmほどで、茎は根元からよく伸び株立ちになります。
葉は手のひら状に3つに分裂しますが、中には八重咲きのものも存在します。
花は4月から6月にかけて咲き、直系7~10cmほどの4弁の花が開きます。野生の花の色は鮮やかなオレンジ色ですが、園芸用に品種改良され赤やピンク、白などの色が混ざったものもあります。
●カリフォルニアポピーの薬用利用の歴史
ネイティブアメリカンたちは、カリフォルニアポピーの実を薬用として利用し、鎮痙、鎮静、鎮痛などの効果を得ていました。
後にヨーロッパからの入植者たちは、カリフォルニアポピーの鎮静効果を知り、歯の痛みの緩和のために利用しました。その後、ヨーロッパへ伝えられた際には、薬用としてではなく、観賞用の花として紹介されました。現代でもカリフォルニアポピーは、庭植えとして人気の高い植物です。
●カリフォルニアポピーの薬効
カリフォルニアポピーの薬効としては、特に、不安や緊張の緩和、リラックス効果が知られています。
カリフォルニアポピーには中毒性がない上に、同じケシ科の植物で麻酔の原料となる「ケシ」の花と似た効果があることが人気となり、現代でも鎮静や抗不安剤として、利用されています。子供にも利用できる安全性が人気です。
カリフォルニアポピーには、その他にも、以下のような効能が知られています。
カリフォルニアポピーのこれらの効果は、その成分である、プロトピン、クリプトピン、ケリドニンなどのアルカロイド類やフラボン配糖体によるものです。
緊張を和らげることで改善されるストレス性の症状、例えば、過敏性腸症候群や緊張性頭痛、喘息、子供のおねしょなどの改善にも優れています。神経系を落ち着かせるため、心臓や循環器系にも良い影響を与えるとされ、動悸の軽減や血圧低下にも役立っています。
その他にも、片頭痛、歯痛、神経痛、腰痛、関節痛や帯状疱疹の痛みなども緩和します。さらに、殺菌効果もあり、切り傷や擦り傷に対して、痛みの軽減とともに殺菌のためにも利用されます。
ウィッチヘーゼル
(英名:common witch-hazel, American witch-hazel、和名:アメリカマンサク、学名:Hamamelis virginiana)
ウィッチヘーゼルは、ハマムリ科ハマムリス属の小さな落葉広葉樹です。
●ウィッチヘーゼルの生息地
北アメリカの東北部が原産地で、ノバスコシア西部からミネソタ州まで、また北アメリカ南部からフロリダ州の東部、テキサス州までの地域に生息しています。特に、北アメリカ東北部地域のうち、東部の森林や森林の境界エリア、河川流域、湿地や岩場の斜面などに見られます。
また、ウィッチヘーゼルは、ミズーリ州で毎年開花する最後の天然種の開花植物です。
●ウィッチヘーゼルの形態
ウィッチヘーゼルは、成長すると背丈6m(稀に10m)ほどの高さになる低木で、しばしばその基底部から茎は高密度で群生して生長します。
樹皮は薄い茶色で、滑らかで、うろこ状の形状をし、内側の樹皮は赤紫色です。
葉は楕円形で、長さ3.7~16.7cm、幅2.5~13cmの大きさで、斜めに尖った形状をしています。また、鋭い芽を持ちます。
花は淡色~淡黄色、まれにオレンジ色~赤色をしています。長さ10~20mmで、短茎4本のリボン型の花弁が4つつき、複数の花がまとまって咲きます。
果実は、小さくて黒い種子を爆発的に放出し、時には幹から10m離れた場所にまで、種を飛び散らせます。
●ウィッチヘーゼルの薬用・その他の利用の歴史
ウィッチヘーゼルの葉、樹皮、小枝の抽出物からは、香りの良い軟膏が作られ、切り傷や火傷、皮膚のカミソリ負けに利用されます。
また、この樹木の枝は、地下の水源を探索する“ダウジング”*1)に好んで利用されました。
- 注 *1)ダウジング(Dowsing):
地下水や貴金属の鉱脈など地下にあると想定されるものを、棒や振り子などの装置の動きによって発見するとされる手法。利用され用具には、ペンデュラム(振り子)、ロッド(L字形やY字形の棒)などがある。
ウィッチヘーゼルの薬効は、ネイティブアメリカンたちによって知られていました。彼らはウィッチヘーゼルの枝肉の茎を沸騰させ、その抽出物から煎じ薬を作りました。この薬は、腫れ、炎症、腫瘍などの治療に利用されました。
その後、ニューイングランドに早期に入植した清教徒たちは、ネイティブアメリカンからウィッチヘーゼルの薬効を学び利用し始め、その後、アメリカ合衆国で広く知られることになります。
ウィッチヘーゼルの抽出物は、その収れん性が利用されました。現在、目薬や、肌の調子を整える化粧水、肌を回復させるクリームなどへ、利用されています。
抽出物は、ハマメリタンニンと呼ばれる特定の種類のタンニンを産生します。これらの物質のうちには、結腸癌細胞を特異的に攻撃する作用を持つものを含みます。
ウィッチヘーゼルの樹皮と葉は、ネイティブアメリカンによって、体の外部の炎症の治療薬として利用されました。また、その薬用利用においては、希薄アルコールに樹皮をつけて抽出する方法が、一般的でした。
●ウィッチヘーゼルの薬効
ウィッチヘーゼルの最も重要な薬効成分のタンニンは、その葉の約8%と樹皮の1~3%を構成しています。
このタンニンは収れん作用を持つことから、ウィッチヘーゼルは、挫傷、筋肉痛、静脈瘤、炎症に対して局所的に効果を発揮する治療薬でした。
ラブラドルティ
(別名:グリーンランドモス、英名:Labrador tea または Common Labrador Tea、学名:Rhododendron groenlandicum または、Ledum groenlandicum、Ledum latifolium)
ラブラドルティは、ツツジ科イソツツジ属の多年生常緑低木で、北アメリカ北部に生息する代表的な潅木です。
●ラブラドルティの生息地
ラブラドルティは、アメリカ合衆国の北部から、カナダ、北極圏の湿地帯や、岩の多い高山の斜面に生息します。コケ類と同居していることが多いため、別名でグリーンランドモスとも呼ばれます。また、ブラックスプルース(英名:Black Spruce、学名:Picea mariana)の近くでよく見られます。
●ラブラドルティの形態
ラブラドルティは、成長すると背丈は最大で1.5mほどになります。花は、6月の始めに開花し、春から夏にかけて白い花が見られます。
ラブラドルティの葉は、茎の上の方の葉ほどに濃い緑色で艶があり、下のほうの葉は毛が生えたような状態です。上方では日光を浴び、下方では生息地の寒さから守る形状となっているのです。
●ラブラドルティの薬用利用の歴史
ラブラドルティは、北アメリカのネイティブアメリカンのいくつかの部族によって、さまざまな不調に対して薬理的に利用されてきました。
また、ネイティブアメリカンのクーリ―族は、発熱や風邪の際に、ラブラドルティを薬用利用していました。
●ラブラドルティの現代の薬用利用
現代では、さまざまな皮膚疾患に対して、外用で利用されます。火傷、潰瘍(かいよう)、痒み、肌荒れ、痛みに対して、また、ふけなどの洗浄剤として、外用で利用されます。
葉や根を粉状にして作られた軟膏は、潰瘍(かいよう)、ひび割れ、火傷、頭皮の治療などに利用されてきました。
●ラブラドルティの薬効
上記の他にも、ラブラドルティの薬効として、以下のように非常に多くの作用が知られています。
などの作用です。また、腎臓の問題や、前立腺の感染、肝臓や甲状腺の不調、皮膚のトラブルに利用されています。
また、お茶にして飲用することで、頭痛、喘息、風邪、胃痛、腎臓病などに対して効果を奏します。
さらに、ラブラドルティには穏やかな催眠性があり、インドでは出産前の女性が短期間、1日3回服用していました。
また、こうした身体面への効果に加えて、心と精神面への効果も認められています。不安や神経質な状態、ネガティブな感情を緩和する働きは、精油として利用されています。
●ラブラドルティのその他の利用とその歴史
また、ラブラドルティの名前が表す通り、お茶や飲料としても利用されてきました。アメリカ独立戦争の際に、お茶の代用とされたのです。お茶として利用されるのは、白い花と葉の部分です。
ラブラドルティを煮出してハーブティーとすると、穏やかな睡眠効果あり、不眠症や神経系のトラブルにも良いとされます。
その他にも、ラブラドルティは、染料や殺虫剤、寄生虫駆除剤や忌避剤としても利用されていました。これらは、ラブラドルティに含まれるタンニンによる効果です。
さらに、ラブラドルティの花と葉は、精油(エッセンシャルオイル)としても利用され、水蒸気蒸留法で抽出されます。苦くツンとした香りがありますが、妊娠や幼児、てんかん症の方は避けるようにとされています。精油としてはとても高価なオイルです。
ワイルドセンナ(メリーランドセンナ)
(英名:Wild senna、和名:ツリハブソウ、学名:Senna marilandica、同義で:Cassia marilandica)
ワイルドセンナは、マメ科センナ属の多年性開花植物です。「野生のセンナ」という意味の英名の通り、センナの野生種です。
別名「メリーランドセンナ(Maryland Senna)」「メリーランドワイルドセンナ(Maryland Wild Senna)」「アメリカンセンナ(American senna)」とも呼ばれるます。
また、一般名の「サザンワイルドセンナ(Southern Wild Senna)」でも知られますが、それは、近種で外観も非常に似ているセンナ・ヘベカルパ(Senna hebecarpa)ほどには、北方へ生息地を広げていないためです。
●ワイルドセンナの生息地
ワイルドセンナは、アメリカ合衆国イリノイ州全体に分布していますが、それほど一般的に多く見られる植物ではありません。
それはまた、野生のセンナの全体数が減少していっていることも原因のひとつでしょう。
ワイルドセンナが生息しているのは、湿っぽい草原や、森林地帯、茂み、サバンナ、河岸、石灰岩でできた低湿地などです。時には、庭先で栽培されることもありますが、野生種は、他の樹木や潅木との生存競争の中で、その脅威をなんとか乗り越え、生育しています。
●ワイルドセンナの形態
ワイルドセンナ(=メリーランドセンナ)は、マメ科で別種のセンナ・ヘベカルパ(Senna hebecarpa)と外観が非常に似ていて、よく混同されます。
メリーランドセンナの花は、短く密集した毛状の形で、センナ・ヘベカルパの花は、長く広がる毛状の形をしています。また環境にもよりますが、メリーランドセンナは、センナ・ヘベカルパよりも花の数が少ないのが通常です。
センナ・ヘベカルパは、背丈は3~6インチ程度まで成長し、枝分かれはしないか、少なめに分かれます。中央の茎は緑色で強く、とがって、鋭く角ばっています。
茎の全体につく葉は、複葉(葉身が複数ついたもの)で羽状で、6~12対が塊になって生えています。
また、葉は粉砕されると、不快な匂いを発します。
●ワイルドセンナの薬用利用の歴史
ワイルドセンナは、その葉が薬草として利用されてきました。
例えば、ネイティブアメリカンたちは、野生のセンナを軟下剤として利用しています。
ワイルドサルサパリラ
(英名:cat greenbriar, catbriar、学名:Smilax glauca)

ワイルドサルサパリラ / 書籍『 Forest Plants of the Southeast and Their Wildlife Uses』(J.H. Miller and K.V. Miller 著, The University of Georgia Press 刊)より
ワイルドサルサパリラは、サルトリイバラ科(Smilacaceae)シオデ属の多年生低木です。シオデ属は、サルトリイバラ属と呼ばれることもあります。
一般名として「ホワイトリーフ・グリーンブライアー(whiteleaf greenbriar)」、「ホワイト・サルサパリラ(wild sarsaparilla)」、「キャット・グリーンブライヤー(cat greenbriar)」などとも呼ばれます。英名のブライヤー(briar)は、「イバラ」という意味です。
●ワイルドサルサパリラの生息地
ワイルド・サラサパリラは、アメリカ合衆国中部と東部が原産地で、この地域の森林の一般的な植生としてよく目にする植物です。
一般的に森林地帯やその境界域に生息し、シオデ属(Smilax)の植物とともに生育しています。また、多様な高台の地や、湿地などでも生息しています。
また、ワイルドサルサパリラは、アメリカ合衆国南部の地域では、常緑となる傾向があります。
●ワイルドサルサパリラの形態
ワイルドサルサパリラの茎には棘(とげ)があり、蔓(つる)を使って伸びていきます。
葉は、灰色がかった白味を帯びた色で、下方では白っぽくなっています。
また、花は、4~5月に咲きます。
同じく英名で「ワイルド・ルサパリラ」と呼ばれる植物には、タラノキ属の「アラリア・ヌディカリス(Aralia nudicaulis)」もあり、混同しやすい呼び名です。
アラリア・ヌディカリスは、他にも「false sarsaparilla , shot bush , small spikenard , wild liquorice , rabbit root」などの呼び名を持ち、「偽のサルサパリラ(false sarsaparilla)」という呼び名からも、もともとはこの植物が先に「ワイルドサルサパリラ」と呼ばれたのではなさそうだということがうかがえます。
●ワイルドサルサパリラの利用
ワイルドサルサパリラは、清涼飲料水に使われる強壮剤や、芳香剤としても利用されています。
スリッパリーエルム
(英名:slippery elm、和名:北米ニレ、学名:Ulmus rubra)
スリッパリーエルムは、ニレ科(Ulmaceae)ニレ属(Ulmus)の中型落葉樹で、ニレの一種です。
他に一般名として「レッドエルム(red elm)」「グレイエルム(gray elm)」「ソフトエルム(soft elm)」「インディアンエルム(Indian elm)」などの名でも知られます。
スリッパリーエルムは当初、1753年に、アメリカニレ(Ulmus americana)の一種として命名されましたが、後に1793年には、独立した種「Ulmus rubra」とされました。
その少し後の1803年には、フランスの植物学者アンドレ・ミショー(Andre Michaux)がこの植物に「Ulmus fulva」という名をつけましたが、この名は現在でも、サプリメントや代替療法の薬剤商品に付されています。
●スリッパリーエルムの生息地
北アメリカ東部の原産で、アメリカ合衆国ノースダコタ州南西部から、東はメイン州とカナダのケベック州南部まで、南はフロリダ州北部まで、西はテキサス州東部まで分布しています。これらの地域で、スリッパリーエルムは、高台の湿地でよく育っています。また、乾燥した土地でも育つことは可能です。
●スリッパリーエルムの形態
スリッパリーエルムは、外見的にはアメリカンエルム(Ulmus americana)に似ていますが、ヨーロピアンウィッチエルム(Ulmus glabra)により近い関係にあります。
また、ヨーロピアンウィッチエルムは、スリッパリーエルムと非常によく似た構造の花を咲かせます。
スリッパリーエルムは、1830年にヨーロッパに紹介されています。
スリッパリーエルムは、枝の先端が広がって成長し、一般的には12~19m、時には30mの背丈まで成長します。
カナダ・ケベック州のウエストマウント市では、2011年に、幹の周囲4,27mのスリッパリーエルムの木が発見されました。
アメリカ合衆国インディアナ州では、2011年、合衆国でもっとも大きなスリッパーエルムとなる個体が、高さ38mであることが計測されました。
幹の内部は赤茶色のため、「レッドエルム」の名がつけられています。
アメリカンエルムとの区別は、綿毛で覆われた小枝や、チェストナットのような茶色や赤い毛状のつぼみ、細くて赤い樹皮内部などで、見分けられます。
広い楕円形~卵型の長い葉は、長さ10~20cmで、表は荒く、裏はビロードのように柔らかく、縁はザラザラして二重ののこぎり歯状で、先端がとがり基底部が卵型であることが特徴です。
葉が生えているときには、しばしば、赤みを帯びていることがあり、夏には深い緑色になり、冬には鈍い黄色に変色します。
花は、花弁がなく、早春に葉が生える前に受粉し、通常きつく短い茎から10~20の房になって発生します。
果実は赤褐色の翼果(よくか:果皮の一部が平らな翼状に発達した果実)で、円形から卵型の形をし、上部がわずかにギザギザの形状になっています。葉の長さは12~18mmで、単葉です。
中央の種子は赤茶色の毛で覆われています。
●スリッパリーエルムの薬用・その他の利用
スリッパリーエルムの薬用利用としては、さまざま用途で伝統的に利用されてきました。例えば、樹木の内側の樹皮は、鎮痛剤として長く利用されてきました。現代でも、FDA(米国食品医薬品局)は、スリッパリーエルムを鎮痛剤として一般的に販売することを認可しています。
スリッパリーエルムの内樹皮にはまた、潰瘍などの消化器系疾患の症状を緩和する働きもあります。また、抗酸化作用があるとも考えられています。
その他にも、スリッパリーエルムは、その葉を乾燥した後パウダーにして、お茶として利用されます。