目次
中部・南アメリカの植物の特性
熱帯雨林から亜寒帯までが存在する中部~南アメリカ大陸は、さまざまな植生が混在し、それにより非常に多くの種類の植物が生息しています。特に熱帯雨林では、世界でも有数の豊富な植生が見られます。
例えば、ブラジルに生息する種子植物は約55,000種ですが、これに比べ、アメリカ合衆国(ハワイを除く)では、約20,000種になります。またイギリスでは1450種以下だという数を見れば、中南アメリカの植物の豊富さが理解できます。
また、この地域の植物には、現代の難病も癒す新薬開発のために研究されている植物もあり、医学的な期待もあります。さらに、まだ発見されていない未知の植物も無数にあるため、これらの種の保護が必要とされる地域でもあります。
中部・南アメリカの森林破壊とその保護
また一方で、観光地化の波により、遺跡の周囲では自然破壊も起こっています。中部・南アメリカの各国は遺跡の周辺を国立公園として保護するものの、その周囲では農業化が進み、自然環境が開拓されている状況です。
さらに熱帯雨林の減少という問題も抱えています。熱帯雨林は、世界の各地に酸素を供給する重要な森林地帯でもあることから、熱帯雨林の減少は、世界規模での問題となっています。
こうした中、自然保護のため、1990年に「マヤ生態圏保護区(Maya Biosphere Reserve)」が設立されました。さらに、この保護区に隣接するメキシコとベリーズの協力により、「エコ・ツーリズム」(=環境に配慮した観光)が提唱され、熱帯雨林の保護への取り組みがなされています。観光による収入を熱帯雨林の保護や、新たな国立公園の設立などに利用される仕組みになっています。また例えば、ドミニカ共和国でも、エコ・ツーリズムによる観光事業が国の財政面にとっても有益であることから、エコ・ツーリズムを利用しています。
特異的な中南アメリカの植物
中部・南アメリカには、その気候や地理的な特徴から、他の地域ではあまり見られないような、特異的な植物が存在します。風変わりな成長・生育をする植物や、特別に聖なる樹木とされている植物も存在します。そのいくつかをご紹介します。
シメコロシイチジク
(英名:Florida Strangler Fig、学名:Ficus aurea)
シメコロシイチジクとは、「絞め殺しの木」(英語で「Strangler Fig」)と俗称で呼ばれる植物の仲間です。熱帯に分布するイチジク属や一部のつる植物が含まれ、「絞め殺し植物」「絞め殺しのイチジク」とも呼ばれます。
北アメリカのフロリダ州北部と、カリブ海 、南部メキシコから中央アメリカ南部、パナマへかけての地域に分布しています。
他の植物や岩などの基質に巻きついて絞め殺すように、あるいは実際に殺して成長するために、この名前で呼ばれます。
シメコロシイチジクは、種が地面から発芽して成長する植物ではなく、鳥や猿などによってその種が落とされます。この木の実を食べた鳥や猿などの糞が樹木の上で落とされると、樹木の幹の割れ目や枝から発芽し、つるを植物の幹の下方に向けて伸ばして成長し、地面に根を届かせます。根をはるとさらに成長し、宿主の樹木よりも高く成長し、日光を得ることになります。
この成長の際、シメコロシイチジクはつるを伸ばした植物や岩に巻きついて、絞め殺すように成長し、実際にその植物は、この植物の成長の過程で、死んでしまいます。こうした様子から、この植物の名前に「絞め殺し」という表現がされています。
シメコロシイチジクはこのように、宿主となった樹木の命は奪っていきますが、熱帯雨林の中では、大きな役割を担っています。地面まで日光の届きにくい熱帯雨林の中で、シメコロシイチジクが宿主の巨木を絞め殺し、枯れさせて倒すと、そこに日光が届きやすくなります。日光が届くようになった場所には、他の植物の種が生育できるようになります。またシメコロシイチジクの幹は、多くの小動物の棲家(すみか)となり、さらにその実のイチジクは彼らの豊富な食糧となります。こうした小動物は、より大きな動物の捕食となり、熱帯雨林の生態系が保たれています。
シメコロシイチジクは、多種多様な種が生存する熱帯雨林の中で、まさに重要な役割を担う植物だといえるでしょう。
エアープランツ(ハナアナナス属)
(英名:Airplants、学名:Tillandsia)
エアープランツは着生植物の一種で、パイナップル科の常緑多年生植物です。
中部・南アメリカとアメリカ合衆国の南部、さらには西インド諸島の、森林や山間部、砂漠に分布しています。
その特長は、土に根を張ることなく樹木や岩石に着生し、雨や空気中の水分を葉から吸収して生存しています。土に根ざしていないことから、「エアープランツ」(Airplants)の名で呼ばれています。
エアープランツは、他の植物の表面に付着して生きる植物です。とはいえ、取り付いた先の植物から栄養を搾取する“寄生植物”ではなく、成長のための場所を他の植物から借りて生息するのみで、自らの生育は、他の植物と同様、水分や光合成によって行っています。
エアープランツには、プロメリア類、ラン類などたくさんの種類があります。熱帯雨林では、たくさんの着生植物が付着している樹木が、多く見られます。それはまるで、それらの植物が、着生植物を「着飾っている」ようにも見えます。
セイバの木(カポック)
(学名:Ceiba pentandra)
カポックと呼ばれるセイバの木は、アオイ科セイバ属の落葉高木です。「パンヤ (panha)」「パンヤノキ」と呼ばれることもあります。
原産地は、アメリカ大陸・アフリカ大陸とされます。
セイバの木は、乾季には葉を落とす巨木です。古代マヤ文明の人々によって、「世界の中心にある聖なる木」と考えられていました。
マヤの人々は、人は死ぬと、その魂は伝説上の樹木“カポック”を登って天国へ達すると信じていました。そのため、時代が下って、熱帯雨林の樹木が伐採され農場が作られるようになっても、セイバの木だけは残されているのです。
セイバは5~10年に1度ほど花を咲かせます。また、1本の木には200個もの種が入った実を500~4000個もつけます。この種は繊維に覆われていますが、この繊維は「キワタ」と呼ばれ、化繊の綿が現れるまで、繊維の“綿(わた)”として使用されてきました。
名称の「カポック」や「パンヤ」は、本来、繊維を意味しています。この樹木の繊維は燃えやすい一方で、撥水(はっすい)性に優れているという特性があり、そのため、枕などの詰め物やソフトボールの芯、また、第二次大戦頃までは救命胴衣や救難用の浮き輪にも利用されてきました。
上記のような、中部・南アメリカの風土に特有な植物の他にも、広大な熱帯雨林を抱える中部・南アメリカ大陸には、非常に多くの種類の植物が見られます。特に、熱帯雨林の気候と環境に適応し、伝統的にもメディカルハーブとして利用されてきた植物を、以下にご紹介します。
中部・南アメリカ大陸の熱帯雨林の植物(14選)
中部アメリカの熱帯雨林では、非常にたくさんの種類の植物が見られます。それらのうちから、重要な14種の植物をご紹介します。
パウダルコ
(英名:英名:Ipe, Pau d’arco、学名:Handroanthus impetiginosus)
パウダルコは、ノウゼンカズラ科の樹木で、ブラジルの国花でもあります。
●パウダルコの生息地
パウダルコの原産地は中南米で、メキシコからコスタリカ、ブラジル、アルゼンチンにかけて分布しています。牧草地から熱帯雨林まで、様々な環境で見られます。
●パウダルコの形態
パウダルコは、成長すると背丈8mほどになり、中には最大20mにもなる高木も存在します。
葉は冬季には落葉し、落葉する冬季が花の咲く時期となります。花はそれぞれ12~14cm程の小枝の先に、長さ5cm程の細い鐘(かね)状の花を咲かせます。花の色は紫ですが、咲き始めの時期はより淡い色で、薄紫~桃色をしています。
また、果実は長さ30~35cmにもなる大きなもので、垂れ下がって実ります。
●パウダルコの利用
パウダルコはブラジルの国花というだけあって、南アメリカではとてもポピュラーな樹木です。特にブラジルでは、彫刻や建設用の材料として利用されるため、その個体数が減少しています。木材としては、高い耐腐食性が特長で、そのため、フローリングや船舶の甲板材などに主に利用されます。
日本でも、パウダルコは沖縄県において街路樹として植栽されています。これは、日本から南米への移民たちが、故郷の沖縄に戻る際に、この種を持ち込んだことが起源とされています。
●パウダルコの薬用利用の歴史
パウダルコは、中央アメリカと南アメリカの先住民(=インディオ)*1)たちによって、古くはインカ帝国の時代から、薬草として利用されてきました。
- 注*1)インディオ:
中央・南アメリカに住む先住民族の総称のひとつ。先史時代に陸橋となっていたベーリング海峡を渡り、ユーラシア大陸からアメリカ大陸に渡ったアジア系人種(モンゴロイド)の末裔と考えられている。
インディオたちは、主に、発熱や感染症、胃の不快症状などに対して、パウダルコの樹皮を乾燥させたものを利用していました。
この、パウダルコの内部樹皮(樹皮と木質部の間の7mほどの部分)を乾燥させたものは、「ラパチョ」とも呼ばれます。
ラパチョには、免疫機能を高める効果、関節炎や痛みを和らげる効果があるとされ、先住民たちによって利用されてきました。
また、南アメリカの民間療法でも、昔から、マラリア、貧血、大腸炎、呼吸器障害、風邪、咳、真菌感染症、熱、喘息、リウマチ、梅毒、消化器機能不全、ガン、糖尿病、前立腺炎、など様々な疾病に対する薬とされてきました。さらに、パウダルコには、強壮、抗炎症、抗細菌、抗真菌(カンジタ症など)、緩下などの作用があると、民間療法で考えられてきました。
●パウダルコの現在の状況
現在、医学的には、民間療法における上記のようなパウダルコの効果は証明されていません。
逆に、過剰摂取すると、激しい吐き気、嘔吐、めまい、下痢、貧血、出血傾向などの副作用も報告されているため、摂取には注意が必要です。特に、妊婦や授乳中の女性は避けるほうが良いでしょう。
パウダルコ(=ラパチョ)の薬効について、アメリカ癌協会(American Cancer Society)は疑問を示すものの、一方で、パウダルコの抗がん作用は、南アメリカの研究者によって証明されたという事実もあります。
その証明は、タヒボ研究の権威として広く知られる、サンパウロ大学名誉教授ウォルター・ラダメス・アコーシ博士(1912年~2006年)の研究によるものです。
アコーシ博士は、他のブラジルの化学者や医師とともに、パウダルコの内皮に含まれる植物色素“キノン”が、がんや白血病に対する優れた効果があることを証明しました。さらに、アマゾン川流域の特定地域に生育するパウダルコが、他の地域のパウダルコに比べて特に有効性が高いことも発見しています。
こうした証明に基づき処方されたパウダルコは、多くのブラジル人やアメリカ人のがん患者を救った、という記録もあるようです。
また、1960年代からは、欧米でもパウダルコの薬効の研究がなされてきていました。
さらに、1970年代には、ドイツの著名な研究者ワグナー博士によって、パウダルコの数種から、多くの新たな化合物が発見されています。
このように、パウダルコはまだまだ未知の部分もありますが、積極的にその薬効が研究されているメディカルハーブです。
キャッツクロー
(英名:Cat’s Claw、学名:Uncaria tomentosa)
キャッツクローは、はアカネ科カギカズラ属の蔓(つる)性の潅木です。
シピボ族の呼び名で、また、スペイン語で「ウンニャ・デ・ガト(Una de gato)」と呼ばれます。
メキシコからカリブ海沿岸、中央アメリカに分布している「マルティニア・アヌア(Martynia annua)」という種も「キャッツクロー」と呼ばれますが、これは上記のキャッツクローとは別の種になります。
●キャッツクローの生息地
キャッツクローは、南アメリカ大陸のペルーが原産地で、ペルーの標高400~800m、アマゾンの奥地に自生しています。キャッツクローは、アマゾン川流域の一部だけに自生することが確認されています。
●キャッツクローの生態
キャッツクローは、葉の付け根に、猫の爪(=キャッツクロー)のような特徴的な太い棘(とげ)があることから、その名前で呼ばれています。
キャッツクローは、自生している場所においても、1ヘクタール中に数本しか生育しません。こうした貴重な植物であることから、ペルーの先住民たちはキャッツクローを「幻の樹木」と呼び、重要視してきました。
●キャッツクローの薬用利用の歴史
キャッツクローは、アンデス地方に古代から伝わってきたハーブです。ペルーの中央部に位置するアマゾンの先住民族たちによって、2000年以上に渡り、伝統的なメディカルハーブとして利用されてきました。
キャッツクローは「奇跡のハーブ」と呼ばれ、古くはインカ帝国の時代から利用されてきましたが、その薬効として、免疫力の向上や、関節炎・リウマチの治療効果が知られていました。
また、これらの地域では、キャッツクローが薬用利用される樹皮を煎じ、飲用もされてきました。
日本にはキャッツクローの近縁種のカギカズラ(Uncaria rhynchophylla) が存在しますが、キャッツクローと同様に、そのとげの部分が漢方の生薬「釣藤鈎(ちょうとうこう)」として用いられます。
●キャッツクローの現代での利用と、薬効成分
キャッツクローは、原産国のペルーでは“ナチュラルメディスン(生薬)”として認可されていますが、ペルーの次に消費量の多いアメリカ合衆国でも、米国栄養補助食品法(DSHEA)に則ったサプリメントとして、代替医療薬と認識され、利用されています。
また近年では、日本でもキャッツクローの抗炎症作用が期待され、キャッツクローはメディカルハーブとして知られてきています。
キャッツクローにはアルカロイド類が含まれていますが、サプリメントなどで利用される場合、根や樹皮からの抽出物である五環系オキシインドールアルカロイド (POAs) が有効成分として利用されます。
キャッツクローの薬用成分としては、アルカロイド、トリテルペン、キノビック酸グルコシド、ポリフェノール、プロアントシアニジンなどが知られています。
また、アルカロイドとしては、これまでに、イソテロポディン、テロポディン、イソミトラフィリン、ミトラフィリン、イソミントフィリン、リンコフィリンの6種のアルカロイドが特定されています。
これらの含有成分とその薬理作用については、現在も研究が進められていますが、特にイソテロポディンはキャッツクローにおいて特異的に見られる成分で、その免疫強化作用が知られています。
これらのアルカロイドは複合的に働き、またキノビック酸の働きも伴って、炎症的な痛みのあるリウマチ、神経痛、腰痛、関節痛や片頭痛などの発作的な痛みに対して効果があると考えられています。
こうした経緯から、1994年5月のジュネーブ会議では、世界保健機関 (WHO)が、キャッツクローを副作用のない抗炎症剤として公式に認定しました。
キャッツクローの効果・作用として、よく知られ期待されているのは、
- 免疫増強作用
- 抗炎症作用、抗アレルギー作用
- 気管支喘息、気管支炎の改善
- 関節炎、リウマチの改善
- ヘルペスの改善
などです。
キャッツクローの原産国ペルーでは、アルベルト・フジモリ大統領が、貧困層の現金収入であった麻薬のコカ栽培をキャッツクロー栽培に切り替える国家プロジェクト「フジモリ計画」が、国の麻薬撲滅と貧困解消に一役買いました。キャッツクローは計画的に栽培され、産業的にも成功したのです。
また、近年のアメリカ合衆国では、キャッツクローの抗がん作用や抗炎症作用が報告され、サプリメントとしても人気が出ています。
日本での認知度はまだ低いものの、最近では、聖マリアンナ医科大学の研究グループによって抗炎症作用が報告されるなど、研究が進んできています。
さらにキャッツクローには、白血病、白内障の治療、チェルノブイリ原発事故による後遺症に対しても、有意な結果が確認されています。
ウクライナ医科学アカデミーによると、チェルノブイリ原発事故の後遺症患者の150名に対しキャッツクローの凍結乾燥錠剤を6ヶ月間与えたところ、9割以上の患者の免疫活性を示す各種パラメーターが上昇、また腫瘍細胞の縮小・消失が確認されたとされます。
同アカデミーのHIV感染治療に関する結果では、34人の感染者への6ヶ月間の投与で、副作用が発生した例はひとつもないことも示されています。
このようにキャッツクローは、近年、国際的にも大変関心が高まっている重要なメディカルハーブです。
●キャッツクローの副作用
キャッツクローについての研究は、1970年代から始められ比較的その期間が短いことから、副作用や相互作用は、報告されていません。
また、1994年には、WHOがキャッツクローを「副作用のない抗炎症剤」と認めています。
ただし、キャッツクローを含む医薬品クラレンドン*2)では、禁忌が指定されているため、注意が必要です。
- 注*2)クラレンドン:
オーストリアとドイツで承認されている医薬品名。キャッツクローの根20gに対して1リットルの水(80℃)で45分間加熱した後、10分間冷やしたものをろ紙で漉し、さらに水1リットルを加えた煎じた液を使用する。
クラレンドンの禁忌事項としては、
- 妊娠または授乳期の女性
- 3歳以下の幼児
- 骨髄移植が計画されている白血病患者、臓器移植の計画がある患者、免疫を抑制している患者
などに対しての処方です。
また、クラレンドンの副作用として、自己免疫疾患、がんの患者で、2週間以上の便秘または下痢が報告されています。
こうした禁忌事項に注意して用いる限り、クラレンドンは医薬品としての安全性が確認されているとされます。
●キャッツクローのその他の利用
ペルーで最もよく目にするソフトドリンクのひとつが、「Te de una de gato」と呼ばれる、キャッツクローから作られるお茶です。健康増進のためにも飲用されています。
オールスパイス
(英名:allspice、学名:Pimenta dioica)
オールスパイスはフトモモ科の常緑小低木です。
その香りが、シナモン・クローブ・ナツメグの3つの香りを併せ持つことが、オールスパイスの名の由来になっています。スパイシーで上品な香りとされ、ほろ苦さもあります。
別名「ジャマイカペッパー」とも呼ばれますが、この別名は、この地を訪れたクリストファー・コロンブスが、ジャマイカからヨーロッパに持ち帰ったことに由来しています。また東洋では、「百味胡椒(ひゃくみこしょう)」「三香子(さんこうし)」とも呼ばれます。
●オールスパイスの生息地
オールスパイスは、中央・南アメリカが原産地で、現在でもこの地に生息しており、主にジャマイカで採取されています。
●オールスパイスの形態
オールスパイスは、成長すると背丈6~9mほどになります。
花は4枚の花弁を持と、小さいものが集合して咲きますが、樹木の中であまり目立っていません。
果実は熟すと黒紫色になり、直径1cmほどで、コショウの形に似ています。オールスパイス特有の香りは、この果皮に多く含まれており、果肉は甘くスパイスの香りはありません。
オールスパイスの木は雌雄異株で、果実をつける木とつけない木とがあります。
葉にもオールスパイスの香りが含まれており、特に新鮮な葉はオールスパイスの香りと味を添えます。
また、フトモモ科の特徴として、樹皮が古くなると自然に剥がれ落ちる様子が見られます。
オールスパイスは、同属の植物“ベイラムノキ(Piper racemosa)”と、地上部の形がとてもよく似ています。
●オールスパイスの利用の歴史
古代マヤの時代には、王の死体を保存する際に、オールスパイスを防腐剤として利用し、また実によって香り付けがされたと言われてます。先住民族のマヤ人、アズテック人、アラワク人たちは防腐剤として利用する一方で、食用の肉を干す際や、肉料理・カカオ飲料の味付けにも利用していました。
当時、コショウやクローブは高価なスパイスであったため、オールスパイスの産地であるこの地域では、オールスパイスがその代用として利用されたという理由もあります。
オールスパイスが調味料として利用されたのは、この地にやってきたスペイン人たちによるものです。彼らは、オールスパイスの実の形がペッパーに似ていることから、オールスパイスを「ピメンタ」と呼んでいました。そして16世紀以降、調味料としてヨーロッパに広めます。
またオールスパイスの葉からは精油が採れ、リウマチ(リューマチ)や消化不良の改善に利用されました。その香りを利用するため、石鹸や、トイレの芳香剤としても利用されました。
●オールスパイスの現代での利用
オールスパイスは、その果実または葉が香辛料として利用されます。
果実を未熟なうちに収穫し乾燥して利用されます。
スパイス業界では、完熟前の果実を特に「ピメント」と呼び、香辛料として利用します。香辛料として利用されるオールスパイスは、採取後、約1週間天日で乾燥されます。
料理にはパウダー状のものが利用されることが多いですが、全形のままピクルスにされることもあります。ハンバーグやソーセージを作る際に入れたり、トマトなどと共に料理で利用される一方、お菓子作りにも利用されます。
また、ラム酒に香り付けとして入れられることもあり、オールスパイスを浸したラム酒は“ベイ・ラム(Bay rum)”と呼ばれます。
シナモン・クローブ・ナツメグの香りを併せ持つ一方、これらにオールスパイスを併用すると、全体の香りが調和してマイルドな香りとなります。
オールスパイスの薬効としては、糖尿病予防への可能性が示唆されています。これは、オールスパイスの持つ作用で、α-アミラーゼとα-グルコシダーゼに対して顕著な阻害作用を持つことに由来します。
シナモン・クローブ・ナツメグと似た香りを持つのは、それらと共通する成分オイゲノールを主成分に含むためです。オイゲノールは「刺激のある快い芳香」とされ、ピリッとした辛味を感じます。このオイゲノールには強い抗菌性があり、マイコバクテリウム菌(結核菌・鳥型)の発育を、オイゲノール8000分の1の濃度で完全に阻止したという研究もあります。
こうした効果から、中南米では、オールスパイスの精油が、神経痛やリウマチ(リューマチ)などの治療にも用いられています。
コカ / コカノキ
(和名:コカノキ、学名:Erythroxylum coca)
コカまたはコカノキは、コカノキ科コカ属の常緑低木樹です。
原産地は南アメリカ大陸の、ペルーやボリビアのアンデス地方と推定されています。
●コカノキの生態
コカノキは、よく分枝して成長し、成長後の背丈は2~3mほどになります。
楕円形の葉は長さ4~9cmで両端が尖っており、葉の裏の葉脈には両側に2つの縦条が入っているのが特徴です。
花は5弁で小さめの黄白色で、赤く熟す果実をつけます。
コカノキの薬用利用の歴史
原産地の南米では長い間、疲れや空腹を癒すハーブとして、コカの葉を噛む習慣がありました。また、高山地方では、高山病対策にコカの葉を飲用する習慣もあり、薬用利用されていました。
コカというと麻薬と認識されがちですが、麻薬成分が抽出される葉は、葉のままでは麻薬成分は少なく、原産地では日常的にお茶として飲用されてきており、”コカ茶”という名称で知られます。
日常的なお茶としてのコカが麻薬として利用され始めるのは、時代が下って1860年に、コカの葉から麻薬成分のアルカロイド“コカイン”を抽出する技術が発見されて以後になります。
20世紀初頭以来、麻薬利用も含めてコカノキの栽培は急速に広がり、その栽培のためにペルーで伐採された熱帯雨林は170万エーカーともみられています。
●コカノキの薬効と副作用
コカノキから抽出・精製される成分のコカインは、中枢神経を刺激・興奮・覚醒させ、幻覚や妄想を生じさせる精神毒性があり、常習性もあります。そのため、多くの国で麻薬とされ、使用や所持・販売が規制されています。日本では、成分のコカインだけでなく、コカノキ、コカの葉から規制対象となっています。
またコカインは、現代では製薬会社により麻酔薬としても製造されています。局所麻酔として利用される一方で、麻薬として利用されると、悲惨な常習癖をもたらすものとしてもよく知られています。
●お茶としての利用:コカ茶
コカの葉は、主にペルーやボリビアなどの南アメリカでは、日常的なお茶として飲まれています。コカ茶と呼ばれるこのお茶は、乾燥させたコカの葉に熱い湯を注ぎ、しばらく時間を置いてから飲まれます。現地では、コカ茶のみや、ハーブのカモミールとミックスしたハーブティーとしても販売されています。ボリビアの高地などでは、高山病の症状の緩和のためにも飲まれています。
飲料としてのコカに、“マンベ(Mambe)”と呼ばれる粉末状のコカがあります。 ブラジル、コロンビア、ペルーなどのインディオたちによって伝統的に作られており、抹茶のような緑色をしたパウダーです。
マンベは伝統的に、アンデス山地とアマゾンで神聖な儀式に使用されてきました。
心をオープンにして癒しをもたらす一方、知性も研ぎ澄ませます。
身体面では、身体をアルカリ性に保つことで健康を維持し、安全な形で体力と身体機能を継続的に活性化します。
こうした作用から、慢性疲労、倦怠感、うつ状態に対して利用されてきました。
健康な場合でも、病気の予防、免疫強化、ストレス軽減などにコカは役立てられてきました。
キナノキ
(英名:Red cinchona, Quinine、和名:規那の木(キナノキ)、学名:Cinchona officinalis)
キナノキは、アカネ科キナノキ属の植物の総称です。マラリアの特効薬であるキニーネが、キナノキ属として有名です。
常緑樹の樹木で、最大8mほどの小さな樹木の場合もあります。
ボリビアからペルーにかけての、涼しく湿った山地や、アンデスの熱帯雨林に生息します。
●キナノキの利用の歴史
かつてヨーロッパ人が南米に移民した際、異国であるこの地の気候と風土を生き延びたのは、現地の人々からキニーネの薬効を教えてもらったからです。そしてそのキニーネについて教えた原住民たちを征服することができたともいえるのは、皮肉なことです。
古くから、南アメリカのインディオたちは、キナの樹皮を解熱剤や麻酔剤として利用していました。
その後、ヨーロッパ人がこの地へ植民にやってきて、キナの樹皮から得られるキニーネが、マラリアの治療に有効だということを、この地のインディオたちから学びます。ヨーロッパからの植民者たちがキナの薬効を知ったのは1630年頃だとされ、イエズス会宣教師がキナを利用して治療を行ったという記録もあるとされます。
そもそも、この地にはもともとマラリアは存在しておらず、スペイン人の南アメリカへの侵略の際に、彼らが持ち込んだのだろうとされています。そして、1640年頃には、キナはヨーロッパに医薬品として輸入されるようになりました。
現代でも、この植物の樹皮に含まれるアルカロイドのキニーネのため、発熱とマラリアの治療薬としてキナは世界中で広く利用されています。*3)
- 注*3)現代では、マラリア原虫もキニーネに耐性を持つようになってきているといわれています。人類が、長年、マラリアに対してキニーネを使い続けいてきたことにより、原虫が耐性を獲得してきたとみられています。
●キナノキの薬効
キナノキ属には多くの種が存在しますが、薬用利用されるキナノキ属の種として、以下の3つがよく知られます。
・キンコーナ・オフィキナリス(Cinchona officinalis)
キンコーナ・オフィキナリスは、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビアなどに固有の樹木で、これらの地域のうち、海抜1600~2700mの湿った森林に生息しています。
マラリアや発熱の予防・治療薬として利用されるキニーネが抽出される一方、この植物から抽出されるアルカロイドとしては、キニーネの他に、シンコニン、ジンコニジン、キニジンなどが含まれます。
・アカキナノキ(学名:Cinchona pubescens Vahl)
アカキナノキは、成長すると4~10mほどの背丈になる樹木です。赤味を帯びた枝と、成長とともに同じく赤く変色する葉が特長です。また、ピンクや白の花を咲かせます。
原産地は、コスタリカからベネズエラ、ボリビアまでの南アメリカの地域で、農地や海岸沿いの林、自然林、低木林と共に植林地、さらに草地などに生育しています。
アカキナノキもまたキニーネを含む植物として重宝され、各地で栽培されてきました。
一方、アカキナノキは太平洋諸島へ外来種として移入し、これらの地域でも分布していますが、「世界の侵略的外来種ワースト100」*4)に選定されている植物でもあります。
- 注*4)世界の侵略的外来種ワースト100:
国際自然保護連合(IUCN)の種の保全委員会が定めた、本来の生育・生息地以外に侵入した外来種の中で、特に生態系や人間活動への影響が大きい生物のリスト。
アカキナノキは、低木や草本などの在来種の生育を妨害し、生態系に大きな影響を与えていることが報告されています。根の一部が残っているだけでも再生する強い生命力があり、除草剤にも耐性があるため、原産地でない環境で排除するのが難しい状況にあります。
・キンコーナ・カリサヤ(Cinchona calisaya)
キニーネは、この植物の樹皮に含まれるアルカロイドの70~80%をも占めていますが、他のアルカロイドとして、キニジンなども含まれます。
強壮作用があり、抗マラリアの他にも、解熱、筋肉の痙攣の緩和、神経痛の緩和などの効果が知られており、心臓病の治療にも使われています。現代では、この植物の樹皮は、錠剤やチンキ(抽出液)、粉末などさまざまな形状で薬とされています。
一方で、服作用もあるため注意が必要です。頭痛、発疹、腹痛、難聴、失明など、さまざまな症状が報告されており、用量への注意が必須です。また、キニーネを含むため、法的に使用規制を行っている国もあります。
樹皮から抽出されたキニーネは、炭酸飲料の苦味づけ香料として利用されることもあります。また樹皮の粉末は、渋みの薬効から歯磨き粉に利用されることもあります。
マテ / イェルバ・マテ
(英名:Yerba mate, 学名:Ilex paraguariensis または Iles paraguayensis)
イェルバ・マテはモチノキ科モチノキ属の常緑低木です。葉や小枝が、マテ茶の原料となります。
イェルバ・マテの生息地
イェルバ・マテは、南アメリカ諸国に自生しており、原産地は、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチンにまたがるイグアスの滝周辺です。野生のイエルバ・マテは、川のそばや丘陵地帯の湿った窪地に多く自生しています。また、現在では主に、アルゼンチン北部、パラグアイ、ウルグアイなどで広く栽培されています。
イェルバ・マテの生態
イェルバ・マテは低木に分類され、通常は背丈4~8mまで成長しますが、中には成長すると最大15mほどになることもあります。葉は常緑で、長さ7~11cm、幅3~5.5cmで、丸みを帯びた楕円形で、革のように硬いのが特徴です。
花は白く小さめで、4枚の花弁を持ちます。また、直径4~6mmの、赤、黒、黄色の果実をつけます。
●イェルバ・マテの利用の歴史
自生するイェルバ・マテは、その原産地のイグアスの滝付近の原住民インディオの人々によって、飲用されていました。そして、原産地のひとつ、パラグアイのグァラニ族が、マテを活力を与える木として飲用し始めたことが、マテの利用の起源とされています。
お茶としてノムイェルバ・マテを飲む習慣は、パラグアイのグァラニ族がその起源とされ、彼らは「活力を与える不思議な木」と、マテを認識していました。
その後、15世紀末からこの地に植民にやってきたスペイン人たちによって、現在のパラグアイ周辺に栽培され始めます。さらに栽培は商業化され、後にヨーロッパへも広く輸出されていきます。ヨーロッパでも珍重されたマテは、“インディオの緑色の黄金(the green gold of the Indios)”と呼ばれました。
現在、イェルバ・マテの主な輸出国は、ブラジルとパラグアイですが、一部では野生のイェルバ・マテも少量ながら流通しています。
また現在、南アメリカでは、マテは日本での緑茶のように、日常的に飲用される国民的なお茶です。
その一方で、現在では、野生のマテは、絶滅の危機に瀕しています。
●イェルバ・マテの効能
イェルバ・マテには、ビタミンとミネラルが非常に多く含まれています。特に鉄分とカルシウム、マグネシウム、亜鉛、ビタミンAとB、葉緑素などを多く含んでいます。さらに、マテの葉には、15種類のアミノ酸や食物繊維も豊富に含まれて、赤ワインに多く含まれることで有名なポリフェノールは、マテ茶のほうがより多く含まれています。その他、カフェイン、ケルセチルチン、フラボノイド、タンニン酸なども含まれています。
こうした豊富な栄養素から、マテは「飲むサラダ」とも呼ばれ、お茶でありつつも、野菜が栽培しずらい南アメリカの地域では、栄養源として飲料されることもあるほどです。
マテの医学的作用として伝統的に知られているのは、利尿、強壮、中枢神経への刺激、排泄促進、体内の浄化、抗酸化作用などです。さらに、マテには体内のバランス調整機能があるため、多くの量を摂取しても、中枢神経への刺激は強くなりすぎることなく、体内のバランス調整機能を促進させるとされています。
また、睡眠サイクルの調整や、疲労回復、食欲の制御などの作用もあり、幅広く身体の調整を行います。
多くの疾病に対しても利用され、肥満、動脈硬化、糖尿病、記憶障害、更年期障害、骨粗しょう症などに対して有効であるとされる研究もなされており、こうした生活習慣病や加齢による症状の予防への利用が期待されています。
一方、マテにはカフェインとタンニンを含むため、疲労回復効果が認められている一方で、カフェイン含有のため、妊婦や授乳中の女性は飲用を控えたほうが良いともされます。
さらに、マテ茶の中でも熱いお茶として飲む場合のみ、食道がんや喉頭がんなどの発がん性も指摘されていますが、マテそのものの発がん性は確認されていません。
例えばヨーロッパでは、ドイツコミッションE(医薬品としてのハーブの効果と安全性を協議するドイツの委員会)は、マテの精神および肉体の疲労に対しての使用を承認しています。一方、熱いマテ茶の発がん性については、IARCによる発がん性評価で「Group2A(ヒトに対する発癌性がある可能性が高い)」に分類されています。また、65℃以上の熱い飲み物自体が「Group2A」に分類されています。そして、マテ茶そのものは「Group3」(ヒトに対する発癌性が確認できない)に分類されています。
こうしたイエルバ・マテの有効成分については、1970年代中頃~80年代中頃に研究されてきました。その結果判明した成分としては、カフェイン(0.3~2%)、テオブロミン、テオフィリン、サポニン、クロロゲン酸(10%)などが挙げられます。
●お茶としてのマテ:マテ茶
マテ茶には、緑の茶葉のグリーン・マテ(緑マテ茶)と、焙煎したロースト・マテ(黒マテ茶)があります。強い苦味を持つグリーン・マテと、ローストした香ばしさの加わったロースト・マテの味の違いも楽しめます。
グリーン・マテ(緑マテ茶)の製造方法:
収穫後24時間以内に直火にあて水分を20%ほど放出させた後、その後、5~6%程度の水分量になるまで乾燥させます。さらに細かくカットされ、約1年間、熟成のために保存されます。
ロースト・マテ(黒マテ茶)の製造方法:
完成したグリーン・マテをさらに焙煎したものが、ロースト・マテです。焙煎することで薬効成分の含有量がグリーン・マテより低くなるのですが、焙煎による香ばしさが加わり、ロースト・マテが飲用として好まれるることもあります。特にブラジルで人気が高いのが、ロースト・マテです。
マテ茶の飲み方:
伝統的には、茶器に1/2~3/4の茶葉を入れ、水か70~80℃のお湯を注ぎます。容器に、先端に茶こし用の小さな穴のついたマテ茶用の金属製ストローを差して、お茶を飲みます。ヒョウタン製や、木製、角製などの伝統的な容器で飲まれます。
このマテ茶の飲み方は、フランスの社会学者クロード・レヴィ=ストロースの著書『悲しき熱帯』の中で紹介されており、現代ヨーロッパでマテ茶の詳細が紹介されたものともいえるでしょう。
欧米へ普及したマテ茶は、ティーポットで淹れて飲まれることもあり、またティーバッグとしても普及しています。
さらに近年では、南アメリカ現地でも、砂糖を入れて甘くして飲むマテや、牛乳や他のハーブとミックスしての飲み方も普及してきています。
また、気温の高い地域では、水出しのマテ茶も多く飲まれています。
パラグアイの水出しマテ茶は、他の薬草やハーブも混ぜられたハーブティーで、これらは“テレレ”と呼ばれます。熱いマテ茶を「マテ茶」呼び、冷たい水出しのマテ茶を「テレレ」と呼ぶ場合もあります。
南アメリカのパラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイ、ブラジル南部では、マテ茶の飲み方の作法があり、日本の茶道を思わせる風習がうかがえます。
その作法とは、まず、一つの茶器に入れたマテ茶を複数人が回し飲みします。ホストが茶器でマテ茶をたると、まずホストが飲み、次に客へ茶を渡します。日本の茶道と異なるのは、客は自分が飲んだつどホストに茶器を戻し、ホストがそのつど、次の客へ茶を回すことです。
こうした伝統的に確立された風習を見ても、マテ茶が南アメリカの文化の中で、非常に大きな位置を占めていることがうかがえます。
ヤム / ヤムイモ
(英名:yam、和名:ヤム、学名:Dioscorea L.)
ヤム、またはヤムイモは、ヤマノイモ目ヤマノイモ科ヤマノイモ属 (Dioscorea) の多年性・つる性植物のうち、その塊根(かいこん)を食用とする種の総称です。塊根(かいこん)はデンプンを貯蔵して肥大化し、食用の芋となります。デンプンの他にもタンパク質を少量含み、特有の粘りがあります。
ヤマノイモ属には約600の種が存在しますが、そのうちの一部の種の塊根(かいこん)が食用とされます。
日本では、日本原産のヤマノイモ(山の芋、学名:Dioscorea japonica)がヤマノイモ属としてよく知られています。自然薯(じねんじょ)やナガイモと呼ばれることもあります。
ヤムイモは、南アメリカだけでなく、アフリカや熱帯アジア、西インド諸島にかけての広い地域で主食や根菜として食べられており、これらの地域で栽培されています。
ヤムイモは乾燥に強く、1株からとれる収穫量も多く、中には1株で40~50kg収穫できる場合もあります。栽培面積からの収穫量が、小麦や稲よりも高いため、原産地に住む人々の食糧として重要なものでした。
また、食用とされる塊根は地下部分に育つため、その育成は気候の変化に影響されにくく、乾燥にも強いのも、栽培の有利な特徴です。
数多くのヤムイモの種の中でも、メキシコ原産の「ワイルドヤム」(メキシコヤマイモ)は、近年、商品としても目につくようになってきました。
●ヤムイモの効能
ヤムイモは、主に栄養成分として炭水化物、さらに食物繊維を含みますが、カルシウムや鉄分、ポリフェノールなども含み、ミネラル補給に役立ちます。
また、ヤムイモには伝統的に滋養強壮作用があるとされてきましたが、その医学的な研究結果が2008年に日本のタカラバイオより発表されています。この研究によると、マウスの実験により、ヤムイモの一種のトゲドコロの作用として、脂肪代謝を活性化させ、運動機能を高めることが遺伝子的に証明されました。
さらに、ヤムイモに含まれる成分ジオスゲニンは、体内で女性ホルモンのプロゲステロンに変換されるため、女性ホルモンのバランス調整、更年期障害の症状緩和に有効とされます。さらに、カルシウムの吸収促進作用も認められ、骨粗鬆症の予防にもヤムイモの利用が期待されています。
またヤムイモには特有の粘度がありますが、このヌルヌル成分は水溶性食物繊維のムチンです。ムチンには、糖の吸収抑制作用や、胃壁を保護する作用があり、これらの作用から、糖尿病予防や、胃炎・胃もたれの症状改善などにも利用が試みられています。
ユソウボク
(英名:roughbark lignum-vitae, guaiacwood or gaïacwood、和名:ユソウボク(癒瘡木)、学名:Guaiacum officinale)
ユソウボクは、ハマビシ科の常緑樹です。
原産地は熱帯アメリカ(マイアミより南部の中南米)で、カリブ海沿岸と、南アメリカの北海岸沿岸に生息しています。また、ジャマイカの国花でもあります。
●ユソウボクの生態
ユソウボクは非常にゆっくりと成長し、成長後は背丈10mほど、幹の直径が60cmほどになります。生息地のほとんどの地域で、ユソウボクは常緑です。複葉の葉は長さ2.5~3cm、幅2cmほどです。
花は青く5枚の花弁を持ち、明るい黄~オレンジ色の果実をつけます。果実は、赤い肉と黒い種をつけます。
●ユソウボクの利用の歴史と、保護
ユソウボクは、早い時期から木材としての需要のために野生のものが激減し、そのためマルティニク共和国では、すでに1701年からユソウボクを保護種としていました。
その後も木材と、また薬用の樹脂を採取するため伐採は続き、一時は絶滅寸前までになりました。
現在では、ユソウボクの保護が進み、ドミニカ共和国、グアドルーブ、コロンビア、プエルトリコ、コスアリカ、エルサドバドル、ニカラグアといった国々が、ユソウボクとバハマユソウボクの保護を行っています。
ユソウボクは成長は遅いものの、種子からの栽培は難しくなく、栽培が進められてきています。
その後もユソウボクは保護対象であり、1998年、IUCN(国際自然保護連合)はユソウボクを「絶滅の危機に瀕した種」に定義しました。ユソウボクの数が減った理由としては、薬用利用のための採取に加えて、良質な木材としての利用のための採取もあります。CITES(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」、通称「ワシントン条約」)の附属書IIのリストに加えられているため、国際取引は制限されています。
このように、ユソウボクの保護の観点からも、現在では同じハマビシ科の種 “ガイアクム・サンクトゥム(Guaiacum sanctum)” が、その代替として利用されています。
●木材としてのユソウボク
ユソウボクが良質の木材とされる理由は、ユソウボクが「世界で最も重い木材のひとつ」であるためで、そのため良質の木材になります。樹木のナラの70~80%重く、また堅さは、イギリスのオークの3~4倍とされます。
木材の辺材は灰白色、心材は茶褐色をしていますが、経年の変化で濃緑褐色になります。
製材した面は、蝋のような手触りです。
●ユソウボクの薬効
ユソウボクは、浄化作用、強壮作用のあるハーブとしてよく知られます。
ユソウボクの薬効が利用されるのは、主にその樹脂で、この樹脂はグアヤク樹脂(Gum guaicum または guaiac resin)と呼ばれます。
ヨーロッパにおいてユソウボクの薬効を発見したのは、イギリスの医者で博物学者のハンス・スローン卿*5)(1660~1753年)です。
それ以後、ヨーロッパでも、ユソウボクは梅毒の治療薬として、その油脂が使われてきました。
- 注*5)ハンス・スローン卿:アイルランド王国出身の医師・収集家。植物や動物を含むさまざまな彼の収集物は、1753年の彼の死後、イギリス政府に遺贈され、これを元に1959年、英博物館が開館した。また投資家として購入した荘園をチェルシー薬草園としたが、この薬草園はロンドンの薬剤師たちが自由に薬草を採取できるものだった。
和名の「癒瘡木」は、かつて梅毒のことを「瘡っ気(カサッケ)」と呼んでおり、この木から取れる「グアヤク樹脂」が「瘡っ気(カサッケ)」を癒す、という意味がその由来のようです。
また、ユソウボクのラテン名「リグヌム・ビタエ(Lignuam vitae)」は、「生命の木(Wood of life)」という意味がありますが、ヨーロッパに持ち込まれた頃から、その名の通り、ユソウボクの樹脂が万病に効くと信じられていました。
キャンドルブッシュ
(英名:Candle Bush、学名:Cassia alata)
キャンドルブッシュは、マメ科カワラケツメイ属の落葉低木です。
別名として、「ハネセンナ(羽根センナ)」や、「ゴールデンキャンドル(Golden candle)」などとも呼ばれます。別名のハネセンハ(羽根センナ)は、豆果の果実に対の翼があることに由来しています。
原産地は、熱帯アメリカや西インド諸島とされています。
●キャンドルブッシュの生態
キャンドルブッシュは、直立した幹を持ち、成長すると背丈2~4mほどになります。葉は羽状の複葉が長さ60cmほどと大きく、小葉は楕円形で8~14対で生えます。
乾季には黄色い5弁の花を咲かせますが、この黄色の美しい花はクリスマスキャンドルのように見えることが、キャンドルブッシュの名の由来になっています。
●キャンドルブッシュの薬用利用
キャンドルブッシュは、便秘、皮膚病(虫さされやかゆみ)に対して、またお腹の駆虫目的でも利用されます。
また、食物繊維を豊富に含み、キャベツの12倍・サツマイモの20倍の食物繊維を含み、腸の働きを活性化します。さらに、ビタミン、ミネラルもバランス良く含まれ、葉と茎にはフラボノイドが多く含まれてています。
花木を観賞用や日除けにするなど、日よけの樹としても利用されます。
キャンドルブッシュの全体には、「センノシド」と呼ばれる成分が含まれますが、このセンノシドは下剤効果のある成分のため、便秘に対してや、駆虫のために利用されます。
キャンドルブッシュの葉は、健康茶やデトックスのためのお茶としてのミックスティーの成分に含まれる場合もありますが、成分のセンノシドの過剰摂取には注意が必要で、大量に飲んだ場合、下痢や腹痛を起こす恐れもあります。
また一方、中部・南アメリカ以外では、キャンドルブッシュはインドのアーユルヴェーダやインドネシアでは、古くから、美容や健康のために利用されてきたメディカルハーブです。
ローズウッド
(Rosewood、学名:Aniba rosaeodora)
ローズウッドは、クスノキ科(Lauraceae)アニバ属(Aniba)の常緑高樹木で、南アメリカの熱帯雨林地域に自生しています。
ローズウッドは一般的には “アニバ・ロサエオドラ(Aniba rosaeodora)” 種を指しますが、他の種も含めた数種の樹木を指す分類もあります。
「ローズ」という語を名称に含みますが、植物のバラとはまったく別の種になります。ローズウッドという名称は、バラに似た香りがあることが由来です。
また、フランス語名でボア・ド・ローズ(Bois de Rose)と呼ばれることも多くあります。
また、マメ科ツルサイカチ属(Dalbergia)の種の樹木も同じく“ローズウッド”と呼ばれますが、これは木材として利用される植物で、 “アニバ・ロサエオドラ”とは別の種になります。
ツルサイカチ属の樹木もまた、中部・南アメリカ大陸に生息しています。その樹木は、重く硬いため、材木として、木工製品として利用されます。
●ローズウッドの生態
ローズウッド(Aniba rosaeodora)は生長すると、樹木の直径2mほど、樹高20~30mほどにもなる高木です。バラのような甘い香りを持つのが特徴です。
花は雌雄同花(=ひとつの花に雄ずいと雌ずいが備わっていること)ですが、一時的に雌雄異株になります。果実は紫色で中央に硬い核(種子)を持ち、鳥のオオハシのエサになります。
●ローズウッドの利用
ローズウッドは、樹木から抽出される精油として、主に利用されます。精油には、成分のリナロールとルブラニンが含まれます。
●精油としての利用
ローズウッドは、心材のチップ(粉砕した木)から水蒸気蒸留法または熱水蒸留法で精油が得るれます。ややウッディで、甘いフローラルかつスパイシーな香りがします。精油は香料として、アロマテラピー療法で利用されていました。
精油として最初に用いられたローズウッドはギアナに生息していた種で、この精油の主成分は(R)-リナロールで、全成分の88%を占めています。
その他には、α-ピネン、カンフェン、ゲラニオール、ネラール、ゲラニアール、ミルセン、リモネン、1,8-シネオール、ベンズアルデヒド、リナロール酸化物、テルピネオール などの成分が含まれます。
その後、南アメリカではブラジルで、ローズウッドの生産が開始されました。ブラジルのローズウッドは、ギアナのローズウッドとは種が異なっていたといわれ、そのため精油の品質も異なり、当初は市場に普及しなかったものの、ギアナのローズウッドが乱獲により枯渇したため、ブラジルのローズウッドが市場に普及していきました。
1960年代前半までは、ローズウッドは、その精油からリナロール*6)が採取できる重要な樹木でした。その後1960年代後半なると、リナロールは合成されるようになり、天然のリナロールが採取できるローズウッドの生産は、急激に減っていきました。
- 注*6)リナロール:モノテルペンアルコールの一種で、多くの植物やスパイス類の精油成分として含まれる。特に含有量が多いのはミントやタイムなどのシソ科(Lamiaceae)、ローレル、シナモン、ローズウッドなどのクスノキ科(Lauraceae)、柑橘類などのミカン科(Rutaceae)科などだが、その他にも、樺(かば)の木などにも多く含んでいる。

シソ科のタイム(Thymus vulgaris)/ リナロールを約40~60%含む。タイムの中でも「Thymus vulgaris L. linaloliferum」という種はリナロールをさらに多く含み、60~80%含有するとされる。
現在では、ローズウッドは主にブラジルとパラグアイで生産されていますが、その用途は、高級香水やアロマテラピーなど、香料としての生産が主なものです。
伝統医療としての利用ではないものの、アロマテラピーでは、ローズウッドはニキビや皮膚のシワ対策、免疫強化に有効だとされ、利用されてきました。ただし、ローズウッドの成分には皮膚感作性があるため、皮膚が敏感な場合には有害作用を及ぼす可能性があり注意が必要です。
●ローズウッドの薬効
ローズウッドは、心身への薬理的効果が知られています。
そのやさしく甘い香りは、心への強い癒しの効果を発揮します。精神疲労の激しいときやトラウマにとらわれた状態の心を軽くし、心にバランスをもたらします。さらに、感情を超えてより高次元の愛と慈悲の心への気づきをもたらします。
また、身体的にも強力な癒しの効果がもたらされます。免疫活性、強壮、抗菌、抗真菌、抗ウイルス、抗炎症などの作用があり、呼吸器系・泌尿器系・婦人科系などの感染症にも有効とされます。
さらに、皮膚への効果も高く、保湿、皮膚にハリを与える効果が期待できます。
ローズウッドには、以下のような非常に多くの効果が知られています。
- 免疫活性、強壮、殺菌、抗菌、抗真菌、抗ウイルス、消毒、鎮痛、鎮静、頭痛の緩和、血行促進、デオドラント、催淫、中枢神経抑制、血液浄化、細胞再生
(肌への効能として)保湿、抗炎症、シワの改善、老化防止、皮膚軟化、妊娠線の防止など
●ローズウッドの危機と保護
現在、ローズウッドはCITES(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」、通称「ワシントン条約」)の「附属書Ⅱ」(必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制する種)のリストに記載されており、規制の対象となっています。輸出入に際して、輸出国の政府が発行する許可書が必要な対象です。
そのため、市場に流通している“ローズウッド精油”は、かつての心材から抽出された精油ではなく、葉から抽出したものか、合成の精油、あるいはローズウッドと組成の近いクスノキ科のホーリーフの精油である可能性があります。
ホーリーフ(和名:芳樟、学名:Cinnamomum camphora (L) var. linaloolifera)は、ローズウッドと同じクスノキ科で、抽出される成分として、主に、リナロール、α-テルピネオール、1.8シネオール、カンファー、γ-カジネンなどがあります。
特にブラジルにおいて、ローズウッドは絶滅危惧種とされており、精油を抽出できるのは植林されたローズウッドからのみとなっています。
ブラジルでは、1989年に環境行政機関IBAMA(ブラジル環境・再生可能天然資源院)が設立された後、1992年のリオ・デ・ジャネイロでの国連地球サミット開催を受け、IBAMAはローズウッドの規制を強化します。
さらに、2010年には、CITESの「附属書Ⅱ」に指定され、ローズウッドの取引には輸出国の政府機関による輸出許可書が必要になりました。
こうした流れから、現在、日本のローズウッド製品の輸入販売においても、この取り決めにより、野生種ではなく栽培種のローズウッドが利用され、ローズウッドの保護のために、木を伐採して幹から精油を抽出するのではなく、樹木を保存しながら枝と葉から抽出しています。
レモンバーベナ
(和名:コウスイボク(香水木)、ボウシュウボク(防臭木)、学名:Aloysia citrodora, シノニム:Aloysia triphylla)
レモンバーベナは、クマツヅラ科イワダレソウ属の落葉低木です。
原産地は南アメリカのアルゼンチン、チリ、ペルーにまたがる地域です。その後、17世紀になると、スペインからの入植者たちによってヨーロッパに伝えられました。現在では、世界中で栽培されています。
●レモンバーベナの生態
レモンバーベナは、背丈1~3mほどに成長します。豊富な日光や多量の水を好み、寒さには弱い植物です。
明るい緑色の葉は、表面が波打つような形状で、先端が細くとがった形をしているのが特徴です。8~9月には、薄紫色か白色の小さな花を咲かせます。
●レモンバーベナの利用
アンデス地方の人々は、レモンバーベナを薬草として、また飲用に利用してきました。特にアンデスの山地では、その高度差に順応する効果が知られ、常飲されていたようです。
レモンバーベナは、その香味から料理によく利用されます。葉が、魚や鳥肉料理、野菜のマリネやサラダのドレッシング、またスィーツ用にジャムやプリン、さらに飲料にも、レモンの風味漬けとして利用されます。薬草としてハーブティーとしての飲料も好まれています。
葉から抽出される精油には、成分のシトラール、ゲラニオール、リモネン、ネロールなどを含み、石けん、化粧品、香水などの香料としても用いられてきました。乾燥させた葉は、ポプリの材料としても好まれます。
●レモンバーベナの薬効と薬用利用
レモンバーベナは、その名の通り、葉からレモンのような良い香りを放ちますが、これは、レモンと同じ芳香成分を多く含んでいるためです。特に若葉が強い香りを放ちます。
そのさわやかなレモンの香りからも、鎮静・鎮痛効果がよく知られています。さわやかな香りは副交感神経を刺激し、神経の緊張や不安を和らげ、リラックス効果があるため、不眠症に有効です。ストレス性の頭痛や腹痛、生理痛、リウマチ、関節痛にも、同様に効果があります。
さらに、胃腸の調子を整え、消化促進の効能もあります。特に夕食後にお茶として飲むことで、穏やかな就寝が得られますし、二日酔いや乗り物酔いの解消にもなります。
レモンバーベナのお茶は、風邪に対しても有効で、気管支の炎症を抑え、解熱作用もあります。日常の飲用では、滋養強壮効果が期待できますし、抗菌・抗ウイルス効果もあるため、風邪や感染症予防にもなるでしょう。
血行改善や、抗酸化作用も知られ、万病への薬として役立てられてきました。
●レモンバーベナの利用の注意点
その香りの好まれるレモンバーベナですが、レモンバーベナの精油は、皮膚刺激が強いため、敏感肌や妊娠中の方は、使用を控えたほうが良いでしょう。継続的に一定以上の量を使用すると、胃腸に負担をかける場合もあります。
もともと伝統的にも薬草として利用されてきて、その刺激や効果も高いため、1日に500~1000mg程度の摂取量に抑えるように注意されています。
ステビア
(英名:sweetleaf, stevia、和名:ステビア、別名:アマハステビア、学名:Stevia rebaudiana)
ステビアは、キク科ステビア属の多年草です。
原産地は、南アメリカの主にパラグアイなどの地域です。
園芸用の種のアワユキギク(学名:Piqueria trinervia)もステビアと呼ばれるため、これと区別するため、パラグアイ産のステビアの種は「あまは(甘葉)ステビア」のと呼ばれることもあります。パラグアイ産のステビアは、糖分を含まず、砂糖の300倍と言われる強い甘みがあります。
ステビア属には154以上の種が存在し、ハーブとして利用される種もありますが、その中でも甘味成分を含んでいるのは、パラグアイ原産のこの種のみなのです。
●ステビアの生態
ステビアは、背丈50cm~1m前後に成長します。茎は白い細毛に覆われ、花は夏から秋にかけて、枝先に白い小花が咲きます。葉は3~5cmの長さで、先端がとがった楕円形をしています。
生息地としては、高温地帯での生育に適していて、乾燥や寒さには弱い植物です。
●ステビアの利用とその歴史
ステビアは、16世紀頃から、ブラジルやパラグアイのインディオたちによって、甘味料として利用されてきました。パラグアイのガラニインディアンは、ステビアを『kaa jhee』という名で呼び、伝統的にマテ茶に加える甘味料として利用してきました。
その後、ステビアは入植してきたスペイン人たちに知られます。ステビアの名は、スペイン医師で植物学者のペドロ・ハイメ・ステビア(Pedro Jaime Esteve)にちなんでつけられました。
甘味成分のステビオサイドとレバウディオサイドAなどのジテルペン配糖体は、糖質ではないためノンカロリーで、健康志向からも好まれています。
日本へは1970年に種子が持ち込まれた後、品種改良や研究・開発が行われ、1972年には世界に先駆け甘味料として商品化されました。その後さまざまな食品に取り入れた経緯があり、合成の甘味料として定着しています。
アメリカでは、ステビアは1994年にサプリメントとして認可されましたが、甘味料や食品添加物としての使用は認可されていません。
甘味けのためには、生の葉をそのまま利用する他に、乾燥させた葉も利用されます。
原産国のパラグアイでは、伝統飲料のマテ茶への甘味付けとして利用されたのが、ステビアの甘味料としての利用の始まりとも言われます。また彼らは、薬草としてもステビアを利用してきました。さらに、整腸のため、全身に塗っての美容や防虫のためにも利用されました。
現在では、甘味料としての利用に加え、ステビアの茎の部分は発酵と熟成の後に健康飲料や化粧品へも利用されています。
●ステビアの薬効とその歴史
ステビアは甘味料としての利用以外にも、肥満や糖尿病、高血圧、胃腸の症状、二日酔い、精神疲労などに有効な強壮作用のある薬草でもあります。
学術的にもステビアの効果は研究されています。ステビアの薬効についての研究は、1899年パラグアイの植物学者によって初めてなされてから以後も継続しています。
2006年には、ステビアには2型糖尿病の原因の一つである「インスリン抵抗性」を細胞レベルで改善する可能性があることが、自然抽出物としては世界で初めて発表されました。
さらに、C型肝炎ウイルスを抑制した結果も、学会にて発表されています。
歴史的にも、ブラジルとパラグアイの先住民のグアラニー族はすでにステビアを薬として利用しており、心臓病、高血圧、胸焼けなどの症状に効果があることを知っていました。こうした薬効から、彼らにとってはステビアは単なる植物を超えた神聖な植物として、崇拝の対象でもありました。
ブラジルのハーブを利用した医療では、ステビアには、血糖値低下、血圧降下、利用、強壮などの効果が認知されており、糖尿病や高血圧の治療として、また強心薬として利用されています。
また、ステビアの茎から作られる発酵エキスには、強い抗酸化作用、解毒作用、殺菌作用などがあり、健康維持や美肌のために利用されます。肌への利用では、保湿効果も期待され、緑茶の5~7倍とされる抗酸化作用も、美しい肌を維持します。
●ステビアの利用の注意事項
ステビアについては、重大な注意事項はないものの、エッセンシャルオイルとして利用する場合には、有効成分が濃縮されているため、注意が必要な場合があります。
1999年に、欧州連合(EU)の食品科学委員会(SCF)は、「ステビアまたはその葉の使用に関して、健康面から無害であるとする十分なデータは入手不可能」、としており、実質的に、安全性が完全に確立された状態ではないことを示しました。
また、2008年には、ステビアに含まれるステビオール配糖体の毒性から考慮し、1日に摂取するステビオールの許容量(ADI)を、体重から考慮して0~4mg/kgと設定しました。
パレーラ
(英名:プリックリーラ(higuera)、パレーラ(palera), Indian figなど、和名:オオガタホウケン(大型宝剣)、学名:Opuntia ficus-indica)
パレーラは、サボテン科ウチワサボテン属の多年生草本で、つる性の植物です。
原産地は、中央アメリカの熱帯や乾燥した地域です。熱帯雨林でよく見られます。
属名の「オプンティア(Opuntia)」はギリシャの街「オプス」に由来しますが、オプスの町ではサボテンに似た植物が生育したことにちなんでいるようです。また種小名の「フィカス・インディカ(ficus-indica)」は、「西印度諸島のイチジク」の意味で、パレーラの果実の形状が、イチジクのように見えることからとされます。
また英語名では、他にも “バーバリー・フィグ(Barbary fig:「バーバーリー地域*7)のイチジク」の意)”, “カクタス・ペアー(Cactus pear:「サボテンの梨」の意)”, “スピンレス・カクタス(Spinless cactus:「回転しないサボテン」の意)”, “プリッキー・ペア(Pricky pear:「トゲのある梨」の意)”など、さまざまな名称で呼ばれます。
- 注*7)バーバリー地域:エジプト西部から大西洋岸にわたるアフリカ北部の地域
●パレーラの生態
パレーラは、成長すると草丈は1~5m程度になります。
扁平(へんぺい)で肉厚な茎節(けいせつ:平たくなり節で区切られた茎が葉の機能を持ったもの)を持ち、楕円~卵形の形状で、50cm程の長さがあります。
花は直径5~10cm程度、オレンジ~黄色で、晩春に咲きます。果実は長さ5cm程で、楕円の形をしており、紫色に熟します。
●パレーラの利用
パレーラの本種は、刺の多くないサボテンのため、観賞用として多く栽培されています。また原産地では、茎節(けいせつ)と果実が食用として利用されます。
中央アメリカと南アメリカにはサボテンを食べる文化があり、サボテンの多くは、その果実が食用になるとされます。その中でも特にパレーラは、果実に加えて葉も食用になるという点で、食用に適しているとされています。
食用としてよく知られるパレーラですが、食用にされる部位によって、異なる名称を持っています。パレーラの“縁”の部分は「ノパール(Nopal)」、果実の赤い部分は「トゥナ(Tuna)」と呼ばれます。
縁の部分の「ノパール」は、サラダや、肉料理のソース、ジャムなどとして食されます。
果実の部分の「トゥナ」は、棘(とげ)を取り皮をむいて、他の果実のように生で食べたり、ジュースやジャム、お酒などにも加工されます。
●パレーラの薬効
パレーラにはその薬用成分として、ツボクラリンを含みます。ツボクラリンは、筋肉弛緩剤として、現代の手術で重要な役割を担っています。合成できない成分のため、製薬業界はもっぱら野生のパレーラに頼って、ツボクラリンを抽出・製造しています。
ナスタチウム
(英名:ナスタチウム(Nasturtium)、和名:キンレンカ(金蓮花)、別名:ノウゼンハレン(凌霄葉蓮)、学名:Tropaeolum majus)
ナスタチウムは、ノウゼンハレン科(Tropaeolaceae)ノウゼンハレン属(Tropaeolum)の一年草です。中部アメリカ・南アメリカ原産のキンレンカ属には、約80の種が存在します。
原産地は、南アメリカ、ボリビアの北からコロンビアにかけてのアンデス山脈の熱帯高地です。
“ガーデン・ナスタチウム(garden nasturtium)”、“インディアン・クレス(Indian cress)”、“モンクス・クレス(monks cress)”などの名称でも呼ばれます。
英名の「ナスタチウム(Nasturtium)」は、正式にはオランダガラシ(クレソン)属を指す学名ですが、これと似た味をもつためにこの植物の名にも転用され、通称となりました。
●ナスタチウムの生態
ナスタチウムは、約1m~1.8mほどに成長します。中には、背丈30cmほどのごく小さなものから、背丈3.5mほどにもなる個体も存在します。
茎は地面によく伸び、周囲の植生の中へも茎を伸ばし、ねじり込むように成長していきます。
非常に一般的な植物で、世界中の花畑で生育しているのがよく見られます。
ナスタチウムの葉は、ハスなどに似た円い形状で、直径3~15cmと大きく、葉の中央付近には葉柄がつきます。
花はオレンジ、黄、赤、ピンク色など暖色系のさまざまな色があり、濃い色へ変化していきます。直径2.5~6cmほどで、左右相称、5枚の花弁を持ち、蜜をためます。5月~11月頃の長い期間、花を咲かせます。
果実は3個に分かれる分果で、それぞれの果実には1個の種子を含んでいます。
ナスタチウムは、熱帯高地の原産のため25度以上の暑さに弱く、また寒さにも強くありません。沿岸地域から、標高3000mの地域まで生息しています。
●ナスタチウムの利用
ナスタチウムは、その美しい花が観賞用として栽培されます。
また、茎葉や花は食用ハーブとしても利用されます。
若葉や花は、サラダなどの食用とされますが、クレソンのような辛味がわずかにあるのが特徴です。また、未熟な種子は塩漬けにし、ケッパー*8)の代用としても使われることもあります。
- 注*8)ケッパー(英名:caper、学名:Capparis spinosa):
フウチョウボク科(かつてはフウチョウソウ科に分類された)の半蔓性の常緑低木。地中海沿岸からイラン高原、アフガニスタンにかけて自生する。またはこの植物のつぼみをピクルスにした食品のこと。ピクルスは一般的に酢漬け、塩漬けにして作られ、独特の風味と酸味を持つ。
ナスタチウムは、葉、花、種子などすべての部分が食用として利用できますが、その中でも特に花が多く利用されます。花は、サラダを装飾するために取り入れられることもあれば、炒め物にも料理されます。
また、薬草としても利用され、広く栽培されています。
ナスタチウムはまた、民間薬としての利用や、忌虫薬としても利用されてきました。
一方で、ハワイ、ロードハウ島、ニュージーランドなどの地域では、ナスタチウムは“侵略的”*9)な種とされています。
- 注*9)侵略的(な種):
本来の生育・生息地以外に侵入した種で、特に生態系や人間活動への影響が大きい生物
●ナスタチウムの薬効
ナスタチウムの花には、豊富なビタミンCが含まれています。100gあたり約130mgのビタミンCが含まれますが、これはパセリに含まれる量とほぼ同量です。さらに、ルテインは100gあたり45mg含まれ、食用植物としては最も高い量になります。
さらに、種子には26%のタンパク質と、10%の油分を含みます。
種子ポッドは成熟していない状態で収穫されますが、酢に加えてスパイシーな風味を添える調味料となります。
ナスタチウムは、消毒剤・創傷治癒薬草、去痰剤に対する草薬として、長い間利用されてきました。
植物のすべての部位に抗生物質の特性があり、葉の浸出液は細菌感染への抵抗力を高め、鼻カタル・気管支カタルや咳を減少させます。
ナスタチウムの葉には、抗菌性、抗真菌性、殺菌作用、緩下作用、浄化作用、利尿作用、通経作用(=月経を改善する作用)、去痰作用、刺激作用があるとされます。
ナスタチウムに含まれる配糖体が水と反応することで、抗生物質を産生します。
ナスタチウムの薬効としては、好気性胞子形成細菌に対しての抗生特性を持ち、抽出物は抗がん特性も持っています。
泌尿器系疾患、呼吸器感染症、壊血病、肌と髪の荒れに対しては、内服薬として利用されます。さらに、脱毛、軽傷、皮膚発疹の治療などに対しては、外用薬として利用されます。
また、ナスタチウムは、ガーデニングでのコンパニオン・プラントとしても好まれます。多くのウリ科植物の害虫を撃退し、アブラナ属の植物、特にブロッコリーとカリフラワーを害虫から守ります。