目次
中央アジアの地理と気候
中央アジアとは、地理的に、カスピ海より東側かつ中国より西側の地域を指します。
国としては、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタン、トゥルクメニスタン、アフガニスタンの6国が、通常、中央アジアと呼ばれます。(2019年3月現在)
このエリアは、カザフスタンとトゥルクメニスタンがカスピ海に接しており、また内陸ではカザフスタンの北部(=南北に二分した北半分程度)に亜寒帯気候が見られます。それ以外の地域、カザフスタンの国土の南半分より南部の地域は、ほぼ全体が乾燥した砂漠気候や、ステップ気候の地域です。
また、北部の湿潤帯、南部の乾燥帯の間には、半乾燥地帯の草原が広がります。
ケッペンの気候区分
ケッペンの気候区分では、中央アジアの気候区分は、北部から、以下のようになります。
(以下、アルファベットの記号は、上の気候図の各区分)
- 亜寒帯湿潤気候(亜寒帯)Dfa, Dfb, Dfc
- 湿潤大陸性気候*1)(亜寒帯)Dfa, Dfb, Dwb, Dsa, Dsb
- 高地地中海性気候(亜寒帯)Dsa, Dsb, Dsc
- ステップ気候(乾燥帯)Bsh, Bsk
- 低温砂漠気候(乾燥帯)Bwh, Bwk
- 高温夏季地中海性気候(温帯)Csa
- 注*1)湿潤大陸性気候:
元々ケッペンの気候区分には無かった気候区で、トレワーサが後になって修正した気候区分
亜寒帯湿潤気候(亜寒帯)
Dfa, Dfb, Dfc
気温の年較差が大きく、夏は平均気温が10度を越し温暖ですが、冬は-3℃を下回る低気温で、積雪します。特に真冬はとても寒さが厳しくなります。そのため、年間の気温差が大きいのが特徴です。雨は年中平均して降り、湿度もあります。
寒さの深まる北部では、土壌が凍結するため農業には不向きで、凍結した土壌でも生育できる針葉樹林帯(=タイガ)が広がります。
夏はそれなりに気温が上がるため、南部の地域では農業が可能になります。
中央アジアでは高地にこの気候帯があり、カザフスタンの北部や東部、キルギスの中央部にわずかに見られます。
湿潤大陸性気候(亜寒帯)
Dfa, Dfb, Dwb, Dsa, Dsb
ケッペンの気候区分では、亜寒帯湿潤気候に含まれる区分「Dfa, Dfb」と、次の高地地中海性気候に含まれる区分「Dsa, Dsb」が、ともにこの湿潤大陸性気候にも区分され、さらに中央アジアにごくわずかに含まれる「Dwb」もこの気候に含まれています。
季節は四季の変化があり、森林は針葉樹と広葉樹の混合林となります。
この地域では、麦・小麦・豆・芋などの穀物が生産できます。
中央アジアでは、高原地帯にこの気候帯が存在し、カザフスタンの北部や東部、さらに南部のキルギスとウズベキスタンの国境近くや、キルギスの中央部と西部、タジキスタンの西部、ウズベキスタンの東部に見られます。
高地地中海性気候(亜寒帯)
Dsa, Dsb, Dsc
地中海性気候(温帯)やステップ気候(乾燥帯)に隣接する地域で、標高差のある高地の場所に発生し、亜寒帯となる珍しい地域です。高地のために周囲の気候帯よりも気温が下がり、夏は乾燥するものの、冬には積雪のため湿潤になるのが特徴です。
中央アジアでは、カザフスタンの南部のキルギスとウズベキスタンの国境近くや、キルギス・タジキスタンの西部、ウズベキスタンの東部に見られます。
ステップ気候(乾燥帯)
Bsh, Bsk
中央アジアに存在するステップ気候のほとんど(アフガニスタン南部のステップ気候地帯以外)では、黒や栗色の土壌に、ステップとよばれる丈の短い草が生えた草原が広がっています。昼と夜の気温差が激しく、降雨量は年間を通して少ないものの、雨季には少量の雨が降ります。
中央アジアでは、カザフスタンの北半分の地帯から東部にかけて、キルギスとタジキスタンの北部から西部にかけて、またウズベキスタンとトルクメニスタンの東部にかけてつらなるように分布しています。
低温砂漠気候(乾燥帯)
Bwk
砂漠気候の地域では、年間を通して降水量が少なく、一日の気温の差がとても大きくなります。水の少ない砂漠のため植物はほとんど育ちませんが、砂漠の中でも水源のある地域(=オアシス)では、その場所の気温に即した植物が群生します。
砂漠気候には、緯度の低い地域にあり非常に高温な高温砂漠気候(BWh、熱帯砂漠とも呼ばれる)と、緯度や標高の高い地域の低温砂漠気候(Bwk、温帯砂漠とも呼ばれる)が存在しますが、中央アジアの砂漠地帯は、低温砂漠気候に相当し、中央アジア全体の中央部から南西部にかけて存在します。カザフスタンの中央~南西部、ウズベキスタン、トルクメニスタンの北西部から中央部にかけてが、この気候帯になります。
高温夏季地中海性気候(温帯)
Csa
地中海性気候は、夏は日差しが強く乾燥し、冬に一定の降雨がある気候です。主にヨーロッパの地中海沿岸に存在しますが、その他の地域にも存在します。
地中海性気候は、気温の高低によって細かく3区分されますが、そのうち最も気温が高いのが、中央アジアに存在する高温夏季地中海性気候 (Csa) です。
中央アジアでは、カザフスタンの南部から、ウズベキスタン、タジキスタン、アフガニスタンの、それぞれ国境近くに、この気候帯が存在します。ウズベキスタンの都市タシケントや、ステップ気候からの移行部のサマルカンドも、この気候にあたります。
中央アジアの風土と植生
中央アジアのうち、北部の湿潤な地帯では、生育する植物の種類が多くなり、草木の背丈も高くなります。南部の乾燥地帯に近づくほど、植物の背丈は低くなり、その種類も少なくなります。
また、砂漠地帯では、低木が多く見られますが、例えば、 ギョリュウ科(Tamaricaceae)の“Reaumuria soongorica(または、Reaumuria songarica)”、マメ科の“Caragana leucophloea”、アカザ科の“Anabasis brevifolia”、“Eurotia ceratoides”、“Haloxylon ammodendron” などが見られます。*2)
- 注*2)草原と砂漠の植物についての出典: 「日緑工誌, J.Jpn. Coc. Reveget. Tech., 37(4), 460-461, (2012) 特集「乾燥地の生態系とその課題」 1. 中央アジア乾燥地の自然と保全 中央アジア乾燥地の植生と砂漠化 程 云湘 鳥取大学乾燥地研究センター より
中央アジア山岳地帯
中央アジアの代表的な2つの山岳地帯である、パミール高原と天山山脈からなる地域は、「中央アジア山岳地帯」と呼ばれます。この山岳地帯は、世界各地に存在する「生物多様性ホットスポット」*3)のうちのひとつで、変化に富んだ生態系を持っています。
- 注*3)生物多様性ホットスポット:
地球規模での生物多様性が高いにもかかわらず、人類による破壊の危機に瀕している地域のこと。地域内の種子植物とシダ類のうち1,500種が固有のもので、かつ、地域内にもともと存在していた植物のうち70%以上がすでに破壊されていることが、生物多様性ホットスポットとされる条件。
生物多様性ホットスポット内に残された原始的な自然は、地球の陸地面積のわずか2.4パーセントを占めるのみ。植物の50%は、この生物多様性ホットスポットにしか生息していない。
標高の高い中央アジア山岳地帯は、その面積も広大です。中央アジア6ヶ国すべては、その国土のすべて、あるいは一部が中央アジア山岳地帯に含まれています。 中央アジア山岳地帯の中でも、有名なフェルガナ峡谷*4)は、非常に多くの固有植物種が生息しています。
- 注*4)フェルガナ峡谷: フェルガナ盆地とも呼ぶ。ウズベキスタン東部からキルギス、タジキスタンまで広がる地域。標高400~500mの肥沃な峡谷で、南西に広がっている。ナルイン川とカラダリヤ川が流入して合流し、他にも多くの川が流れ込んでいる。
山岳地帯のうち、標高が高い地域の大草原では、様々な種類の植物・ハーブが見られます。一方で、標高が低い地域の草原では、背の低い潅木群が見られます。
また、中央アジアの南北の中心に位置する草原では、イネ科ハネガヤ属(学名:Stipa)*5)が優占的に生育しています。半乾燥地帯の草原のため、他の草本はほとんど生育できない地帯です。
また、水分を植物内部に蓄積する「多肉植物」も見られます。
カザフスタンの風土と植生
カザフスタンは、中央アジア最大の面積を持つ国のため、その気候や風土、植物相も変化に富んでいます。
同時に、カザフスタンの中央~西部の地域は、ほとんどが広大な砂漠で、植物や森林はほとんど見られません。
カザフスタンに存在する森林は、その約70%がカザフスタン南部~南東部に位置しています。この地域の森林は特に生物多様性に富んでいます。その中でも、この地域の森林を構成する樹木として、サクソール(英名:saxaul、学名:Haloxylon ammodendron)の低木が非常によく見られます。その一方で、サクソールは絶滅危惧種に指定されている樹木でもあります。
一方、カザフスタン北部の森林では、カバノキ(カバノキ属、学名:Betula)と針葉樹の雑木林が見られます。これらの樹木は、主に薪として利用されます。
キルギスの風土と植生
キルギスは、別名「中央アジアのスイス」とも呼ばれることがあり、花々が一面に咲く美しい高原で有名で、「フラワーハイキング」としての観光名所にもなっています。中央アジアの中では、キルギスだけが、国内に砂漠が存在しません。
7月頃には、キルギスの草原では、ウスユキソウ属(学名:Leontopodium)のエーデルワイス(英名:edelweiss、学名:Leontopodium)の群生が咲き乱れる様子が見られます。
中央アジアに咲くエーデルワイスは、ヨーロッパで有名なエーデルワイス(学名:Leontopodium alpinum)とは別の亜種だとされており、中央アジア産のものは、「Leontopodium alpinum ssp. pamiricum」という学名で呼ばれます。
中央アジアの環境問題
世界の他の地域同様、中央アジアの地域でもまた、農耕のための開拓が進み、草原が減少してきているという問題があります。開拓された土地では、自然の草原に比べて、植物の種類が少ないという研究が報告されています。
カザフスタンの環境問題と自然保護
中央アジアの中で最もカザフスタンは広い国土を持つため、様々な種類の植物が確認されています。一方で、国土に砂漠の割合が多いことや、過放牧や森林破壊など人為的な開発による環境問題も存在し、1981年には、279種の最重要植物が絶滅危惧種として発表されました。さらに2001年にはその数が増え、400種の植物が絶滅危惧種と発表されています。
こうした自然環境の問題に対し、カザフスタンでは、積極的に自然保護区を設置してきました。
カザフスタンで指定されている、生物多様性の保護のため特別保護区(Specially Protected Area:SPA)は、2004年当時で、国内に106箇所が存在します。特別保護区には国立公園や自然保護区が含まれますが、特に植物に関しては、5つの州立植物園と、2つの州立森林保護区を擁しています。
また、カザフスタン政府は、1992年に「生物多様性保護条約」に署名し、1994年には同条約を批准し、生物多様性の保全に取り組んでいます。
カザフスタン政府は、森林破壊を食い止めるための対策も取り始めました。 パブロダール州イルティッシュ地域の針葉樹林帯を中心とした、北部・北東部の地域で、大規模な森林伐採を禁止する「特別貴重森林」を指定しました。さらに2004年には、以後10年間における針葉樹とサクソールの大規模な伐採を禁止しました。
アクス=ジャバグリ自然保護区
世界遺産に指定されている西天山のうち、シムケント東部・キルギス国境近くの「アクス=ジャバグリ自然保護区(Aksu-Zhabagly Nature Reserve)」は、中央アジアで最も古い自然保護区です。その広大な敷地は、標高が1100m~4200mと高低差もあり、多様な植物を保護しています。
原種のチューリップ
アクス=ジャバグリ自然保護区は、チューリップやリンゴの原種で有名です。
例えば、チューリップの原種 “トゥルキスタン・チューリップ(学名:Tulipa turkestanica)” は、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンなどの中央アジア、また、中国・新疆(しんきょう)ウイグル自治区などの地域を原産とする原種のチューリップです。
現在、私たちが目にするチューリップは品種改良された種で、40~50cmの背丈で、花はカップ状ですが、原種のチューリップは10~30cmの背丈と低く、地面に近い高さで、ユリのように花びらが開いた花を咲かせます。
トゥルキスタン・チューリップは、中央アジアの標高1800~2500m程の高地で、岩場や石の多い斜面、川の縁などに自生しています。現在では、この原種のチューリップは、原産地以外でも観賞用植物にされており、例えばイギリスなどヨーロッパの北部では、3月中旬に開花します。