インド亜大陸のハーブ

インド亜大陸のハーブ IV ~インド亜大陸のメディカルハーブ:重要な7種のハーブ

トゥルシー(ホーリー・バジル)

インド亜大陸のメディカルハーブ:重要な7種のハーブ

インド亜大陸は、その気候からも、また長い歴史を持つ伝統医療アーユルヴェーダの国インドを抱えることからも、非常に豊富なメディカルハーブとその歴史を持っているといえます。その中でも、特に重要でポピュラーな、そしてパワフルで万能なメディカル・ハーブを、ご紹介します。

アシュワガンダ

(ashwagandha、学名:Withania somnifera)

アシュワガンダ

アシュワガンダ

アシュワガンダは、ナス科、多年性の常緑低木です。背丈は約90cm~2mほどで、あまり大きくは成長しません。
平地・乾燥地に分布し、インド、ネパール、パキスタンなどに自生しています。

また、インド亜大陸以外でも、カナリア諸島から南ヨーロッパ、アフリカ、中国の甘粛省にかけて分布しており、この地域には約20種の原種が見られます。水はけの良い乾燥した土壌を好むことから、インドでは19世紀後半から大規模に栽培されるようになりました。

アシュワガンダの葉と花

アシュワガンダの葉と花

インドでは、古くからアーユルヴェーダで利用される薬草として、よく知られています。
特に、アーユルヴェーダで”アダプトゲン”*1)と呼ばれるハーブに属し、その高い効果が認められています。

  • * 注1)アダプトゲン:
    心理的・肉体的ストレスへの抵抗能力を高める働きのある天然ハーブのこと。抗酸化物質を含むことが特徴のひとつ。古代インドからアダプトゲンの概念は存在したが、近年、特に研究がなされ、1947年、Nikolai Lazarev博士が「体に悪影響を与える物理的、化学的、または生物学的なストレッサーを、非特異性の抵抗力を高めることによって撃退するもの」と、アダプトゲンを定義した。

薬効が利用されるのはアシュワガンダの根で、抗ストレスのハーブとしてもよく知られています。

アシュワガンダの根をカットしたもの

アシュワガンダの根をカットしたもの

また、”アシュワガンダ”とはサンスクリット語で「馬の匂い」の意味ですが、実際にアシュワガンダの新鮮な根には、独特の刺激臭があります。精力剤として利用されることの多く、このこともまた、”アシュワガンダ”の名前の由来とも言われ、「インドのバイアグラ」、「インドの朝鮮人参」などと呼ばれることもあります。またインドでは、長寿薬としても知られています。

また、学名の”somnifera”は「誘眠」の意味ですが、アシュワガンダには鎮静作用もあります。

アシュワガンダの薬効

上に挙げたように、アシュワガンダの薬効としては、抗ストレス、鎮静・催眠などがありますが、その他にも、

免疫力強化、抗炎症作用、関節痛・腰痛の緩和、血液浄化、滋養強壮、リウマチの改善、脳機能改善

などが認められています。

特に近年、研究が進められているのは、アシュワガンダの抗がん作用です。アシュワガンダには、がん細胞の増殖を抑え、老化を防ぐ効果があることが、日本の独立行政法人・産業技術総合研究所の動物実験によって発表されました。この研究によると、アシュワガンダの葉からアルコール抽出した成分に、がん細胞を死滅させ正常細胞の老化を防ぐ効果があることが分かりました。

こうしたアシュワガンダの高い薬効のため、海外でも多く市販されてきました。
以前は日本では食品扱いのハーブであったアシュワガンダですが、こうした薬効が高く認められていることから、日本でも2013年1月23日より医薬品成分に指定されました。これにより、生薬のアシュワガンダのみでなく、アシュワガンダを成分に含むサプリメントなども流通に規制がかかり、医薬品として医師の処方が必要になりました。→ハーブ周辺の法律

最近では、日本国内にて、アシュワガンダががん細胞を死滅させ、正常細胞の老化を防ぐ効果が、動物実験による研究により発表されています。アシュワガンダに含まれる成分”ウィゼノン”が、ガン抑制遺伝子を活性化させ、がん細胞の増殖抑制や正常細胞の老化防止を導くことが分かりました。

トゥルシー(ホーリーバジル)

(英名:Tulsi または Holy Basil、和名:カミメボウキ(神目箒)、学名:Ocimum sanctum L. または Ocimum tenuiflorum)

緑の葉のトゥルシー

緑の葉のトゥルシー

トゥルシーは、芳香性のあるシソ科の植物で、背丈30~60cmほどに成長します。
葉は周縁がやや鋸歯状で対になって強い香りがあり、花は紫がかった色をしています。

トゥルシーという呼び名は、ヒンドゥー語の名称で、英語ではホーリーバジル(Holy Basil)と呼ばれます。また、サンスクリットでは「トゥラシー」と呼ばれ、これは「比類なき者」を意味します。また、「ハーブの女王」とも呼ばれます。

トゥルシーは、その強い芳香性と収斂作用が特徴です。

トゥルシーはアジア、オーストラリアの熱帯地域が原産で、栽培品種や帰化植物として、世界各地に広がりました。
インド亜大陸に生息する様々な種のトゥルシーは、その生物学的な起源が解明されており、トゥルシーの起源(原産地)は、北インドとされています。

トゥルシーにはいくつかの種類がありますが、薬草として利用される主なものは、以下の3種です。

1. クリシュナ・トゥルシー

(Krishna Tulsi、別名:shyama tulsi、学名:Ocimumu sanctum(シソ科メボウキ属))

クリシュナ・トゥルシー(日本・九州の家庭菜園にて)

クリシュナ・トゥルシー(日本・九州の家庭菜園にて)

クリシュナ・トゥルシーは、成長につれて葉や茎が赤黒っぽい紫色になるのが特徴です。
アーユルヴェーダで薬草として利用され、「黒トゥルシー」とも呼ばれます。また別名で、シャーマ・トゥルシー(shyama tulsi)と呼ばれることもあります。
いくつかの種類のあるトゥルシーの中でも、クリシュナ・トゥルシーは薬効がとても高いといわれています。

その名になっている「クリシュナ」は、ヒンドゥー教の神ヴィシュヌが変化した神の名前です。クリシュナには「黒い」という意味があり、実際にクリシュナ神は黒い肌をしています。

クリシュナ(中央の黒い身体)と女性たち

クリシュナ(中央の黒い身体)と女性たち

2. ラクシュミ・トゥルシー(または ラマ・トゥルシー)

(Rama Tulsi、学名:Ocimumu sanctum(シソ科メボウキ属))

ラクシュミ・トゥルシー(日本・九州の家庭菜園にて)

ラクシュミ・トゥルシー(日本・九州の家庭菜園にて)

ラクシュミ・トゥルシーは、ラマ・トゥルシーの名で紹介されることもあります。さらに、種苗会社などでは“カプール・トゥルシー”の名で販売されることもあり混乱しますが、どれも同じ種(学名:Ocimumu sanctum)の植物です。
また学名を同じくするように、本来、クリシュナ・トゥルシーとは同じ品種であり、葉の色によって呼び名が異なっています。

ラクシュミ・トゥルシーもまた、アーユルヴェーダで薬草として利用されます。淡い緑色の葉のため「白トゥルシー」とも呼ばれますが、暗めの緑色の葉のものあります。

成長すると70cm~1mほどの高さになり、またクリシュナ・トゥルシーよりも早く成長します。

3. ヴァナ・トゥルシー

(Vana Tulsi、学名:Ocimum gratissimum または Ocimum tenuiflorum)(シソ科オキムム属)

ヴァナ・トゥルシー

ヴァナ・トゥルシー

ヴァナ・トゥルシーは、「野生のバジル」という意味で、香りが強く、毒素を中和する効能に優れています。
花房は白く、また葉は大きめで明るい緑色をしています。

ヴァナ・トゥルシーの白い花

また、クリシュナ・トゥルシーとラクシュミ・トゥルシーが、クローヴのような高い香りがあるのに対し、ヴァナ・トゥルシーはほろ苦い香りと味を持ちます。これらの香りと味、また成分の違いから、上の3つのトゥルシーは、インドではブレンドされてお茶などに利用されることが多くあります。


これらの3種のトゥルシーは、インドではどれもポピュラーですが、この3種の全てを“トゥルシー”と呼ぶ地域と、そうではない地域があります。地域によって、トゥルシーと呼ぶ種が、微妙に異なるようです。

トゥルシーはこのように、複数の種類がありますが、その育つ環境や土に影響されやすい植物のため、それによってそれぞれの種類のトゥルシーの成分も、微妙に異なっています。そして、上記のトゥルシーがよく知られたトゥルシーの種類ですが、その他にも、“トゥルシー”と呼ばれるものには、以下の種類も知られています。

4. カプール・トゥルシー

(Karpoora Tulsi、英名:Camphor basil、学名:Ocimum kilimandscharicum)

カプール・トゥルシー(Ocimum kilimandscharicum)

カプール・トゥルシー(Ocimum kilimandscharicum)

カプール・トゥルシーは、ヒンディー語で「kapurtulsi」、サンスクリットで「karpuratulasi」という名称です。通称では、「グリーンホーリーバジル」と呼ばれることもあります。

同じ“トゥルシー”の名で呼ばれますが、このトゥルシーは他の北インド原産のトゥルシーとは異なり、北アフリカを原産とする多年草です。背丈は、成長すると180cmほどになります。現在でも、ルワンダなどアフリカで野生化したカプール・トゥルシーから、精油が製造されています。

一方で、このカプール・トゥルシーとは別の種類になるクリシュナ・トゥルシーと同じ学名「Ocimum sanctum syn Ocimum tenuiflorum」の植物と説明されることもあります。これらは、別の種類のトゥルシーになります。
そして、アメリカで30年以上栽培され販売されており「カプール・トゥルシー」の名で馴染んでいるのは、クリシュナ・トゥルシーと同じ学名「Ocimum sanctum syn Ocimum tenuiflorum」のほうのトゥルシーのようです。また、本来トゥルシーとされる品種は、「Ocimum sanctum syn Ocimum tenuiflorum」の学名を持つ種になります。トゥルシーの名称と、その植物学的な同定は、かなり複雑な事情があるようです。

クリシュナ・トゥルシーなどとは異なる種のこのカプール・トゥルシーには、茎と葉の裏に細かい毛がついているのが特徴です。葉は灰色がかった緑色で、甘い樟脳(カンファー)の香りがします。この葉は、伝統的に、紅茶や薬草として利用されます。

カプール・トゥルシー(Ocimum kilimandscharicum)

カプール・トゥルシー(Ocimum kilimandscharicum)

カプール・トゥルシーは、薬として以外にも、その抗菌作用から化粧品としても利用されています。またその葉から、エッセンシャルオイルも作られます。

その葉を干したものは、穀物を保存する際に、虫除けとして一緒に保存されます。

上記の4種類が、“トゥルシー”の名称で一般的によく知られるものです。

● 薬草としての利用

トゥルシーは、インドでは、アーユルヴェーダで数千年に渡り、薬草として利用されてきました。アーユルヴェーダの古典文献『チャラカ・サンヒター』にも、トゥルシーが記載されています。

トゥルシーもまた“アダプトゲン”のハーブですが、その中でもトゥルシーは特に、「異なった体内プロセス間のバランスをとる」働きをするとされています。ストレスに順応し、癒しの効果を持ちます。
また、アーユルヴェーダでは「不老不死の薬」とも呼ばれ、長寿のための薬草でもあります。

クリシュナ・トゥルシー(学名:Ocimum tenuiflorum)

クリシュナ・トゥルシー(学名:Ocimum tenuiflorum)

トゥルシーの薬効

トゥルシーは、主に以下の薬効が知られています。

抗ストレス、抗ウイルス、抗真菌、身体の持久力・免疫力の強化、栄養分の消化吸収の改善

その抗菌性の高さから特にトゥルシーは、“天然の抗菌物質”であるナチュラル・メディスンとしてよく知られています。

その他、トゥルシーは、以下の症状や疾病に対する薬として利用され、治療効果が挙げられています。

風邪、頭痛、胃の症状(胃潰瘍など)、炎症、様々な中毒、マラリア、ガン、心臓病、関節炎、糖尿病、認知症、歯周病など

トゥルシーの薬効:最近の研究

また最近の研究では、トゥルシーには、血糖値を減少させる効果があることが示され、糖尿病の効果的な治療薬になるとされました。同時に、トゥルシーの効果によって総コレステロール値がかなりの減少したことも示されています。この血糖値を減少させる効果は、トゥルシーが抗酸化特性を持つことに由来します。

さらに昨今では、放射能被爆と白内障の予防に対しての効果が、期待されています。

トゥルシーの日常的な利用:ハーブティーとして

日常的には、トゥルシーはハーブティーとして飲まれ、健康維持に利用されます。トゥルシーにはカフェインやなどの覚醒成分を含んでいないため、日常的に摂取しても安全です。
ハーブティーは、葉を粉末にしたものから入れたり、また生の葉を煮出したり、さらにギーと混ぜるなど、様々な形で飲まれます。

また環境的には、蚊など有害な虫を忌避する効果もあります。

ヒンドゥー教とトゥルシー

トゥルシーはまた、ヒンドゥー教の聖なる植物で、女神ラクシュミー*2)の化身とされています。そして、ヴィシュヌ神への礼拝では、トゥルシーの、特にその葉が用いられます。

幸運の女神・ラクシュミー(1848~1906年頃の作品)

幸運の女神・ラクシュミー(1848~1906年頃の作品)

  • * 注2)ラクシュミー:
    ラクシュミーはヒンドゥー教の女神で、美と富と豊穣と幸運を司る。ヒンドゥー教の最高神の1人ヴィシュヌの妻。その姿は、蓮華の目と蓮華色の肌で、蓮華の衣をまとい、手に水蓮を持ち、紅い蓮華の上に立っている。

ヒンドゥー教の信者の家では、伝統的に、中庭の中心にトゥルシーが植えられていました。

ビシュヌ神

また、死を前にした者に対して、トゥルシーの花弁を水に入れ、魂が昇天することを願ってささげられます。

ヒンドゥー教で尊崇されるトゥルシーは2種類で、クリシュナ・トゥルシと、ラクシュミ・トゥルシーです。濃緑~紫色の葉のクリシュナ・トゥルシーは、ハヌマーン*3)の崇拝で重要な役割を持っています。インドのバナラシでは、ハヌマーンを供える寺院でよく見られます。

ラーマの弟のため、薬草のある山を届けるハヌマーン(1910年代の『the Ravi Varma Press』より)

ラーマの弟のため、薬草のある山を届けるハヌマーン(1910年代の『the Ravi Varma Press』より)

  • * 注3)ハヌマーン:インド神話に登場するヴァナラ(猿族)の1人。ハヌマーンという名は、「顎骨(がっこつ:“顎(あご)の骨”の意味)を持つ者」という意味。変幻自在の体で、体の大きさや姿を自在に変え、空を飛ぶ。中国に伝わり、『西遊記』の登場人物・孫悟空のモデルになったという説もある。

特に、ヴィシュヌ派の信徒たちは、伝統的にトゥルシーの茎や根で作った「ジャパ・マーラー」(japamālā、数珠)を、イニシエーションの重要なシンボルとして使います。

トゥルシーの木で作った数珠(ジャパ・マーラー)

トゥルシーの木で作った数珠(ジャパ・マーラー)

トゥルシーで作った数珠=「トゥルシー・マーラー」は、縁起の良いお守りとして身につけられます。特に、ハヌマーンの加護が受けられると信じられています。

シャタバリ

(インド名:Shatavari、和名:野生アスパラガス、学名:Asparagus racemosus)

シャタバリの花

シャタバリの花

シャタバリは、クサスギカズラ属アスパラガス科の多年草です。
原産地は、南インドやアフリカで、インドやネパールに自生しています。

薬用としては根が利用され、乾燥させた根を粉にした生薬が、利用されます。約4000年以上前から、薬用として用いられてきた非常に古い歴史があります。

シャタバリは「準アダプトゲン」とされ また「ラサーヤナ」(=滋養強壮の効果を持つハーブ)にも分類されます。

自生するシャタバリ(インド中央部・サプトラ山脈)

自生するシャタバリ(インド中央部・サプトラ山脈)

シャタバリとドーシャ

シャタバリは、アーユルヴェーダの体質では、火の要素を持つピッタを抑えるとされますが、女性にとっては3つのドーシャすべてをバランスさせる万能のハーブです。

シャタバリはドーシャで火の要素を持つ“ピッタ”を抑える:ピッタ=肉体的には筋肉質な身体

シャタバリはドーシャで火の要素を持つ“ピッタ”を抑える:ピッタ=肉体的には筋肉質な身体

シャタバリ = 女性のためのメディカル・ハーブ

シャタバリはアーユルヴェーダの長い歴史の中で、女性の健康を守ってきたハーブです。女性の生涯に渡り、女性の身体の健康を助けてきました。女性の身体のホルモンバランスを整え(特に生殖器ホルモンを強壮)、若返りを助け、更年期障害に対処します。

女性ホルモンのエストロゲンに似た成分である植物性エストロゲンが含まれていることから、医学的にも、女性のホルモンのレベルを正常化することが確認されています。

さらに、シャタバリに含まれる成分には、免疫力を強め、ストレスを軽減し早期老化を防ぐ滋養分や、血液をきれいにし、生殖器への栄養となる成分も含まれています。

シャタバリという名は“100本の根を持つ植物”という意味ですが、そこから「百人の夫を持つ」という意味とも言われます。これは特に、女性の妊娠・出産と育児を助けるハーブであり、そのために女性の身体強壮を促すことを現しています。

具体的には、以下のような効果を発揮します。

生理不順・生理痛改善・PMSの症状緩和、安産、母乳の出をよくする(妊娠時に摂取すると乳児の免疫力も向上する)、更年期症状の改善など

特に、更年期に入る前にシャタバリを採り始めると、更年期が楽になるといわれます。

また、体型を維持するためにも利用され、ファッションモデルはミスユニバースの女性たちがシャタバリを利用しているという話題もありました。

シャタバリ入りのハーブ・ミックス・スープの元。他には、フウセンカズラ、オオバゲッキツ、ゴツコラが含まれている(スリランカにて販売)

シャタバリ入りのハーブ・ミックス・スープの元。他には、フウセンカズラ、オオバゲッキツ、ゴツコラが含まれている(スリランカにて販売)

アシュワガンダが、男性の機能を正し高めるアダプトゲン・ハーブだとすれば、シャタバリはその女性版だといえます。

主に女性のためのハーブとして有名ですが、男性がシャタバリを摂取すれば、精子量が増加すると言われます。

さらに男女ともに、

消化不良・胃潰瘍の改善、免疫力向上、病気への抵抗力向上、虚弱体質の改善(子供にも)、筋肉の増加、血圧低下、緊張性の心臓不調の改善

などにも、効果を現します。

ゴツコラ

(Gotu kola、別名:センテラ、ブラフミー(Brahmi)、英名:Indian pennywort、和名:ツボクサ(壺草)、学名:Centella asiatica)

ゴツコラ(ツボクサ、ブラフミー)

ゴツコラ(ツボクサ、ブラフミー)

ゴツコラは、セリ科の多年生草本。また、ブラフミー*4)という別名でも呼ばれます。別名のブラフミーは、アーユルヴェーダにおいて特に呼ばれる名ですが、「ブラフマンの知恵」という意味に由来しています。

  • * 注4)ブラフミー:「ブラフミー」という名は、「バコパ(学名:Bacopa monnieri)」という植物の別名でもありますが、バコパとゴツコラは別の種類の植物です。
    バコパ(学名:Bacopa monnieri)

    バコパ(学名:Bacopa monnieri)

ゴツコラは緑色の小さめの葉(3cm程度)を持ちますが、茎や葉柄は赤みを帯びていることもあります。地を這うように茎を伸ばし、その茎の節から根を伸ばします。

ゴツコラの葉

ゴツコラの葉

メディカルハーブとして医療に、また食用にされるゴツコラは、インドや東南アジアなどの亜熱帯地方で栽培されています。その他にも、マダガスカルでは輸出用として乾燥したゴツコラを生産しています。

ゴツコラの薬効

ゴツコラの薬効は、非常に多くありますが、主に、

免疫強化、抗酸化・抗菌、抗炎症、利尿・解毒、沈静(うつ症状・不眠症の緩和)、血液循環向上、神経系・脳への強壮、記憶力向上、美肌、ダイエット効果、内臓機能増進(強心、肝臓・腎臓の機能増進)、消化器系の機能改善、傷の治療促進(コラーゲン合成促進)、毛細血管拡大、精力アップ、毛髪育成

また、ゴツコラの効果が適用できる症状や疾病として、以下が知られています。

疲労、皮膚疾患、循環器系疾患、皮膚疾患、足のむくみ、老化、認知症・アルツハイマー、リューマチ、白内障善、気管支炎、便秘

「ブラフマンの知恵」という意味からつけられた「ブラフミー」という呼び名にふさわしく、ゴツコラは、神経系や脳を活性化する強壮剤であり、こうした目的で高齢者に処方されていました。また、ハンセン病など潰瘍性皮膚疾患の治療にも利用されていましたが、かつてはこうした病は、治癒の非常に難しかった病です。

欧米でもツボクサはメディカルハーブとして18世紀から利用されています。「強皮症」の緩和のためにイタリア処方された後、現代でも利用されています。ツボクサの主要成分“トリテルペノイド化合物”の抗酸化作用が、静脈瘤、下肢腫脹などの循環器系疾患の治療に有効とされます。さらにゴツコラの持つ、コラーゲンの生成や、繊維芽細胞(皮膚の結合組織の主成分)の活性化促進効果により、創傷や乾癬などの外傷治療にも利用されています。

アーユルヴェーダでは最も重要なハーブのひとつとされているとおり、ゴツコラの持つ薬効としては、以上のように非常にたくさんの効果が知られています。

ゴツコラ入りのハーブ・スープの元。(スリランカにて販売)

ゴツコラ入りのハーブ・スープの元。(スリランカにて販売)

このように、身体的な薬効に非常に優れたゴツコラですが、一方で、ゴツコラは精神的な効果も高く認められているハーブです。
インドの一部の地域では、ゴツコラは最もスピリチュアルなハーブと考えられており、ヨガ行者たちは、瞑想状態を高めるためにゴツコラを焚いて利用します。心を浄化し、高いサットヴァ(浄化された状態)に至るための、精神的明晰を与えるハーブだとされています。

ゴツゴラに含まれる成分

ゴツコラの持つ多くの薬効には、その有効成分が以下のように関わっています。
特に、その有効成分として、「トリテルペン*5)、タンニン、配糖体、精油、ヘテロシド、樹脂など」が効果的に働いています。

  • * 注5)トリテルペン:ゴツコラの成分のひとつのトリテルペンは、抗がん作用が期待されています。また、抗酸化作用、抗炎症、抗腫瘍、抗アレルギー効果、脂肪やコレステロールなどの分解促進作用も認められています。トリテルペンは、高麗人参やきのこ類などにも含まれています。
カルシウム、ナイアシン、セント酸、センテラ酸、鉄、ビタミンB1、アジア酸、マディッカソ酸、アジアコシド、ビタミンC、カロチン、トリテルペン、サポニン
  • 抗酸化・抗菌作用:成分の“トリテルペン”による作用。
  • 利尿・解毒作用:体内に取り込まれた化学物質や薬剤を、体内で無毒化します。成分の“ビタミンC、サポニン、アルカロイド”が利尿作用を促し、体中の毒素を排出します。
  • 沈静作用:中枢神経系を安定させることで、うつ症状や不眠症を緩和します。成分の“カルシウム、ナイアシン、セント酸、センテラ酸”が関与しています。
  • 美肌効果、皮膚疾患防御:コラーゲンの生成を促すことで、肌を美しくし、顔の色艶を良くします。成分の“アジア酸、マディッカソ酸、アジアコシド、ビタミンC、カロチン”が、これらに関与しています。“カロチン”は、アジア酸とマディッカソ酸が糖分と結合し、コラーゲン、ヒアルロン酸の合成を促します。
  • 傷の治療を促進:“コラーゲン”の合成を促し、傷や湿疹の回復を助けます。
  • 精力アップ:成分の“鉄、ビタミンB1、ナイアシン”が作用します。

こうしたゴツコラの多くの薬効や有効成分から、WHO(世界保健機構)はブラフミーを「21世紀の驚異的薬草」、「保護すべき薬用植物の中でもっとも重要なものの一つ」として発表しました。これによりゴツコラは、世界中の注目を集め、様々なサプリメントなども作られるようになりました。

ゴツコラの花

ゴツコラの花

ゴツコラのドーシャ

アーユルヴェーダの3つのドーシャでは、ゴツコラはピッタを強壮させ、ヴァータを抑制し、さらに過剰なカパも抑制します。神経系を落ち着かせるのに優れたハーブです。

ゴツコラと、ゴツコラを枯らしていく背の高いタケニグサの花。

匍匐(ほふく)性のゴツコラは湿地・沼地に生息する。ゴツコラの場所から、ゴツコラを枯らしていく背の高いタケニグサの花が咲いている。

ゴツコラの注意点

ゴツコラには副作用はないと言われていますが、まれに頭痛や眠気が出ると言う報告もあります。
また、ゴツコラの成分から、肝臓病の薬を飲んでいる人、皮膚がんの人、妊娠を望む女性や、妊娠中・授乳中の女性は、ゴツコのサプリメントや、ゴツコラを含んだ料理は摂取しなほうが良いとされています。ゴツコラが入ったサプリメントなどの服用はしない方が良いです。

グッグル

(没薬の仲間)Guggul(Commiphora mukul syn Commiphora wightii)

グッグル(インド南西部・ペラボア(Peravoor)近く)

グッグル(インド南西部・ペラボア(Peravoor)近く)

グッグルはカンラン科ミルラノキ属の低木・開花植物です。
北アフリカ・中近東から中央アジア、インド、バングラディッシュ、パキスタンなどに自生しています。これらの地域の中でも、特に北インドの乾燥・半乾燥地帯で最もポピュラーな植物です。

グッグルという名は、サンスクリット語で「病気から守るもの」という意味を持ち、インドではその薬効が良く知られており、たいへん馴染みのある植物です。

グッグルの栽培

グッグルの樹皮からは、ゴム状の樹脂が採れます。このため、インドとパキスタンでは、グッグルを商業利用のために栽培しています。

グッグルの薬用利用

グッグルは、アーユルヴェーダにおいて3000年ほど前から利用され、重要な植物とされてきました。アーユルヴェーダでは、グッグルの樹脂が利用されます。また、アーユルヴェーダではグッグルはよく利用されますが、グッグルのみの使用ではなく、他のハーブと共に利用されることが多いハーブです。

グッグルの樹脂

グッグルの樹脂

近年は、アメリカなどでもその薬効が注目され、サプリメントなどとして販売されています。

一方で、グッグルの過度の採取のために、インドでの2つの生息地、グジャラートとラージャスターンでは、世界保健連合(IUCN)の「絶滅のおそれのある種」の「レッドデータリスト」に加えられました。これに対し、インドの国立薬用植物委員会は、グジャラート州カッチ県(Kutch District)の500~800ヘクタールの土地でグッグルを栽培するプロジェクトを開始しました。

自生するグッグル

自生するグッグル

グッグルのドーシャ

アーユルヴェーダのドーシャでは、グッグルはヴァータとカファを鎮め、またラサーヤナ(若返り)効果のあるハーブとされます。一方、温性であるため、長期に摂取するとピッタを若干増やします。

グッグルの薬効

グッグルの薬効としては、以下がよく知られています。

抗炎症、殺菌、美肌、抗炎症、デトックス、免疫強化、血液浄化、コレステロール正常化、体重正常化(体重減少)、抗酸化、抗真菌(殺菌)・抗炎症、神経鎮静・鎮痙、去痰、収斂、甲状腺活性化、血小板凝集阻害、LDLコレステロールの肝代謝刺激、白血球を増やす、若返り、細胞(特に神経細胞)の成長促進、食欲増進、白血球を増やす、肺の浄化、皮膚・粘膜の強化

また、グッグルが効果を発する症状として、以下が挙げられます。

高脂血症、動脈硬化、生活習慣病、アテローム性動脈硬化症、甲状腺機能低下症、高コレステロール血症、高脂血症、関節炎、リウマチ、痛風、腰痛、神経系疾患、神経衰弱、糖尿病、気管支炎、咳、消化不良、痔、膿漏、皮膚疾患、潰瘍、腫瘍、肥満、関節炎・関節痛、生理不順、喉の炎症・口内炎(うがい液として利用)

これらの薬効・効果には、グッグルの以下の成分が関わっています。

  • 生活習慣病の予防・改善効果:
    成分の植物ステロール“グーグルステロン”の働きで、血液中のコレステロール値を抑え、動脈硬化や心筋梗塞、高コレステロール血症などの生活習慣病を予防します。
  • 炎症や痛みを抑制し、関節痛を緩和する効果:
    成分の“グーグルステロン”は炎症促進物質の働きを抑制する働きを持ち、関節炎の予防や皮膚炎の予防に有益だとされます。この抗炎症作用から、関節痛の予防にも役立ちます。
  • 美肌効果:
    グッグルの持つ抗菌作用から、特にニキビの原因菌のひとつ“アクネ菌”の増殖を抑えます。さらに、グッグルの成分“トリヘプタイン”は、エラスチンの分解を抑制し、ニキビ予防や美肌効果が期待できます。
グッグルの表札/医学的な適用も記載されている(インド・プネー(Pune))

グッグルの表札/医学的な適用も記載されている(インド・プネー(Pune))

グッグルの機能性成分

近年の研究により、グッグルの成分の解明が進んでいます。
その“機能性成分”として、植物ステロール*6)の一種である“グーグルステロン”が発見されました。

  • * 注6)植物ステロール:植物の細胞を構成する成分のひとつで、広く植物に含まれる。特に、豆類や穀類の胚芽に多く含まれる。植物ステロール(コレステロールによく似た働きをする植物由来の成分)は資質の一種である点ではコレステロールと同様ですが、コレステロールが動物の細胞膜構成成分であるのに対し、植物ステロールは植物の細胞膜構成成分です。また、コレステロールが体内で吸収されるのに対し、植物ステロールはほとんど体内で吸収されない点が特徴です。
グッグルを摂取する際の注意

上記のグッグルの機能性成分“グーグルステロン”は性ホルモンに似た作用を持っているため、妊娠中の女性やホルモン治療中の方には、摂取が禁止されています。また、メディカルハーブのセントジョーンズワート(学名:Hypericum perforatum)や、高脂血症の治療薬を飲用中の方にも、グッグルの摂取は注意が必要です。

セントジョンズワート(和名:セイヨウオトギリ)

セントジョンズワート(和名:セイヨウオトギリ)

グッグルの他の利用

グッグルの樹脂は、ミルラのような香気を持っており、香水にもよく利用されます。ヘブライ語、古代ギリシア語、ラテン語において「bdellium(デリアム)」*7)として知られていた製品と同じものとされます。

  • * 注7)デリアム:カンラン科の数種の植物から採る芳香樹脂、またその木。聖書に登場する“ブドラク”とも解釈されている。

また、この香りは、悪霊を追い払う目的でも使用されていました。

シラジット

(一般名:ミネラルピッチ、英名: Shilajit、学名:Asphaltum または Asphaltum puniabiunum または Asphaltum Punjabinum)

シラジットの原石

シラジットの原石

シラジットは、ヒマラヤ山脈から採取される、独特な香りをもつ茶黒色の粘性土です。
シラジットは、古代インドのアーユルヴェーダにおいて、“マハラサス”(活力を与える超物質)とされていた天然の物質です。植物ではなく、ヒマラヤ山脈の標高3000~5,000mの断崖絶壁から採取される、天然の腐植土と植物性有機物の混合物です。ヒマラヤ山脈の圧力によって、土壌から搾りだされた鉱物や植物のエキスが固まって、有機物となりました。

ヒマラヤの山の、重なる岩の層(インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ガスホール(Gushal)近く)

ヒマラヤの山の、重なる岩の層(インド、ヒマーチャル・プラデーシュ州ガスホール(Gushal)近く)

ヒマラヤ山脈は、5000万年前にインド亜大陸がアジア大陸に衝突して誕生しましたが、その際に、この場所の海に生息していた植物、プランクトン、海洋の土や塩分、その他あらゆるものが、大陸の衝突により強固に圧縮されて押しあがり、現在のヒマラヤ山脈の標高3000~5000mの場所に閉じ込められているのです。この、閉じ込められた後に何千年も保存されたミネラルの塊が、シラジットなのです。

また、この地殻変動によって、ミネラルを多く含んだ海底の土壌が、インド亜大陸の熱帯雨林を形成しました。

こうしたことにも由来して、シラジットの名は「山の征服者」「弱さを退治するもの」という意味を持ちます。

このようにシラジットは、洞窟や碧眼、岩石の割れ目などに多孔性の鉱石の固まりとして、あるいは、地上を覆う層の形で存在するため、シラジットを採取する人々は、ヒマラヤの山の崖に垂らしたロープにぶらさがり、岩の割れ目に手を入れて、シラジットの塊を採取します。

シラジットの成分

シラジットの成分としては、80種類以上の天然ミネラルと、フルボ酸、フミン酸など*8)が含まれています。現在知られるところでは、84種の微量元素とフミン質が含まれるとされます。またフミン質(腐食質)*8)は、他の物質に例を見ないパーセントでシラジットに含まれています。
これは、ほとんどすべてのミネラル分に当たる上に、同時に摂取した他のハーブの効果を身体に浸透させ、増殖させる効果があります。さらに、体内奥深くの毒素を排出する効果もあります。

商品化されたシラジット(商品パッケージの中身)

商品化されたシラジット(商品パッケージの中身)

  • * 注8)
    ・フミン質(腐植質):陸上では、植物などが微生物による分解を経て形成された最終生成物。暗黒色ないし暗褐色を呈した高分子物質。
    ・フミン酸:フミン質のうち、酸性の無定形高分子有機物。
    ・フルボ酸(fulvic acid):植物などが微生物により分解される最終生成物である腐植物質のうち、酸によって沈殿しない無定形高分子有機酸。土壌からフミン酸(腐植酸)と共に抽出された後、酸を加えてフミン酸を沈殿させることで、フルボ酸を分離する。

古代医学の聖典『チャラカ・サンヒター』には、「シラジットで効果を示さない病はほとんどない」と書かれているほどです。シラジットもまた、他の強力な薬効を持つハーブ、アシュワガンダやシャタバリなどとともに、(準?)アブトゲンとされています。

シラジットの薬効

シラジットは古くから、以下のような薬効が、よく知られています。

免疫機能向上、抗ストレス、血糖値の調整、膵臓機能の向上、血液浄化、脾臓機能の向上、消化促進、代謝促進、強力な若返り、性欲増進、記憶力を高める

またシラジットは、以下のような疾病やその治療・改善に対して効果を発します。

疲労・慢性疲労、糖尿病、肥満、腫瘍、渇き、骨・神経の損傷など

シラジットの商品2つ

シラジットの商品2つ

男性の機能を高めるシラジット

さらに、シャタバリが女性の機能を増幅するのに対し、シラジットは男性の性的能力を高めると言われます。身体の健康と若返り効果に加え、アーユルヴェーダにおいては、あらゆる種類の男性の性的問題(勃起不全、成熟前射精、薄い精液、精子数の減少、尿中の精液排出など)に対して、シラジットが推奨されています。

ニーム

(Neem、和名:インドセンダン、学名:Azadirachta indica)

ニームの葉

ニームの葉

ニームは、アザディラクタ(Azadirachta)属センダン科の常緑樹で、別名「nimtree」または「Indian lilac」とも呼ばれます。よく知られる「ニーム(Neem)」という名称は、サンスクリット語の「ニンバ(Nimba)」から派生したヒンディー語名です。

急速に成長する樹木で、成長すると、背丈15m~20mにまでなりますが、まれに35m~40mまで成長することもあります。

ニームの木

ニームの木

原産地は、インド、ネパール、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、モルディブなどインド亜大陸で、熱帯や亜熱帯地方で栽培されています。また、ニームの木はイラン南部の島々でも生育しています。

ニームの木は、干ばつの対策として利用されることでも有名です。年間400~1,200mmの降雨量、年間平均気温21~32°Cで成長しますが、乾燥した沿岸地域・インド南部・パキスタンなど、干ばつが起こりやすい地域で繁栄する非常に少ない樹木です。

ニームの薬効

ニームの薬草としての利用は、アーユルヴェーダで2000年以上の歴史があります。
代表的には、駆虫薬、抗真菌薬、抗糖尿病薬、抗菌薬、抗ウイルス薬、避妊薬、鎮静薬などとして利用されてきました。

アーユルヴェーダだけでなく、イスラムの医学であるユナニ医学でも利用されてきており、主に皮膚病の治療のために、ニームが利用されました。

ニームの果実と種子からは、ニームオイルが採取されますが、特にこのニームのオイルは、健康な髪、肝機能の改善、血の解毒、血糖値のバランスのために利用されます。
また、ニームの葉は、湿疹、乾癬などの皮膚疾患治療にも利用されます。

ニームの副作用 / 摂取の際の注意点

薬草としての歴史の長いニームですが、一方で、長期使用した場合の副作用も知られています。
長期間のニームの使用では、腎臓または肝臓に害を及ぼすことがあるとされます。大人が短期間利用するには、副作用の心配はありませんが、小さな子供には、ニームオイルは毒性があり、死に至る場合もあるので、注意が必要です。
さらに、ニームは、流産、不妊症、低血糖を引き起こす可能性も報告されています。こうしたことから、ニームを利用する場合は、適正な処方ができる医師などの処方の元に、利用する量や期間に注意する必要があります。

ニームのその他の利用

ニームには、その他にも日常的に様々な利用がなされています。

  • 歯の健康のため:
    ニームを噛むことで歯を清浄にします。また歯磨き粉にも含まれています。また、歯ブラシの代わりとして、細いニームの小枝(datunと呼ばれる)を噛む習慣が、インドやアフリカ、中東の伝統社会の中にあります。ニームの枝を噛んだあとは、舌の掃除に利用します。現代でも、インドの農村部には、この習慣があります。実際に、プラーク除去や歯肉炎予防のために、ハブラシを利用するのと同等の効果があるとされています。

    ニームの木の幹と枝(リスが横たわっている)

    ニームの木の幹と枝(リスが横たわっている)

  • 洗面用品として:
    ニームオイルは、石鹸、シャンプー、バーム、クリームなどの化粧品に含まれています。特にインドで製造されるニームオイルの80%は、石鹸用に利用されています。ニームの持つ抗菌・抗真菌・鎮静・保湿作用が石鹸に利用されており、石鹸成分の40%までがニームオイルで作ることが可能です。

    ニームの圧搾オイル

    ニームの圧搾オイル

  • 動物の治療に:馬の甘いかゆみや泥熱の治療に
ニームとヒンドゥー教の祭典

ニームは、ヒンドゥー教とも非常に強いつながりがあり、インド各地でのヒンドゥー教の祭典や風習と関わりがあります。例えば、

  • アーンドラ・プラデーシュ、カルナタカ、テランガナの3つの州:
    インドのアーンドラ・プラデーシュ州 (Andhra Pradesh)・ウダギ(udagi)での祭りの間に作られるピクルス(Pachhadi)。

    インドのアーンドラ・プラデーシュ州 (Andhra Pradesh)・ウダギ(udagi)での祭りの間に作られるピクルス(Pachhadi)。このピクルスは、人生が、“悲しみ、幸せ、怒り、恐れ、嫌悪、驚き”の経験が入り混じったものだということを象徴して、6つの材料から作られている。

    ニームの花は、この地域での暦の“新年”(ウガディ:Ugadi)の日(元旦)に作られる料理 “ウガディ・パッチャディ(Ugadi Pachhadi)(=スープのようなピクルス)で使用されます。新年の元日、テルグとカンナダの 新年に、少量のニームとジャグリー (Jaggery)(=サトウキビから作られる自然の含蜜糖)が食されますが、これは、「人生は、喜びと悲しみの中にあり、苦いものと甘いものの両方を取るべきである」ということを象徴しています。
  • マハラシュトラ州:
    この州の新年であるグディ・パドヴァ(Gudi Padva)の日には、そのお祭りの前に、少量のニームジュースやペーストを飲む古くからの風習があります。
    マハーシュートラ州の新年の祭り(Gudi Padwa)

    マハーシュートラ州の新年の祭り(Gudi Padwa)

    多くのヒンズー教徒の祭りや風習では、季節的な、あるいは季節の変わり目の体調不良になりやすい時期に、利用されます。ニームジュースは、夏に盛んになるピッタを鎮めるために、飲用されます。(この地域の新年は、毎年3月~4月頃で、1年の中でも非常に暑い時期です)
  • タミル・ナードゥ州:
    夏の間(4~6月)のマリアンマン寺院での1000年の歴史を持つ伝統的祭事では、女神マリアマンの像にニームの葉と花が飾られます。
    1870年頃のマリアマン寺院(インド・マドゥライ)

    1870年頃のマリアマン寺院(インド・マドゥライ)

    タミル・ナードゥ州においては、その他ほとんどの行事や結婚式で、ニームの葉や花が装飾の一種として、また悪霊や感染症を防ぐために飾られます。
  • オリッサ州:
    オリッサ州プリーの“ラサ・ヤトラ(Rath Yatra)”の祭り。

    オリッサ州プリーの“ラサ・ヤトラ(Rath Yatra)”の祭り。ジャガナット寺が見える。(2007年)

    インド東海岸のオリッサ州では、有名なジャガナット(Jagannath)寺院の神々は、ニームの木と、他の精油やパウダーで作られています。

> インド亜大陸のハーブ V ~スリランカのメディカルハーブ