中東を原産地とする代表的な植物・作物
肥沃な三日月地帯を抱えた文明発祥の地・中東ですが、この地を原産地とする植物・作物として、以下のものが知られています。どれも、人類の歴史の中でその後他の地域でも栽培されることになるポピュラーな植物で、また人類の食生活に深く根ざした作物でもあります。
- カラスムギ(エンバク)、アマ、ベニバナ、イチジク、ザクロ など
カラスムギ(烏麦、英名:Common wild oat、学名:Avena fatua)
イネ科カラスムギ属の越年草、またはカラスムギ属の総称としても「カラスムギ」と呼ばれます。
原産地は、ヨーロッパから西アジアにかけての地域とされます。
また、カラスムギ属の中でも、和名「エンバク」と呼ばれる種は、地中海沿岸から、中東の肥沃な三日月地帯、中央アジアの地域が原産地とされます。
– エンバク(燕麦、英名:oat、学名:Avena sativa)
エンバクは、イネ科カラスムギ属の一年草。種子は穀物として利用されてきましたが、小麦に比べたんぱく質や脂質が多く、近年では健康食品としての扱いもあります。“オートミール”として全粒粉で食べられることが多いようです。
現代でも、原産地の地域には、野生のエンバクがよく見られます。
アマ(亜麻、英名:Flax または
Linseed、学名:Linum usitatissimum)
アマはアマ科の一年草ですが、園芸用のアマには多年草もあります。
大麻(ヘンプ)とはまったく別の種になります。
原産地は、コーカサス地方から中東にかけての地域で、中東やユーラシア大陸西域では古代から栽培もされていました。
アマから取れる油(亜麻仁油)は、昨今では、α-リノレンなどの不飽和脂肪酸が豊富なため、健康食品として人気が高くなっています。
ベニバナ(紅花、英名:Safflower、学名:Carthamus tinctorius)
ベニバナは、キク科ベニバナ属の一年草、または越年草。主に、紅色の染料として、また食用油の原料として栽培されています。
高さ1mほどに成長し、6~7月に花を咲かせます。はじめ鮮やかな黄色の花で、徐々に赤色に変化していきます。
原産地は、古くから栽培されていたエジプトであろうと考えられていますが、その他にも、ナイル川流域や、ベニバナの近縁の野生種の多い近東という説もあります。
古代から世界各地で栽培されていおり、エジプトでは、ミイラの布を黄色く染めるためにベニバナが利用されました。
イチジク(無花果、映日果、英名:fig tree、学名:Ficus carica L.)
イチジクは、クワ科イチジク属の落葉高木ですが、一般にはその果実を指すことも多く、“不老長寿の果物”とも呼ばれる植物です。
原産地はアラビア南部とされます。
原産地に近いメソポタミアでは6千年以上前から栽培されており、エジプトやギリシアでは紀元前から栽培されていました。現代でも、比較的乾燥した地域で、栽培されています。
イチジクの果実には、ビタミン・ミネラル類が豊富に含まれ、また整腸作用があることでもよく知られます。
便秘時の緩下剤としてや、去痰剤として、また滋養強壮を期待しても利用されてきました。
ザクロ(石榴、柘榴、若榴、英名:pomegranate、学名: Punica granatum)
ザクロは、ミソハギ科ザクロ属の落葉小高木。また、その果実のことを指す場合もあります。
原産地についてはいくつかの説があり、西南アジア(トルコあるいはイランから北インドのヒマラヤ山地)の説、南ヨーロッパの説、さらに北アフリカ(当時栄えた都市カルタゴなど)の説がありますが、もっとも有力なのは、ペルシア湾東方の「ザグロス山脈」という説です。ザグロス山脈の名称から、「ザクロ」の呼称となった(「石榴」と表記)とも言われます。
現在では世界各地で栽培されていますが、それでも中東はザクロの栽培地としてポピュラーです。
ザクロの果実は食用として生食されますが、その他にも、中東や北インド、メキシコなどでは、果肉の粒を煮込む料理があります。
イランでは、果汁を煮詰めて調味料とされます。
ザクロは、その様々な部位が薬用として古くから利用されてきました。例えば、樹皮・根皮は乾燥させ、条虫の駆除薬とされたことが、ディオスコリデスの『薬物誌』にも記載されています。果皮も乾燥させ、樹皮・根皮と同じように利用されました。
そのほか、花は出血した傷の治療に利用されたことも、『薬物誌』に記されています。