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古代の、主にヨーロッパでのハーブと人の関わりについては、旧約・新約の『聖書』にその様子をうかがうことができます。
聖書は、紀元前4000年頃のイスラエル人の伝承をまとめたものと言われ、当時のハーブや有用植物についての記述が多く確認できるものです。
旧約聖書
旧約聖書『創世記』5章~10章に登場する、有名な「ノアの方舟」の話しでは、大洪水が起こったあとの地上から、最初に、ハトがオリーブの枝をくわえてやってきたという逸話があります。
新約聖書
新約聖書に出てくる、イエスの誕生時にやってきた東方の三博士(または三賢者)は、イエスを見て拝み、乳香、没薬、黄金を贈り物としてささげたと記されています。
この贈り物の数から、博士が「三人」と言われるようになったという説もあり、これら3つの贈り物が重要であると受け取られるお話です。それぞれの贈り物は、
- 黄金:王権の象徴で、青年の姿の賢者が持参した。
- 乳香:神性の象徴で、壮年の姿の賢者が持参した。
- 没薬:将来の受難である死の象徴で、老人の姿の賢者が持参した。
とされています。
人の一生の年代に象徴されるように、老成するに従い、まるで黄金→乳香→没薬とその貴重性が語られているかのような象徴です。それだけ、乳香や没薬は当時、黄金にも増して価値の置かれていたものだということがうかがわれます。
没薬は、聖書中に17回登場します。
*乳香([英名]フランキンセンス、[学名]Boswellia carterii)
ムクロジ目カンラン科ボスウェリア属の樹木から分泌される樹脂が、空気に触れて固化したもの。乳白色~橙色の塊で、その色が「乳香」の名の由来。
焚いて香としたり、香水の香料の原料にも利用する。
鎮痛、止血、筋肉の攣縮攣急の緩和の効果がある。
*没薬([英名]ミルラ、[学名]Commiphora myrrha)
ムクロジ目カンラン科コンミフォラ属(ミルラノキ属)の各種樹木から分泌される、赤褐色の植物性ゴム樹脂。
殺菌、鎮静、鎮痛効果がある。
ミイラ作りでは、防腐処理のために使われた。
イエス・キリストの埋葬でも、没薬を含む香料が埋葬されたと言う。
ソロモンの雅歌
旧約聖書の一遍『ソロモンの雅歌』にも、ハーブについての記述が多くみられます。
男女の恋の歌といわれるこの歌には、当時の人々に知られていたハーブがうかがえます。特に、没薬と乳香は、東方の三博士の逸話に現れるものですが、雅歌の中で何度も一緒に歌われています。
愛を交わす理想的な情景の歌の中で、それにふさわしい芳しい香りを放つハーブ、そして、その愛をさらに高尚なものへと高る雰囲気が感じられる、没薬と乳香の登場です。
特に没薬は、聖書中で17回登場するうち、ソロモンの雅歌の中で8回登場します。
その1節を紹介しますと、
1:13
わが愛する者は、わたしにとっては、わたしの乳ぶさの間にある没薬の袋のようです。4:13
あなたの産み出す物は、もろもろの良き実をもつざくろの園、ヘンナおよびナルド、4:14
ナルド、さふらん、しょうぶ、肉桂、さまざまの乳香の木、没薬、ろかい、およびすべての尊い香料である。5:1
わが妹、わが花嫁よ、わたしはわが園にはいって、わが没薬と香料とを集め、わが蜜蜂の巣と、蜜とを食べ、わがぶどう酒と乳とを飲む。友らよ、食らえ、飲め、愛する人々よ、大いに飲め。5:5
わたしが起きて、わが愛する者のためにあけようとしたとき、わたしの手から没薬がしたたり、わたしの指から没薬の液が流れて、貫の木の取手の上に落ちた。5:13
そのほおは、かんばしい花の床のように、かおりを放ち、そのくちびるは、ゆりの花のようで、没薬の液をしたたらす。
当時の女性たちは、よい香りのする没薬を、小さな袋の中に入れ首から胸の間につるし、香りを漂わせていたようです。
すでに旧約聖書の時代から、ハーブは、健康や料理のためだけではなく、生活を潤わせる必需品として人々に利用されていたことがうかがえます。
その他にも、聖書の中に登場するハーブとして、
- 「シナモン、マートル、サフラン、ショウブ」
などが挙げられます。