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ハーブは、古代ヨーロッパや中近東において、祭祀や神官が儀式で取り扱う宗教色の強いものでもありましたが、それは、中世のヨーロッパにも引き継がれていきました。
中世のヨーロッパでは、ハーブの知識がアラビア世界に引き継がれた後、キリスト教と教会の力が増すにつれ、ハーブの研究は主に教会の中だけに留められます。そして一般的には、ハーブの研究においては発展が滞ったとされています。→ 中世のハーブI – 中世の定義と、ヨーロッパ中世
こうした中世の時代においても、教会の外で、ハーブの知識を保持し人々へその知識を与え、病を癒してきた人々がいました。
「中世の魔女狩り」として取り上げられることもある“魔女”や、呪術などを行う者たちです。
中世ヨーロッパ
ヨーロッパの中世期になると、修道院がハーブの研究と育成の中心になりました。病んだ人々は修道院の中で癒されることもありましたが、修道院まで行けない田舎の庶民たちは、修道院からのハーブ療法にあやかることができなかったと言われています。
こうした中、一般の市民でありながら、ハーブを扱い、自然療法の知識を兼ね備えた女性が、庶民に癒しを与える機会も多くなりました。そうした女性たちが、魔女のルーツだと言われています。
魔女たちと、魔女たちが果たした役割
魔女たちの力が大きくなってくる中で、中世末期になると、ハーブの知識を人々に与える者たちの存在を弾圧しようとする動きが増し、さらにそれに民衆も扇動される歴史となりました。彼女たち(時には魔術やハーブの知識を持つ男性のことも)は“魔女”として告発され、魔女裁判にかけられるという悲壮な流れにもなったのです。
宗教的には“魔女”とされ弾圧された歴史がありながらも、当時の魔女たちの存在は、高価な医療を受けられない民間の人々に対し、自然療法の知識を与え、病気を癒す貴重な存在でもありました。
魔女たちのハーブと儀式
魔女たちが癒しのために施した飲食用・外用としてのハーブ利用の他に、魔女たちや魔術を行う者たちは、ハーブを儀式の中でも利用しました。
ハーブは魔除けとして使われたり、また、ハーブを焚いた煙で病気を予防したりもしました。
ハーブを焚くことの薬効に加え、ハーブの香り自体に、呪術的な効果もあるとされていたのでしょう。
ハーブを焚くこの方法は、古くはエジプトから伝来したとされます。水の少ない砂漠の暑い地域で、身体を清浄に保つための風呂の変わりとして、ハーブを焚いた香りで沐浴していました。
呪術的な意味を含みつつも、実際的にはハーブの殺菌効果を利用していたことが想像されます。暑い国ながらの知恵が、歴史の中で中世ヨーロッパにまで受け継がれていったのです。
魔術の中で、また魔女たちはさまざまなハーブの利用法を行っていましたが、例えば、以下のようなものが挙げられます。
インフュージョン(infusion:煎じ液)
お湯を注いで煎じる方法ですが、魔女たちは煎じる前のハーブに魔法をかけ、冷まして濾過したハーブを秘薬としたといいます。またさまざまなハーブを調合して調合液ともしたようです。
これらは、儀式の中で、また病気を癒すために使用されました。その多くは飲用でしたが、外用として皮膚に塗布したり、お風呂に入れて沐浴する方法もありました。
ポーション(potion:妙薬)
ポーションもまたインフュージョンと同様に、調合液・ハーブティーのことです。ポーションは「液状で服用する薬(または毒)」という意味で、「水薬(みずぐすり)」や「水剤(すいざい)」と呼ばれることもあります。
魔術用として”ポーション”と呼ばれるものは、インフュージョン(煎じ液)から作られると解釈される場合もあります。
魔術用に作られるポーションは、月の位相に従って適切な期間を選び、魔術的効果のあるハーブが選ばれました。伝統的に釜で煎じるのがポーションです。
中世ヨーロッパで儀式に利用されたハーブ
魔女たちによる利用に限らず、中世ヨーロッパの儀式で多く利用されたポピュラーなハーブとして、ローズマリーがあります。
ローズマリー(Rosemary、学名:Rosmarinus officinalis)
ローズマリーはその名の通り、「マリアさまのハーブ」として古くから親しまれました。
古代ヨーロッパの時代から薬草として用いられたローズマリーですが、儀式で使われることも多かったのです。
特に中世になると、盛んに栽培されるようになり、当時、「魔除けのハーブ」として有名でした。
クリスマスには、月桂樹やヒイラギと共に、魔除けとして各家庭の玄関に飾られました。また、疫病が流行ったときにも、病を避けることができるとして家庭の門や玄関に飾られました。
特に中世になると、ローズマリーの精油の治癒効果が知られることになります。
薬効のみならず、その強くいつまでも残る香りは、“永遠”の象徴ともされ、結婚式や弔いの儀式にも使用されました。