大航海時代のハーブ

大航海時代のハーブI – 大航海時代の定義とその目的

大航海時代

ヨーロッパ近世を開く大航海時代と、その目的

大航海時代の定義

ヨーロッパの15世紀半ばから17世紀半ば、ポルトガル・スペインを中心にアジアやアメリカ大陸へ大規模な航海が行われた時代を、「大航海時代」と呼びます。

サンタ・マリア号

サンタ・マリア号(レプリカ):1492年、クリストファー・コロンブスによる初の大西洋横断航海のときに使われた3隻の帆船のうちの最大の船。

15世紀半ばから17世紀半ばは、同時に、歴史上では「近世」の始まりの時期にもあたります。ヨーロッパ列国による大航海が始まり、ヨーロッパと他の大陸との交流・交易が進むことで、近代的な世界が培われて行ったと言ってもいいでしょう。

大航海時代の主な航路を示した地図

大航海時代の主な航路を示した地図

そんな中で、ハーブはどのような役割を果たしたのでしょうか?

大航海時代が幕を開けたきっかけ

15世紀、地中海を制覇したオスマントルコがは、その地域を行き来する貿易に高い関税をかけました。そのため、関税を回避するために、新たな交易ルートがヨーロッパで求められるようになりました。

また一方、当時、ポルトガルとスペインでは、イスラム勢力をイベリア半島から駆逐しようとする運動(=レコンキスタ)が起こっていました。これは”民族主義”の現われと、強い国王を中心とした中央集権制度が整備されてきた結果とも言えるでしょう。
イスラム勢力による征服からの自立意識の流れから、ポルトガルとスペインが、他のヨーロッパの国々に先駆け、大航海時代を幕開けしていったのです。

レコンキスタ・グラナダ陥落

“レコンキスタ・グラナダ陥落” 1492年のグラナダ陥落を描いた油絵。中央の馬に乗った赤い人物がフェルナンド5世。

海外へ進出することによる利益は莫大なものだったため、その後、ヨーロッパ全域で航海ブームが起きました。

ヨーロッパと他の地域との交流が生まれた中で、ハーブにとっても、歴史上、目をみはる変化が生まれました。主には、

  • 東洋とアメリカ大陸から、さまざまなハーブがヨーロッパにもたらされた。
  • ヨーロッパへ持ち込まれたハーブを元に、植物研究が進んだ(これには、同時期の活版印刷の発明も、植物研究に貢献した)。
  • 航海士たちの食事をまかなうため、ヨーロッパからもハーブや食材が持ち出され、航海先(アジアやアメリカ大陸)に根付いたハーブもある。

などです。

大航海時代の終盤、17世紀には、こうしたハーブの大飛躍を受けて、著名なハーバリストがヨーロッパに出現しています(ウィリアム・ターナー、ジョン・ジェラード、ジョン・パーキンソン、ニコラス・カルペパーなど)。

大航海時代を開いたハーブとスパイス

ハーブとスパイスは、厳密には区別しがたい定義にありますが、スパイスは主に、ヨーロッパで採取できない輸入のハーブという区別もあります。

歴史を翻ると、すでに十字軍の遠征の時代から、ヨーロッパでは東方のハーブに触れ、東洋のハーブやスパイスを求める趣向が出てきていました。
それどころか、十字軍の遠征は”宗教戦争”とされますが、実際にはスパイスの獲得が目的のひとつであったとさえ言われます。

1291年、十字軍によるアッコン包囲戦を描いた油絵

1291年、十字軍によるアッコン包囲戦を描いた油絵

香りや効能が高く、輸入に頼るしかないスパイスは、古代から中世のヨーロッパでは貴重品で、当時はスパイス争奪の時代でもありました。

例えば、スパイスとして必ず紹介されるクローブやペッパー、シナモン、またナツメグなどは、”大航海時代を招いたハーブ”とさえ言われます。
インド原産のペッパーや、インドネシア原産のクローブなど、それらを手に入れるため、原産地への航路を求めて、大航海時代を生み出しのです。

また、大航海時代には、あらゆる階層の人々が、それぞれの欲望により、大海原に繰り出して行きました。身分の低い者であっても、航海により一攫千金のチャンスがあったためです。ヨーロッパで貴重品であったスパイスを求め、そうした冒険に出た野心家たちも多かったのです。
さらに、ヨーロッパ各国が、当時航路の開けたアジアでのスパイス争奪から、その産地をめぐって戦争に突入したということも、歴史に記されています。

当時のスパイスの価値は、現在の常識からすると、驚くばかりです。
例えば、金1オンス(30g)とペッパー(胡椒)1オンスが同等に取引されていました。
お金の変わりとしての取り引きもあったようです。

コショウと取り引きされるゴールド

ゴールド

ゴールドと取り引きされるコショウ

コショウ

肉食がメインのヨーロッパにおいて、防腐効果のあるスパイス(特にコショウ)は、まさに食という生存に関わる面において魅力的なものだったのでしょう。

肉料理とペッパー(コショウ)

肉料理とペッパー(コショウ)

このように、ヨーロッパの食文化に大きな変化をもたらした大航海時代に重宝されたのは、主にスパイスでした。 → 大航海時代のハーブII – 大航海時代の”三大香料”