大航海時代のハーブと、その歴史
大航海時代を華々しく飾るハーブ・スパイスの一例と、その歴史を振り返ってみましょう。
“三大香料”
大航海時代、ペッパー、クローブ、ナツメグは”三大香料”と呼ばれ、かつてマルク(モルッカ)諸島のみに集中して取り引きされていました。
1. ペッパー(コショウ)
[ インド南部マラバル地方原産 ]
殺菌・抗菌作用があるため、中世ヨーロッパの時代から料理の必需品として知られ、ヨーロッパの様々な料理に使われていました。
大航海時代には食料を長期保存するため珍重され、原産のインドへの航路が見つかるまでは、ヨーロッパでは非常に重宝されていました。
また、大航海で船の乗組員たちの食料保存のためにも、コショウは重宝しました。
ペッパーについては興味深い逸話があります。
1492年、クリストファー・コロンブスはスペインからコショウを求めて西へ出航。皮肉なことに、コロンブスがアメリカ大陸で発見しヨーロッパへ持ち帰ったのは、唐辛子(チリペッパー)でしたが、本来探していたペッパーの名を取って、レッドペッパー(red pepper)と名付けました。またスペイン人たちはこの唐辛子を、”新大陸のコショウ”と呼んだと言います(コロンブスが、インドと誤って到着したアメリカで、胡椒の1種だと勘違いした)。
今では、レッドペッパーも立派に、エスニック料理に欠かせないスパイスとなっています。
(植物学的には、ペッパー(胡椒)とレッドペッパー(唐辛子)は、全く異なるものです。)
- ペッパー=胡椒:コショウ科コショウ属コショウ(種)
- レッドペッパー=唐辛子:ナス科トウガラシ属トウガラシ(種)
2. クローブ(丁子:ちょうじ)
[ インドネシア・モルッカ群島原産 ]
チョウジノキの開花前の花蕾を乾燥させたもので、コショウ、ナツメグとともに、大航海時代に取り引きされた中心的なスパイスでした。
大航海時代の貿易により、その後、一般的に取り引きされるようになります。
中国の商人たちは、クローブの原産地を隠して交易していましたが、大航海時代の1511年、ポルトガル人デ・アブレウ(Antonio de Abreu)とセラウン(Francisco Serrao)が、インドネシアのバンダ諸島を発見したことにより、ヨーロッパにもその原産地が知られることになりました。
3. ナツメグ
[ 東インド諸島のモルッカ諸島に含まれるバンダ諸島原産 ]
モルッカ諸島の貿易権を最初に握ったポルトガル人によって、大航海時代の16世紀、リスボンを中心に取り引きされました。
後に、17世紀にはオランダがナツメグの貿易を独占していきます。
大航海時代より前のヨーロッパでは、12世紀頃からナツメグの記録があり、イスラム世界では11世紀初頭より、ペルシャのイブン・スィーナーによる記録があります。
このように、ハーブの中でも、特に、ヨーロッパで採取することのできないスパイスは、大航海時代のキーワードと言っても良いほど、この時代に大きな役割を果たしてきました。
こうして、ハーブ・スパイスへの興味とその獲得を大きな目的として大航海時代を通過し、本格的な近世の時代が幕開けしていくのです。