目次
近代の時代に、ハーブとハーブを取り巻く世界に起きた出来事としては、主に以下のようなことが挙げられます。
ハーブにおける、18~19世紀ヨーロッパの人物と出来事
1. 現代医療の萌芽となる流れ
化学合成薬の登場
現代の化学合成薬は、以下の経緯で開発されてきました。
ハーブから、[ 特定成分の単離 → 抽出 → 化学合成 ] という歴史的な流れです。
この歴史的な流れを順に見ますと、
1. 特定成分の単離・抽出
まず、ハーブに含まれている多様な成分の中から、特定の成分だけの抽出・単離に成功しました。具体的な例として、
- 1806年・・・アヘンからモルヒネの単離に成功。アヘンもモルヒネも、現代では幻覚作用のある麻薬として指定されていますが、医療においてはモルヒネは鎮痛剤として使われることもあります。
- 1830年・・・セイヨウシロヤナギから、その成分サリシンが初めて抽出される。
サリシンは後に、鎮痛剤のアスピリンを合成するための成分となります。古くから解熱や鎮痛のために使われていた民間薬のハーブでした。
サリシンの名は、ヤナギ(Salix)属から分離されたことにちなんでつけられています。
2. 特定成分を化学合成
少し時代が下ると、薬草から物質を抽出するのでなく、化学的にその成分を合成するようになりました。具体的な例として、
- 1899年・・・アスピリン(=アセチルサリチル酸)が合成される。西洋シロヤナギやメドースイート(西洋ナツユキソウ, Meadowsweet, 学名:Filipendula ulmaria )から、有効成分サリシンを取り出し、さらに化学的にその成分を変化させて、アスピリンが合成されました。アスピリンは、現代でも代表劇な消炎鎮痛剤のひとつです。
ワクチンの開発(感染予防として)
ワクチンの開発により、人々の医薬品への関心がさらに深まりました。
1796年、イギリスの医学者エドワード・ジェンナーが、牛痘の膿を接種させたのちに天然痘の膿を接種させると、天然痘を発病しないことを突き止め、このことから天然痘ワクチンが発見されました。
その後、ルイ・パスツールが病原体の培養から免疫を作るという理論を裏付けし、ワクチンが応用されていくことになります。
感染症に対し、予防という観点で薬剤が使用されるこになる大きな契機だったと言えるでしょう。
2. 自然志向の流れ(現代の代替医療へつながる流れ)
ザムエル・ハーネマン:ホメオパシーを創始
ドイツの医師であったハーネマンは、1796年、ドイツの医学雑誌にホメオパシーについての最初の論文を発表した後、1807年に発表した論文の中で、”ホメオパシー”という用語を初めて使用しました。
ホメオパシーとは、”同種療法”という意味で、病気や症状と同じ性質を持つ物質を希釈・震盪(しんとう)したものを摂取することで、自己免疫力を高め、症状を内側から押し出していく療法です。このホメオパシーに対し、症状と相反する物質を体に投与することで、症状を抑えようとする近代以降の大方の医療は、”アロパシー”(Allopathy, 逆療法/異種療法/対処療法)と呼ばれます。
先に挙げたワクチンが、抗体を作るために病原菌から作られた”物質”またはその”成分”を利用したのに対し、ホメオパシーでは、原物質を希釈・震盪することによって、物質的には原物質を残さないレベルにまで薄められたものを利用したことが、その違いとも言えるでしょう。
たくさんの種類の植物やハーブ、また鉱物や動物の一部がホメオパシーの原物質として利用されましたが、その成分そのものではなく、物質それぞれの持つ”性質”や”形態的特質”に着目したのが、ハーネマンでした。
こうした意味からもハーネマンが行ったホメオパシーは、現代まで続く植物・ハーブへの新しい視線、新しい利用法の試みと言えるでしょう。
また現在でも、ホメオパシーは主にヨーロッパやインドで、近代・現代的な対処療法と同等に、病気の治療法として選択されています。
セバスチャン・クナイプ神父:クナイプ療法を体系化。
ドイツのクナイプ神父が始め、体系化したクナイプ療法は、水の治療効果に注目し、5つの柱を基本とした自然療法の体系でした。その1つに「薬草療法」としてハーブが取り入れられています。
5つの療法は、「水療法、薬草療法、運動療法、栄養療法、調和療法」で構成され、これら5つの要素のハーモニー(調和)が大切だと唱えています。
人体の自然治癒力の大切さとともに、「人と自然は調和的な統一体」とする考え方で、近年唱えられている「ホリスティック」(=「全体的な、統合的な」という意味)なあり方を、先駆的に唱えたものでした。
ドイツの温泉地バート・ヴェーリスホーフェンは、クナイプ療法発祥の地として知られ、現在でもクナイプ療法を実践している保養地として有名です。